2-6・3人は寝床を持っている
クルミの話によると、異世界人は別に風呂とかトイレとかに入ったり行ったりする必要はないらしい。
どういう原理だかしらないけど、たしかにサブスク魔法を使えば、毎日体と服をきれいにできるし、ものを食べても排泄しなくてもいい。
それは、このリアル世界でも同じだった。
「なぜ物語の世界では入浴する必要があるかというと、このわたしの肉体に関する裸体描写を、読者が望んでいるからです。そんなもん、こう書けばいいじゃないですか」
『クルミは入浴してさっぱりすると、寝間着に着替えてゴロゴロした』
「風呂の中で、あー、わたし何やってんだろ、とか言って頭まで潜ったり、生尻を出してシャワーする描写、意味あるんですか」
しかし、読者がほとんど想定できない、エタり小説の場合は、読者サービスというより作者の自己サービスじゃないかな。
入浴シーンあったって、読者が増えるものだろうか。
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おれはその日、風呂に入って腕組みをしながら考えた。
ついでに、鏡に向かって力こぶを作ってみたり、読者がいる物語だとしたら尻を丸出しのポーズでシャワーをあびた。
さらに、風呂の床で腕立てふせとかスクワットとかをやっていると、いきなりドアが開けられて、ミナセが顔を出した。
「遅いと思ったら、何やってんですか、兄さん」と、ミナセは言った。
おれはお前の兄などではない、と怒った。
おれたちは一緒の家に住んでいるから、どちらかが相手の入ったお湯に、あとから入ることになるのである。
なお、おれたちの世界が物語だとしても、この設定に深い意味はない、と信じたい。
ここらへんは余談なので、話をもとにもどそう。
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ワタルは、もうすこしダム建設を進めたい、と言って、かあかあ、にゃあにゃあと、地図を広げながら、きらめきの湖(仮)に残ったので、すっかりきれいになったミドリと、ほどんときれいになったクルミ(なぜこの子の頭には、すぐサクラの花びらがくっついちゃうんだろう)は、自分たちが寝ているところをご案内します、と、庵の片隅におれを導いた。
玄関を入って左側には、むきだしの地面の床と、板で囲まれた小部屋があり、かつてはおれたちは薬草室と呼んで、ラクロスの道具とか、むしり取った雑草を積み上げていたのだった。
「これがわたしたちの部屋です」と、案内されたその部屋は、すっかり整理されて、横開きの戸の右側はベッドに、左側には棚と瓶に入ったさまざまな草・花が並べられていた。
「この学校の周辺には、ほかでは見られないような草が生えてたりするので、せっせと集めてるんよね。あっ、それに触ると、葉の匂いが半日取れないんよ。あっ、その花は100グラム以上摂取するとヒトは死ぬよ。あああっ、その葉は燃やして煙をかぐといい気持ちになって……」と、ミドリは説明した。
「日本の国内法的に、非合法なものがあるようなら、なるべくこっそり始末してくれないかな」と、おれは言って、三段になっているベッドのほうを見た。
「下段がワタル、中段がわたし、上段がミドリの寝床、ということになっています。この小部屋の利用に関しましては、部長および顧問の先生の許諾をいただいております」と、クルミは言った。
闇属性、というよりほぼ土属性のワタルの寝床にはハーブっぽいものが敷き詰められ、同じようにミドリの寝床には、枯れ葉。そしてクルミの寝床には。
「チョコレート、クッキー、その他お菓子の包み紙か。それ、全部自分で食べたやつなの?」
「それはともかく! こうやって、お菓子の匂いをかぎながら寝ると、とても安眠できるんですよー?」
そうだね、とても姫っぽいね。
天 (ミドリ)・人 (クルミ)・地 (ワタル)、ということなのかな。
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それからさらに数日後、短い春休みも終わりに近いある日、おれは3人に激怒した。
「まったくお前ら、何を考えてるんだ!」




