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思惑

 「プラムベティ様!! お待ちくださイッ!」



 闇の城で、前を歩くプラムベティに懇願しているのはガルムボーンだった。  レベルカを肩に担いで歩くプラムベティは、そんなガルムボーンの言葉を聞きながらも、歩く足を止める事は無かった。



 「何です?  私は今からお姉様に話があります。  後にして下さい」



 「その“蝙蝠”をどうなさるおつもりでスカ!?  正か、お許しになる何て事はないでしョウ!?」



 「それを決めるのは私ではありません。  レベルカはお姉様の部下です」



 「しかシッ!」



 プラムベティに食い下がるガルムボーンだったが、二人は既にオルベルスの部屋の前まで来ていた。  そして、プラムベティがノックもせず、扉を開いた。  そこには、椅子に座り、優雅にグラスを傾けるオルベルスが不機嫌な顔で二人に目を向けていた。



 「騒々しいわね。  久しぶりに“生きのいい者”を飲んで良い気分なのよ。  邪魔をするなら殺すわよ」



 「お姉様、レベルカを連れて来ました。  それと、牡丹には逃げられてしまいました」



 床にレベルカを放り投げながら言ったプラムベティの言葉に、オルベルスは笑みを浮かべながら口を開いた。  その笑みは、全てを知っているといった風にも見える。



 「あの傷で逃げられた?  ベティ、貴女にしては“珍しい”わね。  どうせ何か考えがあるんでしょうけど」



 「何の話でしょう?」



 「まあ、次の牡丹も“出来上がった”し、オリジナルはあの有り様じゃどうせ助からないわ。  それより、レベルカはどうしたのかしら?  酷い姿ね」



 プラムベティが放り投げたレベルカを見て、オルベルスは眉を顰めながら口を開いた。  その言葉を聞いた時、プラムベティの後ろにいたガルムボーンの肩が揺れたのを、オルベルスは見逃さなかった。



 「ガルムボーンが手を出したみたいです。  彼女の独断での判断だとか。  そうでしたね?  ガルムボーン」 



 「は・・・ハイ」



 プラムベティの言葉に震えながら答えるガルムボーンに、オルベルスは人差し指を顎に当てながら首を傾げて口を開いた。



 「おかしいわね。  レベルカを仕留めろ何て言ったかしら?  運動して来いとは言ったけれど」



 「オルベルス様!  レベルカは牡丹を連れて逃走を図っておりまシタ!  これは反逆デス!」



 「本当におかしいわね、いい訳みたいな言葉が聞こえるわ」



 「ッ・・・!」



 「私は“牡丹を連れて来い”そう言わなかったかしら?  “エルディロイネ”」



 違う名を発したオルベルスは、ガルムボーンに近づくと、首を掴み、宙に浮かせた。  何処からそんな力が出るのか。  体格で言えばガルムボーンの方が大きい筈だが、鎧を込めたその重さをオルベルスは片手で軽く持ち上げた。



 「あッ・・グッ!!  オ・・・オルベルス・・・様!」



 「エルディロイネ。  この私を失望させないで頂戴。  私も、これまで仕えてくれた貴女を殺したくないのよ」



 「もっ・・・申し訳・・・!」



 「レベルカを連れて来い。  その命には従っているのでは?  それに、その名は彼女にとって不必要と思います」



 見かねたプラムベティが横から声を掛けた。  その言葉は、暗にガルムボーンには責は無いと言った意味だった。


 プラムベティの言葉にガルムボーンが苦しそうな声で答えた。  



 「プ・・・プラム、ベティ様・・・」



 「そうね。  どんな形であれ、連れて来ているなら問題ないわね。  悪かったわね、ガルムボーン」



 「カハッ!! ハッー、ハッー!  ゲホッ、ゴホッ!」



 オルベルスが手を放すと、解放されたガルムボーンはその場に蹲り、自身の首を抑えながら嗚咽した。  そんなガルムボーンを横目にプラムベティが口を開く。 



 「お姉様、一つ報告を。  西の大陸境に向かわせたパラストラがやられました」



 場の空気が静まったのを感じたプラムベティは、ここぞとばかりにオルベルスに報告を行った。  しかし、聞きなれない名を聞いたオルベルスは首を傾げながら口を開いた。



 「誰だったかしら?」



 「・・・余り気にする者でもありません」



 「で、誰にやられたの?  そのパラストラと言う者も、名があるという事はそれなりの魔族何でしょう?」



 「報告にはレディとあります」



 オルベルスはプラムベティの言葉を聞くと、グラスに入った赤い液体を飲み干した。  そして、ボトルに入った液体を空になったグラスに注ぎながら口を開いた。 



 「レディ?  知らない名ね」



 「元々ロイヤルクラウンでは手練れだったそうですが、表立っての戦果は余りありません。  実力的に幹部の部隊長クラスはあるという事ですが」



 プラムベティの言葉にオルベルスが持っていたボトルが音を立てて粉々に砕け散った。  白いテーブルクロスには赤い液体が飛び散り、朱に染めて行った。



 「人間にも“粒”が増えてきているみたいね。  そろそろ、元を断ってもいいかしらね」



 「そ、そうしましョウ!  私が指揮ヲ・・・!」



 オルベルスの言葉に蹲っていたガルムボーンが立ち上がり、興奮気味に答えた。  今度こそ自分の主人を裏切る様な真似は出来ないと、そう考えたガルムボーンは、手柄を立てる為か勢いがあった。  そんなガルムボーンを冷めた目と、溜息が襲った。



 「何も考えていない馬鹿の発言ですね。  貴女では、精々イリーナを討ち取れるかといった所です。  幹部の部隊長に会う前に死にますよ」



 「プラムベティ様、先程はありがとうございマス。  ですが、イリーナ如き私の相手になりまセン!」



 「イリーナを舐め過ぎです。  “アレ”はアンナの右腕ですよ?」


 

 冷めた態度で接するプラムベティに、ガルムボーンはプラムベティに向き直ると、何かを探る口調で声を発した。



 「舐めている訳ではありまセン。  事実を言っているのデス。  御言葉ですが・・・プラムベティ様こそ、プリミアやイルミディーテにも勝てない脆弱な者を評価しすぎデハ?」



 「その言葉がイリーナを舐めていると言っているのです。  確かにイリーナではプリミアにもイルミディーテにも勝てないでしょう。  ですが、だからと言って貴女に勝てない訳ではありません」



 「私はプリミアやイルミディーテより強いと自負しておりマス!  その私がイリーナに勝てなイト!?」



 「貴女、本当にイリーナを相手にして五体満足で勝てると思っているのですか?」



 「そ・・・そレハ・・・」

 


 「プリミアとイルミディーテは御母様の血を分けた魔族だったし、魔族には珍しい二人での連携が得意な娘達だったわね。  それに、あの二人はベティの配下。  ガルムボーン、貴女ではイリーナ相手に無傷で勝つのは無理よ」



 「むウ・・・」



 「その二人を仕留めるとなると、流石にアンナとソフィアはレベルが違うわね。  そんな者が少なくても五人。  それに、さっき言っていたレディという奴も気になるわね」



 「まともにぶつかれば、負けはしないまでも、此方の被害も甚大です」



 言いながらプラムベティは一人、別の思考を持っていた。



 (唯、恐らく二人を殺したのはアンナとソフィアではないですね。  イルミディーテの死体には腹部に穴が開いていた。  アンナとソフィアの獲物は剣の筈。  あんな穴が開く技を持っていたにせよ、切り傷一つ無いのはおかしい。  それに、レベルカがイルミディーテの死体を持っていた理由も分からない) 



 場に静寂が流れるが、それを断ち切ったのはプラムベティだった。  兼ねてから考えていた事をオルベルスへと告げた。 



 「それより、ソフィアがいない為、北の大陸の方が手薄になっています。  ブルデンバウム、そちらを落としてからでも良いと思います」



 プラムベティの言葉に答えたのはこの場にいない者だった。  部屋の扉を開けながら口にした言葉は、先程までのやり取りを部屋の外で聞いていたからこその言葉だった。



 部屋に入ってきた人物を見るなり、プラムベティは明らかに嫌悪した表情になり、ガルムボーンは顔を見せない様にその場で後ろを向いた。



 「其方は私にお任せ下さいませ」



 「誰がこの部屋に入っていいと言いました?」



 「ベティ、そう毛嫌いする事ないわ。  ビクトリア、貴女に出来るかしら?」



 「勿論。  それより、ガルムボーン?  何で後ろを向いているの?」



 ビクトリアは不思議そうな顔をしながらガルムボーンを見つめた。  言われたガルムボーンは振り向く事もせず、感情が無い声を発した。



 「私の素顔は見せる御方を選ブ。  貴女にはお見せできナイ」



 「変わった娘ね」



 「お姉様、この女に任せるつもりですか?」



 二人のやり取りを見ながら、プラムベティはオルベルスへと口を開いた。  その目は、ビクトリアを睨みつけており、明らかな敵意を向けていた。  ビクトリアもまた、そんなプラムベティの視線には気づいていながらも、プラムベティを挑発する様な言葉を紡いだ。



 「酷い言われ様ですね。  そんなに私が怖いですか?」



 「灰にして欲しいみたいですね。  お姉様の部屋が燃えてしまっては申し訳ないです。  外に出て下さい」



 「まあ、怖い。  三美凶ともあろう御方が、この程度の挑発で気分を害すると思いませんでした」



 嘲笑うビクトリアと睨みつけるプラムベティだったが、見かねたオルベルスが間に入った。



 「止めなさい、ベティ。  ビクトリア、貴女ブルデンバウムに興味があるのかしら?」



 「興味、というよりも、私のお人形達を遊ばせて上げたいのです」



 「いいわ。  ブルデンバウムに行きなさい。  落とした時には、その地を治められる様に御母様に話して上げるわ」



 ビクトリアはオルベルスの言葉にドレスを摘まんで持ち上げながら頭を下げた。



 「ありがとうございます。  オルベルス様はお話が通り安くて助かります。  それではプラムベティ様、御機嫌よう」



 部屋を後にするビクトリアを睨んでいたプラムベティに、オルベルスが言葉を掛けた。



 「ベティ。  アルメリアに話を通しておきなさいな」



 「はい。  分かっています」



 (ブルデンバウムの事ならソフィアが出て来る筈。  それに、あれ程の大国を落とすとなると、ビクトリアもお人形とやらも唯では済まない。  どちらにせよ、ビクトリアが死ねばそれも良し、ブルデンバウムが落ちればそれも良し。  一番は、両方とも消えて無くなれば・・・)



 「ガルムボーン、その姿だと不便でしょう。  少し休みなさい。  レベルカはベティに任せるわ」



 「分かり、まシタ。  プラムベティ様、よろしくお頼み申しマス」



 「さっさと行ってください。  先程から焦げた匂いがきついです」



 「うふふ。  炎を操る者の言う言葉ではないわね」



 ガルムボーンが姿を消し、残ったプラムベティはレベルカへと近づきながら思考した。



 (問題はベスキュビアの方。  あり得ないとは思いますが、ドレスお姉様とベスキュビアが───。  いや、考えすぎでしょうか。  もし、そうだったとしてガデルベルナでは二人が相手となると無理ですね。  それに、部下からの報告が途絶えたという事は“そういう事”でしょうか)



 レベルカを担いだプラムベティはオルベルスに軽く頭を下げると、部屋を後にした。  暗い廊下を自室へと向かう際、プラムベティは更に思考した。



 (ガデルベルナ一人では無理となると・・・。  動きやすいのは、お姉様のお気に入りになった牡丹くらいですか。  問題は牡丹は今、パラストラの代わりに西の大陸境に向かっている所ですね。  レベルカの話ではオリガとイディスが交代要員として向かっている。  牡丹ならどうにでも出来るでしょうが、人間達は仲間意識が強い。  援軍が来る様ですと、難しくなりますね)



 自室につき、レベルカをベッドに寝かせると、プラムベティは燭台に自らが生み出した炎で火を灯した。  そこは、闇が支配する城内において、唯一、火の灯がある場所だった。



 (お姉様は楽観的に考えてはいますが、人間達、いや、ロイヤルクラウンの抵抗がこれ程とは・・・。  戦況は芳しくないですね。  アルメリアにはいつでも動ける様、手配しておきましょうか)

 


 思考したプラムベティは、自身の瞳の色と同じ光を灯す火を見つめながら唇を噛んだ。



 (それにしても、お姉様も含めて馬鹿ばかりで頭にきますね。  これだから“純粋な魔族”は好きになれないですね)




 南の大陸ではとある魔族が大きな袋を担いで歩いていた。  そして、今にも崩れ落ちそうな廃屋に入ると、袋を投げ渡した。  大きな音と埃が舞い上がる中、暗闇から子供達がわらわらと現れた。



 「ほら、飯だ。  全く、この私を使う何て良い度胸だ」



 「ありがとーベス姉ちゃん!」



 「ありがちょ!」



 「ありがとうございます、ベスキュビアさん」


 

 魔族の女の子がベスキュビアの足に抱き着くと、ベスキュビアは心底嫌そうな顔をして女の子を払いのけた。



 「くっつくな鬱陶しい。  それに、私にじゃなくドレスの奴に言いな。  ようやく見つけたと思ったらこんな所で魔族のガキ共を世話してると思わなかったがな。  昔から変な奴だと思ったが、此処までとはな」



 ベスキュビアの視線の先には、瓦礫に腰を落とし、食料を齧る子供達に目を向けるウィンクドレスがいた。



 「成り行き。  ガデルベルナが私を探しているそうだな」



 「蛇女か。  アレもまた、特殊な奴だからな。  何れは寝蔵を変えた方がいいな」



 言いながらベスキュビアは子供達へと持ってきた袋の中から適当な干し肉を手に取り、鋭い牙を剥き出しに食べ始めた。



 「ガキ共もいる。  簡単にはいかん」



 「どうでもいいが“コレ”はどうするんだ。  放っておいても死ぬだけだろう?  喰ってもいいか?」



 ベスキュビアは干し肉を齧りながら倒れている牡丹を足で小突いた。  反応は無く、完全に意識が無いか、将又死んでいるのか、怪我の具合を見ても分からない程だった。



 「使い道はある。  “連中”への土産としては十分だ」



 ウィンクドレスの言葉に、ベスキュビアはまた袋から適当な果実を取り出すと、それをウィンクドレスへと放り投げた。  受け取ったウィンクドレスは、それを食す訳ではなく、ただ赤い果実をジッと見つめた。


  

 「ドレス、お前程の奴が本当に牙を向く気か?  何故だ」



 「私はあのクソ魔女が嫌いでね。  殺したいくらいに、な」



 「“記憶”か?」



 「さあ、な。  ただ、生まれた時からあの女は気に入らない。  それだけだ」



 「ガデルベルナやビクトリア何かはどうとでもなるだろうが、プラムベティとオルベルスネーシアはそうもいかないだろう?  あの二人の強さは異常だ」



 「私を含めて、な。  それより“連中”の中に面白い奴がいるのは知っているか?」



 「悪いが、私は封印されていたからな。  最近の外の事は知らん」



 子供達に混ざって袋を漁りながらベスキュビアは興味なさそうに答えた。



 「魔女の血を濃く継いだ女だ。  それだけじゃない、もう一人の血も入っている」



 「何?  と言う事は何だ、ダブル以上の存在か?」



 飲み物の入ったボトルを手に、ベスキュビアが目を向けた。  その目を見ながらウィンクドレスは口を開いた。



 「そうなる。  今はまだゴミに過ぎないがな」



 「何故さっさと引き入れない?  そんな奴、此方側で育てた方が得じゃないか?」



 「引き入れる、か。  お前、自分を殺しかけた女の血が入ってると聞いて、引き入れる気になるか?」



 「何だと!?  まさか・・・エスターか!?」



 口をつけていたボトルから勢いよく噴き出したベスキュビアは目を丸くした。  そんなベスキュビアを見ながらウィンクドレスは喉奥を鳴らした。



 「くっくく・・・流石に記憶にあるみたいだな。  お前が死に掛けた時、誰が助けてやったかな」



 「その隙をついて封印した奴が良く言う」



 「好き勝手暴れ回った奴の頭を冷やしてやったんだ。  感謝しろ」



 ふんっと鼻を鳴らしたベスキュビアは再度ボトルに口をつけ、残りを一気に飲み干した。  そして、袖で己の口元を拭きながら空になったボトルを投げ捨てた。



 「私より“ガルベラ”の方だろう。  魔族を何千匹も喰い散らかしたからな」



 「何万、だ。  飽きた、とかいう意味の分からない理由で自分から封印されにきた。  変わった奴だ」



 「快適そうにしていたがな。  あんな封、一瞬で破壊するぞ」



 「大人しくしている分は放っておいていい。  アレの考えている事は私でも分からん」



 「確かにな。  一緒にいても分からん奴だ。  しかし、エスターは魔女に殺されたんだろう?  そのゴミとやらに何故エスターの血が入っている?」



 「娘だ」



 「子供を産んでいたの、か。  そんなもの作るからだ。  まともにやり合えば魔女にだって勝てただろう」



 「ゴミには魔女の血も入っている。  どっちに転ぶか、それで世界が変わる」



 「第二の魔女か。  第二の戦神か。  ちょっとつまんで来るかな」


 

 背中を向けて歩き出したベスキュビアに、ウィンクドレスは言葉を掛けた。



 「殺すなよ」



 「使い物にならなそうなら、死ぬだけだ」



 「それから、お守りをしている奴も殺すな。  ソレも使い道はある」



 ウィンクドレスの言葉に、ベスキュビアは入口まで来ていた足を止めると、振り向きながら口を開いた。



 「お前、楽しんでいるだろう?」



 「私の言ったことを守れ。  また、封じ込められたくはないだろう?」



 「いちいち五月蠅い奴だ。  ああ、言い忘れていた。  プラムベティの部下が後をつけて来ていたからな、殺しておいてやったぞ。  あいつの手下だけあっていい喰いごたえだった」



 その言葉を最後に、ベスキュビアは姿を消した。  廃屋に残ったウィンクドレスは子供達を見ながら受け取った赤い果実を口にした。



 「あいつが一番楽しんでいるな」

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