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8-1・わたしは、あやかしが憎いのです

「わたしは、あやかしが憎いのです」と、クルミは突然言った。


 今日は平日の午前中で、おれたちは勝手に茶道部の庵で自主学習をしていたところだった。


 そうなんだ、大変だねー、といった曖昧な共感を示すかわりに、おれは、どうして、と積極的な質問をしてみた。


「だって、あいつら、物語が完結してなくても終わってたりするじゃないですか」


 あー、実際のあやかしじゃなくて、物語の中のあやかし、つまりあやかしが出てくる物語のほう、ってことか。


 なにか事件が起きる→解決するモノが出てくる→事件はあやかしと関係あるということになって解決、というのはミステリーと似ている構造なのでそのこと自体を否定するのはなかなか難しい。


 つまり、事件が解決しても、あやかしがやられて終わり、すごくちゃんと完結する、ってわけじゃないのが問題なのね。


「あやかしがやられて、世界に平和が戻る、というでっかい物語はあまり聞いたことないな。要するに、世界観における究極の敵とか悪じゃないので、異世界系とは相性が悪い、と」


 異世界系の物語って、どうやって終わらせたらいいのかわからないため、エタってしまう、つまり完結しないまま放っておくことになるイメージのものが、ネットではけっこう多い気がする。


 ゲームだと、魔王を倒して平和になった世界に、勇者とその仲間は帰ってエンディングということになる。


 もっともそういう正統的な物語は、少なくともネット小説では多くないかもしれない。


 魔王を倒した勇者はすることがないから、国に年金みたいなものをもらって飲んだくれている、という、ベトナム戦争が終わったあとのシルヴェスター・スタローンみたいな生活をしていたり、あるいは別の異世界に召喚されて別の物語がはじまったりしたりして、ちゃんと終わらないのである。


「今度あやかしに会ったら、クルミの意見を伝えておくよ。あと、異世界系の登場人物についてどう思うか、みたいなことも」


「あやかしの知り合いって、ウルフ、いるんですか?」


「この学校にも、ふたけたぐらいはいるよ。OBも入れるとその10倍ぐらい。直接知ってるのは、こないだミドリにやられたモリタぐらいだけど、その友だちだったら紹介してもらえるだろう」


 モリタ、というのは、以前「逆さまの館」、要するに映画館へ行く途中に出てきた、おれの数少ない友だちで、ミドリに瞬殺された人物である。


 けけけ、とか興奮すると変な笑い声をあげるけど、オタク系でも似たレベルで変なのがいるから問題はない。


 部屋の隅で、聖剣の手入れをしていたワタルが、それは聞き捨てならん、と近くにやってきた。


 聖剣は、生徒会の儀式が終わったら、またそっちで保存しといて、と返してもらったので、ワタルはせっせと、思い出したときに分解して、刃をみがいたり、違う柄と鍔にしたりして遊んでいる。


「試し斬りとかできないか」


「生徒会が許可すればね。でも、生徒会のメンバー、だいたいあやかしだよ」


 ワタルは、しょぼん、として聖剣の分解・組み立てを、ガンプラでも作ってるみたいな感じで再びやりはじめた。


 今度は、鍔に近い柄のところに赤い宝玉が埋まっている、生徒会より下賜されたものとは違った柄前で、聖剣っぽさがグレードアップしたように見えなくもないけれども、ヒトが斬れない「玩具」の類であることは同じだった。


 正確には、ヒトでないものは切れる「妖刀」なんだろうけど、邪なるものが切れるから「聖剣」ということにしてあるのである。


 そのうちに、ワタルの眼帯で隠していないようの瞳が、隠してある瞳と同じように金赤目を帯びてきた。


「あー、斬りたい~~あやかし斬りたい~~」


 そんな、セックスしたがってる思春期の男子高校生みたいなことを言われても。


 とりあえず、聖剣をいじるのは一日15分まで、と、クルミはきびしく言い聞かせた。


     *


 うちの学校は、リアル授業には週に1~2回ぐらい出る程度で問題がないことになっている。


 茶道部の面々も含めて、各自が勝手にリモートで授業を、ネット環境でこなしているから、本当は科目習熟度試験を定期的にこなして、一定以上のレベルに達していると判断すればいいぐらいなのである。


 そして、たいていの生徒はリモート授業を2倍速で、春休み・夏休みや土日も関係なく消化しているから、遅くても2年のはじめぐらいには高校でやらなければならないことはだいたい終わってしまう。


 リモート中心のこんな仕組みになったのは、数年前に流行った世界規模の疫病のせいなんだけど、授業なんか2倍速で、休日にも見ればいいじゃん、とみんなが気づいたのはそれからすぐで、県内でも進歩的さと自由さでずば抜けていたうちの高校が、いつの間にかトップレベルになってしまっていた。


 おれはちなみに、3倍速で見てて、クルミほか異世界人は10倍速で授業を進めている。


 いずれにしても教室にいる必要はないため、茶道部のメンバーはだいたい庵で学習しているのである。

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