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世界一偉そうな王妃は雪の魔国に春を呼ぶ (一)

王妃が魔国の情報を集め始めて数日が経ったところで、異変が起きた。


何の問題もなく魔国の中心部まで辿り着いたと連絡が来た辺りで、王の足取りが追えなくなったのである。帰還の予定日を過ぎても、王が戻らない。伝令も、飛ばしても何故か戻らない。それは王国にとって、大きな動揺を巻き起こした。


城の中では幾らかの王に対する噂話というか、まあ、所感が駆け巡った。


「こうなるような気はしていましたよね……王様姫気質ですから……」

「陛下は実質可憐な乙女概念だから攫われても仕方ないな……」

「国王陛下、行方不明なの?絶対魔王の城に連れ去られて鎖で繋がれてるわよ!それでドッグフードとか食べさせられてるんだわ!」


どんなニッチな状況だ。


「……取り戻さねばならぬ」


王妃はひとりごちた。

声が重低音であった、滲み出るオーラが怖い。普段が黄金なら、今は濃縮された黄金がじわじわ揺らめいている。


今、国民たちは動揺が大きい。心理的大災害を受けている。

王というものは、いたらいたで別に気にならないけど、いなくなったらすごい動揺するモノの象徴みたいな感じだ。

トイレにおける予備のトイレットペーパーみたいな。鞄の中の折り畳み傘みたいな。


なかったら嫌だもんな。






夕闇の中、考えにふける王妃の部屋を、不意にノックするものがあった。


「王妃様」


公式愛妾デルフィーヌが王妃の部屋を訪れたのは、王の帰還予定日から二日を過ぎた夕方であった。もう日が落ちかけて、部屋の中は赤く染まっている。

デルフィーヌ・ブーケは本日も紫陽花の花のように装って王妃の所を訪れた。農家感は綺麗に押し隠している、流石である。


「デルフィーヌ嬢。……何か用事か?」

「何か用事か?ではありませんわよ。王妃様」


ぴしゃりとデルフィーヌは言った。王宮の紫陽花、農家の庭にでんっと育った南瓜みたいな気迫であった。じっさいカボチャみたいにふんわりしたドレスだし。


「陛下の足取りが途絶えてからもう数日が経っています。魔国で良からぬことが起こったに違いありません。早急に対策を打てとの上王陛下からの伝言です、台風の日に畑の様子を見にいくのと同じぐらいの優先度で」


それ飛ばされるやつでは?


「なるほど、そなたは伝令か。上王陛下は他になんと言っておられた」

「できることをできるようにせよと、王妃様に」

「なるほど」


アドバイスがない。クソ上司である。

いや、だが上王は既に政治の第一線からは引いている。状況が正確に分かっているかも怪しい、ろくなアドバイスが得られずとも仕方がないか。


「……上王様は、王妃様の今までしてきたことの結果として、なんとかなるだろうと。困難は伴うとは思うがと付け加えられてもおられましたが」

「ほう?」


当てにならない占い師みたいなこと言うよな。


「それはありがたいことだ」


しかし、ヴィクトリアは唇の端を持ち上げて微笑んだ。美しい笑みであった。


上王グレゴワールは名君として名高かった王だった。もっとも、ちょっと息子に甘過ぎてフレデリックがああ育ってしまったきらいはあるが。

彼が統治していた頃は未来を当てるような様々な政策に、『予言王』だとか『予知王』だとか言われていたほどだ。


その彼がそう言うのだ、これはきっと幸先がいいのだろう。


メンタルが強靭なヴィクトリア・ウィナー・オーストウェンは占いのいいとこだけしか聞かないタイプであった。困難を伴うだろうが、のところはガン無視した。

ポジティブ覇王ウーマン。


ーーその時、窓をコツコツと叩くものがあった。


伝令のトビネコであった。

年上太め男性が性癖、ミレイユ・ユペール嬢があれから後も魔国の国境線辺りに陣取り、こうして連絡を寄越してくるのである。

悪魔猫はふよふよと飛んできてヴィクトリアの足元にぽとりと書簡を落とす。ご褒美として煮干しをやるとめっちゃ食べる。かわいい。


ぶにゃああああ。と低音で鳴く。それでもねこはねこなのでかわいい。


ヴィクトリアは猫を一頻り撫でてやってから手紙を開いた。


『王妃様へ

国境線よりお便りしております、ミレイユです。本日も豪雪です……髪が凍りそうです、死にそうです。今日はシチューを食べました、おいしかったです』


日記か?


『さて、本題なのですが……国境線周りで、少し怪しげな動きがあります。

魔国へ、石油が……魔石油が多く運び込まれつつあります。我が国からの密輸分もありますし、様子を見るに様々なところから魔石油が運び込まれている様子です。

あれは基本魔法を使うエネルギー源ですが、最近は我が国の錬金塔の制作した武器の燃料となったり、攻撃的な汎用性の高いものです。それがこうも大量に集められているとなると……わたくしには不穏な想像しかできません』


ミレイユの手紙はそこで一段落した。そこから先は筆跡がやたらと乱れている。


『もしかして、戦争が起こるのではないですか……!?』


ああ、確かにそうかもしれない、とデルフィーヌ・ブーケは考えた。これを書いた娘もまた、この美しい国が戦争に巻き込まれるのを恐れているのだろう。怖がっているのだろう。


『そうなると、く、国中のぷにぷにの男性が一網打尽になるのでは!?みんながシェイプアップして痩せちゃって世界中から脂肪が消え去るのでは!?その時にわたくしはどうしたら……』


そっちかあ。


デルフィーヌは咳払いして王妃を見た。


「とにかく王妃様……あちらの国に魔石油が集められている状況、見過ごせませんわ。

陛下は魔国から戻らず伝令もこない、あちらの国は戦力を集めている……それが行き着く先なんて、この娘の言う通り、一つではありませんの。王を人質とした、戦争です。

生存競争ですわ。平和な畑にハーブを撒こうとしているのです、奴らは」


本来育ててた植物が枯れる迷惑なやつー!

いよいよ最終章です、よろしくおねがいいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後油断したー! まさか平和な畑にハーブとは!(笑) なんて素晴らしい喩え(笑)
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