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夢幻の塔  作者: ねぴあ
【深雪の塔】
14/19

雪原の主

 これまで何個も塔を攻略する中で気づいたことがある。それは各塔ごとに何かしらの特徴があるということだ。

 特徴とは難易度が簡単だとか、ある種族のモンスターがよく出るだとかそういったものでもあるが、それよりももう一歩踏み込んだ……そう、塔の性格とも言えるような何かがある気がするのだ。まるで画家や小説家が作り出した作品に個人の特色が色濃く出るように。


 そして今回、この『深雪の塔』でも同じように塔の特徴というものが存在すると……いや、いつもよりもその特徴が強いと俺は感じていた。






 バロウと話をした三日後。俺は主の一体が居着いていると言われている雪原に来ていた。

 天気は曇り。村人が途中で雪が降ってくるかもしれないと話をしていたが、今のところ大丈夫そうだ。


 ぐるりと辺りを見渡す。【スニエフ】から歩いて三十分程にあるそこは、雪原という名の通り辺り一面真っ白であった。所々枯れ木と岩があるくらいで、それ以外はただただ白い大地が続いている。


 散策を始めてそれなりに時間が経つが、未だ一体のモンスターとも遭遇していない。勿論エリアによってモンスターの遭遇率は違うが、ここまで何もいないとなると、やはりこの塔は通常の塔とは異なっていると言わざるを得ない。先日攻略した【スニエフの洞穴】も遭遇率が低かったことを踏まえると、これはこのエリアだけでなく、この塔全体の特徴である確率が高いか。とはいえさすがにそろそろ何か出てきそうだが。


 と、その時、一際強い風で辺りの雪が巻き上がる。たまらず腕で顔を覆うと、何か唸り声のような音が聞こえた。すぐに短刀を抜いて警戒する。


 風がやみ、視界が開けた後。気づいたら俺は周りを複数のモンスターに囲われていた。


 逆三角形の輪郭には琥珀色に光る瞳に敵意を示す深い眉間の皺。全身を覆う灰色の毛皮は降り積もった雪で覆われ、保護色のようになっている。体長一メートル半程の四足歩行のそいつらは、誰もが知っている獣……狼であった。

 

 名前は≪氷狼≫。一見普通の狼にしか見えないが、油断はできない。

 開戦の合図などは存在しない。一匹の氷狼が鋭い咆哮を上げて勢いよく飛び込んできたのがそれの代わりとなった。


 狼ということで機動力には優れているという予想だったが、その速度は想定内。俺は余裕を持って飛びかかってくる氷狼の爪を躱し、返しに短刀でわき腹を斬り付ける。


『ヴォウ!?』


 短刀はさして抵抗もなく、灰色の毛皮を切り裂く。氷狼は叫び声を上げて真っ白な雪の上に転がった。

 絶対ではないが傾向として、生物の毛皮などは斬撃属性の通りが良く、打撃属性に耐性を持っている場合が多い。今の様子を見るに今回もその例に当てはまりそうである。


 まだ倒せてはいないだろうが、感触的には相当な深手を与えたはずだ。それを示すように転がった氷狼は切り口から大量の血液が……一滴たりとも流れていなかった。


「……?」


 モンスターには様々な種類が存在する。しかし、狼などの生物を模したものは、基本血液が流れているはずだ。先日戦った≪スケルトン≫や前の塔の≪トレント≫などの生物ではないものは別であるが。

 だとしたら、何故血が出ない?すぐに起き上がる様子はなさそうなため、まったく効いていないということはなさそうだが。


 だが、そんなことを考える暇もなく、また別の個体が襲ってくる。次は一気に三体。次々に振り下ろされる爪と牙を捌きながら頭を回す。


 やはり()()()()弱い。

 狼ということでそれなりに速さはあるが、力も耐久力も低い。かといって特殊なことをしてくるわけでもない上に、長所である速さですら、十分余裕を持って目で追えるレベルだ。

 ボス以外のモンスターの弱さ……。これは先日行った【スニエフの洞穴】とまったく同じ特徴だ。あの時も洞窟内の敵は不自然なほど弱かったことを覚えている。


 だからこそ、警戒ができた。


 先日俺はバロウに予想ではあるが、この塔についてあることを伝えた。それは他の塔とは目立って違う三つの特徴のことだ。

 一つ目は前述した道中に出てくる不自然なまでのモンスターの弱さ。

 二つ目は中ボスがいないこと。これまでの塔だとボスの前に何体かの中ボスが存在していたが、洞穴にはいなかった。

 そして三つ目は……。


 複数の氷狼の攻撃の中に明らかに違う一撃が混じる。


 それは質量も速さも鋭さも全てが抜きんでており……その一撃が、咄嗟にかざした俺の短刀とかち合った。


 数秒の浮遊感の後、俺は雪面を勢いよく転がる。十メートルほども転がった先に慌てて立ち上がると、目の前には見慣れた黒色のアイコン。


≪氷狼の長:ローグ≫。


 三つ目は……特定のエリアを()()()移動できるボスの存在。


 眼前には全長三メートルほどもある狼。氷狼と種別は同じようだが、その体格は五倍ほどもある。また灰色の毛皮で包まれる全身をさらに覆うのは、鎧のように巡らされた分厚い氷。

 充血した瞳に敵意の光を灯し、配下に氷狼を従え吠える氷狼の長を俺は見据える。


 通常、ボスや中ボスにはそれぞれ出現場所が決まっている。それは特に目印などがあるわけではないが、これまでだと広場であったり部屋であったりと大体の広さは決まっていた。

 だが、先日倒した≪スケルトン・サーペント≫はその出現エリアが極端に広かったのだ。いや、もはや制限などなかった。おそらくあのボスは【スニエフの洞穴】内ならばどこへでも移動することができるのだろう。

 そして、これまで出現していた中ボスのような存在もなしに、急にボスが出てきたのだ。


 だからこそ、不意を突いて彼女のパーティを全滅させることができた。


 これらの特徴があると分かった時。俺はある考えをもとにこの塔が作られたのではないかと考えた。

 それは『不意をついて殺す』というもの。


 弱すぎる雑兵のモンスターの存在は油断を誘うため。中ボスがいないことは警戒をさせないため。ボスの行動範囲の広さは想定外の場所で遭遇させるため。

 もしかしたら三体の主というのも、一体一体の強さはそこまでのものじゃないと誤認させるためのものかもしれない。実際≪スケルトン・サーペント≫も≪キング・トレント≫よりは弱かったとはいえ、三体のボスの一体と考えたら十分すぎる強さを持っていた。


 まあ単純にリソースの配分をボスに集めすぎたため、道中のモンスターが弱くなったというだけの可能性もあるが、これまでの経験上、このような塔のコンセプトといっていいものは、存在すると言っていい。


『ヴォォ!!』


 ローグが咆哮を上げ突進してくる。その速さは通常の氷狼の倍以上。


 速い。思わず内心で口にしながら、迫る牙をサイドステップで躱す。だが着地後すぐに追従するように人の腕の太さほどもある爪を振りかざした。俺はその一撃を何とか搔い潜るように避け、側面をとるとわき腹を短刀で斬り付けた。

 短刀は毛皮を斬り裂く……前に外側の分厚い氷の鎧に弾かれて甲高い金属音を鳴らした。

 

「ッッ!?かった!」


 指先までじんじんと痺れが迸る。まるで鉄の塊を殴ったような衝撃に思わず体勢を崩す俺を見て、ローグは再度右腕を振り下ろす。

 

「くッッ!」


 全力で地を蹴って逃げる。一撃は俺の肩を浅く切り裂くに留まるが、取り巻きの氷狼が更なる追撃を行ってくる。

 同時に三体の飛び込み。短刀を使って二体の攻撃を防ぐが、左腕に残りの一体の噛み付きがヒットする。絞られるような痛みに顔をしかめながら、氷狼の腹を蹴って振りほどくと一度距離をとった。


 ……強い。スピードもパワーもただの氷狼とは比にならない。こういったモンスターはその分防御力がないものだが、全身を覆う氷の鎧でそれも獲得している。

 取り巻きの氷狼は単体ではあまり脅威にはならないが、複数体、そしてボスと同時に出現してくる時点で、どれだけ弱いだろうが厄介である。だからできれば先に取り巻きから処理したいが……。


 考えを中断させるようにローグが再び突進してきた。大きく跳躍した後に巨大な尻尾による叩きつけ。バックステップで避けると次は左右のステップで攪乱しながら、攻撃を仕掛けてくる。

 それを避けながらローグの後方を見るが、氷狼達は戦闘には直接参加せずじりじりと隙を伺っていた。


 取り巻きの氷狼を先に倒したいが、基本的に前に出てくるのではなく、ボスの隙を埋めるという行動をしているのが面倒だ。こちらとしては前に出て来てもらった方がかなり助かるのだが。おそらく主との能力差が激しいためこういった戦法をとっているのだろう。


 ボスの方を無理やり振り切って削ってもいいが、あのスピードだと一瞬でも目を外すだけでかなり危険だ。だとすると……。


 俺はローグの懐に潜り込むと首元を思い切り斬りつける。短刀は氷の膜を突き抜け、浅いが表面に確かな傷を刻む。全身氷で覆われているとは言え、さすがに薄い部分はありそうだ。


『グルゥゥ…!』

 

 鬱陶しそうに唸って暴れるローグ。俺はその隙に距離を取り、メニュー画面を開く。

 アイテム欄を開き、上の方にピン留めしてある中からある装備をクリックして実体化。腰にそれが収まったことを確かめてから再度距離を詰める。


 俺は武器として基本短刀を使っている。それは機動力重視の戦闘スタイルに合っているからであり、単純に手になじむという理由でもある。この世界に来て最初に偶々装備していたのが短刀だったというのもあるだろう。

 だが、そこに過度な拘りがあったり、他の武器が使えないということはない。

 短刀という武器は軽くて扱い安い反面、リーチや一撃の重さの不足という弱点も存在している。特に【新緑の塔】で戦ったトレントや、岩の塊のようなモンスターであるゴーレムといった表面が固く、斬撃・刺突属性に強いモンスターには相性が悪い。

 

 そして眼前のローグにも短刀は通りが悪い。本来ならばスピードがあり斬撃耐性が低い狼型のモンスターであるため、短刀の相性は良いはずだが、あの氷の鎧がある限り、刃を核まで届かせることはできないだろう。守りが薄い部位があるとはいえ、核があるであろう心臓付近の氷は削いでおきたい。


 だからまず、あの鎧を砕く。


 俺は腰のホルダーに隠してあった投げナイフをローグの顔面に向けて投擲。飛び道具の類はないと考えていたのか、ローグはわずかに反応が遅れ、右腕でナイフを叩き落す。その隙に相手の右側面に入った俺は両手に持つそれを掲げる。


 振り下ろすのは刃渡り九十センチ程の肉厚の両手剣。闇のような黒色で全身を塗られたその剣は、刃物というよりも鈍器に近い。刃の表面には枯れ木色の枝がうっすらと巻き付いている。

 銘は【大樹の黒剣】。前塔で立ちはだかった異形の大樹は形を変えて蘇る。


 黒剣はローグの側面に吸い込まれ氷の鎧に激突。鈍い音を響かせて表面を大きく抉った。


『ガァァ!?』


 これまでで最も大きな悲鳴を上げ、のけぞる氷狼の主。ここで一気に畳みかける。

 袈裟斬り、斬り払い、振り下ろし。攻撃は全てクリーンヒットし、氷の防御を削り取る。そして最後、全身を使った斬り上げでついにわき腹の毛皮が露出した。

 

 【大樹の黒剣】はその名からわかる通り【新緑の塔】のボス、≪キング・トレント≫から生み出された剣だ。モンスターを倒した時に入手することができる核素材……今回で言うと【キング・トレントの核】を元にして生成した。刃は先が潰れており、斬るというよりは叩きつけることに重きをおいている作りとなっている。そのため、分類は両手剣となっているが、攻撃は斬撃属性ではなく、ほとんど打撃属性だ。

 だが、打撃属性が主でリーチも一撃の威力もあるこの剣は、短刀の補完武器としては相性が良い。今回のように短刀だけでは削れない防御をこじ開けるのには最適である。


 剥げた鎧付近を狙ってもう一度攻撃を……と思ったところで、氷狼の邪魔が横から入る。

 俺はすぐさま身を翻して牙を避けると、群がってきた二体の氷狼をまとめて両手剣で薙ぎ払う。体勢を崩していた氷狼達はまともに食らい、そのまま地面に伏した。


 いける。確かにローグは強力ではあるが、攻撃方法自体はあまり多彩ではない。速度も対応可能な範囲内で、ネックだった氷の鎧もこの剣なら突破できる。取り巻きは厄介ではあるが、単純な能力値が低いのであまり意識を割かなくても大丈夫だ。数だけは多少鬱陶しいが、今のようにボスへのカバーを誘って削っていけばいい。

 それに核付近の鎧をさらに削いで直接ボスを仕留めにいってもいい。


 そんな思考を巡らせながら両手剣を構え再度踏み込む。ローグは警戒するように唸りながら両腕を振り回すが、それを避けながら側面に回り込む。

 ローグの機動力は驚異的だが、あくまでそれは直線的なスピードに関してであって、その体の大きさ故か、小回りの利く動きができるわけではない。そのため体の周りに張り付くような動きはかなり効果的なはずだ。

 そのまま相手の爪と牙を掻い潜りながら、両手剣で相手の鎧を削っていく。狙うのは核があるであろう胸部。

 両手剣は短刀よりも重みがある分、どうしても取り回しが悪くなるが、リーチがあるのはかなり大きい。短刀だともう一歩踏み込まなければならない場面でも、両手剣ならばその必要がない。

 そして六度目の攻撃がヒットしたとき、ついに相手の胸部の鎧が剥げた。


『ギャァァ!』


 悲鳴を上げながらたまらずバックステップで大きく下がるローグ。俺はそれを追うように前へ詰める。

 ここで一気に決める。これまでの経験上弱ったボスを放置しておくと碌なことにならない。倒せるときに一気に仕留めるべきだ。


 俺は突進の勢いそのままに、右肩に乗せた両手剣を剥げた胸部を目掛け全力で振り下ろす。ローグは右腕で何とか防ぐが、大きく体勢を崩した。俺はすぐさま両手剣を手放すと短刀にスイッチ。そして懐に潜り込んで短刀を胸部に突き出す。


 短刀は完全にノーガードとなったローグの毛皮に吸い込まれていき―――奥まで深々と突き刺さった。


 そしてほぼ同時。灼けるような痛みが俺の左肩を襲った。


「がッッ!?」


 細胞を無理やり引き裂かれたような激痛が迸る。驚愕しつつ肩を見るとそこに突き刺さっていたのは、人の腕程もある太さの氷柱。

 いったいどこから?俺は下がりつつ、突き刺さった氷柱を抜きながら、アイテム欄から【包帯】を選択。そのまま左肩に素早く巻き付ける。【包帯】は体力や魔力を回復するわけではないが、止血をすることで体力の低下を防ぐことができる。


 すると回復行動を見たローグが阻害しようと、口元から勢い良く三本の氷柱を射出した。

 さっきの攻撃はこれか。まさかの口からの射出に驚くが、よく考えたらこいつはただの狼ではないのだ。攻撃パターンを見切ったと勘違いして勝負を急いだのが間違ったか。


 速度は速いが直線的。俺はステップで氷柱を躱すとそのまま先ほど手放したまま、地面に転がっていた両手剣を回収する。

 剣を構え、再度睨み合う。

 

 ここにきて遠距離攻撃の追加か。速度もさることながら特に射出前のモーションがないのが厄介だ。距離があれば見てからでも避けれるが、先ほどのようにカウンター気味に放たれるとさすがに厳しい。それに今まで隠していたことを考えると他にも手札はあると思っておいて良さそうだ。

 そしてもう一つ気になるのが相手の核の位置だ。俺はローグの胸部に突き刺さったままの短刀を見て思考を巡らす。これまで俺は狼型のモンスターと戦ったことは何回かあるが、その時は大体が胸部……心臓の位置に核が存在していた。だが、ローグはその位置に短刀が突き刺さっている今でもまったく平気な顔をしている。だとしたら位置がずれていたか……それともまったく別の位置に核があるか、だ。

 

 まずは削りつつ相手の攻撃パターンと核の位置を把握する。そう決めて踏み出そうとした時、ローグが一際大きく吠えた。するとさっきまで後方にいた氷狼達が十体ほどゆっくりと前に出てきてローグを囲うように位置取り、傅くように頭を下げる。


「……?」


 そのまま眠ったように動かなくなる氷狼達。しかし、その体から徐々に何か青色の液体のようなものが漏れ出している。まるでペンキのようなそれは渦巻きながら中央に集まっていき、ローグの体に吸収されていく。

 

 真っ先に感じたのは強烈な既視感。前の塔のボス戦が脳裏に過ぎる。だからこそ俺は、その行動を止めようと地を蹴り、両手剣を大きく振りかぶる……が、活動停止していない氷狼達が肉壁となり阻まれる。

 群がる氷狼達を両手剣で吹き飛ばすが、数が多くて中央まで辿り着かない。やっと邪魔する最後の氷狼を斬り伏せたとき、中央の氷狼達は残らず姿を消しており……ただ一体ローグだけが立っていた。

 その姿を大きく変えて。


 元々大きかった体躯はもう一回り大きく。削れていた氷は蒼く色を変え、更に強固なものに。そして、背中には何か青色の紋章のようなものが展開されていた。


「……この世界のボスは絶対にパワーアップしなきゃいけない縛りでもあるのか」


 先ほどよりも格段に上がった速度で飛び掛かる氷狼の長を見ながら、俺はぼやいて両手剣を構え直した。

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