2-1・サクラの花とリアルさについて
茶道ラクロス部あらため茶道 探偵部(仮)が使用している庵の周りには、スギ以外のさまざまな草木が植えられ、季節ごとの花を咲かせたり、葉の色を変えたりすることになっている。
今は終業式と始業式の間の春休みで、サクラの花が満開だった。
ミドリの簡易バリアのおかげで、アルミサッシの窓を開けっ放しにしてもスギ花粉が入らなくなったため、昔ふうの縁側には春爛漫の日差しが、薄ぼんやりした緑色のバリアを通してさんさんと当たっていて、風もおだやかに吹いていた。
元異世界人で、ネコ属性のワタルだったら、縁側でごろごろしていてもおかしくないようなところに腰をかけ、素足(昔ふうに言うなら、生足)をぶらぶらさせているクルミがいた。
満開のサクラということは、もう散り始めている花びらも多いわけで、木の下にはサクラの花がじゅうたんのように広がっていた。
クルミのこの和みすぎる風景を見て、おれはそっと近づき、右側の適度な距離のところに、同じように腰掛けてみた。
クルミはアニメのエンディングで流れるような曲を鼻歌で歌いながら、人差し指を軽く動かしていた。
やや湿った感じの暗茶色の地面には、花びらが、メイド喫茶のメイドがオムライスに文字を書くように形をなしていた。
LOVE
もちろんそのまわりには、横長のハート形も。
「ふーん」と、おれは言った。
「扇子とかなくてもそのくらいのことはできるんだ」
「えー、見てたんですか? いつから?」とクルミは言い、集中力が切れたせいか地面のサクラの花は一部が切れて風に舞った。
その日のクルミの服は、袖なしの簡易な、ただし素材は高そうなパールピンクのワンピースに、うす緑いろのカーディガンをショールのようにはおっており、右手の軸がずれてずり落ちそうになったところを、王子のように、というよりむしろ従者のようにおれはかけ直してやった。
*
「えーと、なんかこの世界というのは、あれなんですよね、わたしが昔、その、王家の主催でやった、んー、観桜会? っていうのかな、そうそう、サクラを見る会ですよ、だけど、その、あの、えー、聞いてもらえますか?」とクルミは、まるで音声入力で作られたテキストのようなたどたどしさで話しはじめた。
「なにを?」
「えーっと、ですね。そういったわたしの記憶、っていうのかな、昔体験したことってあるじゃないですか。それは確かに覚えてて、わたしにとっては、なかったことじゃないですよね。でも、それは本当なのか、つまりリアルなのか、嘘、っていうか、非リアルなのか、要するに、単に作者が作り出しただけのものなのか、この世界に来て感じることのひとつなのです、うん」
これはたしかに、物語の中の、それもエタっている物語の中の登場人物だったクルミはそう感じても不思議ではない。
もちろん、リアルであるおれたちは、そんなことは感じたりはしない。
だがしかし、それは作者もしくは神が、感じないようにしているだけなのか、と問われるなら、曖昧なことしか言えなくなる気がする。
「イギリスのファンタジー作家であるJ.R.R.トールキンは、中つ国の5000年にわたる歴史を50年で考えて物語にしました、よね? だとしたら、わたしに関しての 記憶や体験やすべてのことは、作者が物語を作り始めてから作ったものだというふうに思っても無理はないんじゃないですか」
どうも説得力があるな。つまり、世界がいつできたかなどということは、わからないわけだからな。
「たとえば、つまりですね、あそこのところにイノシシがぶら下がっていますよね」
おれは驚いてクルミが指さしてる後ろの壁を見た。
確かにそこには 黒に近いイノシシが、腹を上にして両手両足を棒のようなものにくくられてぶら下がっている。
「あれはワタルが三日前に獲ってきたもの、ということになってるんですけど、本当はおととし獲ってきたものかもしれないし、わたしたちが話している間に作者もしくは神が作り出したものかもしれない、ですよね?」
いやちょっと待ってよ。
この学校の近くに、イノシシなんているの?
うちの学校は、神戸とか木更津にあるわけじゃないですよ。
すでにおわかりだとは思いますけど、自分のテキストには「かわいい・可愛い」という表現は出てきません。そんなことないだろ、と思われるかたは、最初から読み直してみてください。校正ミスで、あった、と発見できたかたは、教えていただければ修正します。どうしてかというと、続きはまた明日。




