7-8・臨検の間違った使いかた
「われわれはこういう者だ! 臨検をさせていただく!」と、クルミは店中に聞こえる声で言った。
おれはそのうしろで、自分の許す限り小さくなっていた。
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『メイコから、何者かに狙われているかもしれない、という通知が入りました』と、メイコの旧友であるモウくんから連絡があったので、ミロクとワタルはおれたちよりすこし早く、空港内の「ハンバーグとカレーの店」を出た。
というよりむしろ、かなり遅れておれとクルミが店を出た、というべきだろうか。
生徒会委員のメイコが聖剣を持っているか、あるいはその行方を知っているとしたら、悪党集団であるモリワキ団に、もしそのようなものがあるとしたら、なんだけど、拉致されて拷問その他ひどい目に会うかもしれない。
次の店は「餃子とビールの店」で、店内はほどほどに混んでいて、メイコおよび追尾しているミロクとワタルの姿はなかったので、おれたちは非常手段に出たのである。
しかし、朝から餃子とビールとは、さすが国際空港の利用客と言えよう。
「えーと……◯◯高校のかたですか」と、肉づきのいい、30代なかばの雇われ店長と思われる男性は、困ったようにクルミの学生証を見た。
おれたちの身分・立場を証明するようなものは、マイナンバーカードか学生証しかないのである。
「リアル世界の危機なのです!」とクルミは言うけど、リアル世界離れをしている、つまり異世界人らしすぎるクルミの容姿と口調では、よけい怪しまれるだろう。
この店に爆弾が仕掛けられた、みたいな嘘より多少ましな程度である。
「すみません、友だちとはぐれてしまいまして、今探しているところなんです」と、おれは素人にもわかるような嘘をつき、生徒会から回ってきていたメイコの画像を、携帯端末から見せた。
おれが持っているものは学生証的な画像だったので、どうも店長が感じた胡散臭さは抜けなかったようだったけど、続いてクルミが、ちゃんとメイコを含む友だちっぽいポーズの複数人画像を見せたため、あー、なんかいたような気がするね、と納得した。
ミロクとワタルは素人の探偵なので、この店にメイコがいないことをざっくり見回して確認したら、とっとと出ていったらしい。
「忘れ物をしたかも、と、その子から連絡があったんで、申し訳ありませんがテーブルを片づけてないようなら確認させていただけませんか」
あー、うん、いいよ、と、店長はあっさり答え、テーブル係の女性にクルミの携帯端末にあるメイコの画像を見せると、あいまいなんですけど、いたかもしれませんね、と女性は答え、カウンター席に案内してくれた。
空港の利用者の中でも「餃子とビールの店」は外国人観光客がおおく、そのため逆に無個性なメイコは、砂漠の中のリスのようにうっすら記憶に残っていたらしい。
「やっぱりここは餃子とチャーハンのセットを頼まないといけないでしょうか」とクルミは聞くけど、別におれたちは食事に来たわけじゃないのである。
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メイコがいた席は、餃子とチャーハンのセットが食べられたあとがあった。
そして、ここにも調味料が机の端に並べられており、複数のガラス瓶には以下の文字が書かれていた。
「す」「そ」「ら」。
そして、小さな壺の中には、小さくパッケージされたプラスチックの袋があり、それのひとつひとつに「か」。
「ハンバーグとカレーの店」よりはわかりやすい。
しかし、メイコが食べたと思われる餃子の皿には、緑色の植物の細片と白い粒が混じったものがかけられた跡があった。
「大盛り餃子チャーハンセットを頼んで、餃子をふたつわたしにください!」
そうねえ、おれもお腹すいてきちゃったし、謎を解かないといけないからね。
おれは、餃子の皿のすみの、汚れていないようなところから緑と白の細片を集め、紙ナプキンで包んだ。
よく見たら、皿のまわりにも細片が飛び散っており、テーブル係の女性はおれたちの眼の前で、その手がかりをきれいに拭き取ってしまった。




