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シェロが私の後についてきた。
「…………。」
「なあ、弟と一緒に勉強して、ずっと一緒にいればいいんじゃねーの?」
「それはダメ。それじゃ、あの家にいられない。」
別に、勉強するのが嫌な訳じゃない。成績だって、ヒロと大きな差があるわけじゃない。私だって、あんなド田舎に一生いるなんて嫌だ。でも、捨てられない。捨てて行けない。
「そんなに家から離れるのが怖いのかよ~?」
「怖いよ……。私には、お父さんの記憶がほとんどないの。忘れたくないって想いだけが残って、記憶だけが消えた。もし別の場所に住んだら、きっと…………もっともっと忘れちゃう気がする。」
ヒロはもう、私の事なんかどうでもいいのかな?あの家の思い出も、お父さんの記憶も、お母さんも…………そんなに簡単に捨てて行ける?
「リンは…………俺と隼人に出会った事、後悔したか?」
「は?後悔なんてしないよ?」
「良かった!じいさんの家と同じで、新しいもの入れたら古いものの居場所がなくなるのかと思った!」
シェロは笑顔で言った。古いものの居場所が無くなる?忘れていくってそうゆう事かな……。
「俺と隼人のせいでお父さんの記憶が消された~!なんて怒られたら嫌だもんな~!」
「そんな事で忘れる訳ないでしょ~!」
そんな事で忘れる?そんな訳ない。他人のせいで、お父さんの記憶が消えたりしない。別の場所に行ったからって、消えたりしない。本当は…………そんなのわかってた。
じゃあ、どうしてこんなに不安なんだろう……。
「私、何だかバカみたい。一人でわめき散らして……。」
「一人じゃないよ。」
「お母さん……。」
後ろを振り返ると、そこにはお母さんがいた。お母さんと男の子がいた。
「凜だけじゃない。ヒロだって、お母さんだって、凜の事もちゃんと考えてる。凜だけが考えてる訳じゃないし、凜だけが考えてない訳じゃない。」
「そんなのわかってるよ……。」
「わかってないよ。凜はわかってない。忘れるのは捨てるとは違うよ。」
お母さんは少し自分を落ち着かせてから、私にこう言った。
「こう考えたらどう?捨てるんじゃなくて、置いて行きない。心にそんなに沢山の荷物背負ってたら、重くて自由に動けないよ。もっと軽く、自由になりなさい。」
もっと…………軽く?自由に?
「凜が家族の事を大事に思ってる事はよくわかってる。だけど、お父さんの記憶は、お母さんが預かってるから。いくらでも忘れていい。帰って来る度に思い出させてあげる。だから……凜も、ヒロと一緒に行っておいで。」
やっぱり、お母さんは頼もしいと思った。
私は一人じゃない。
いつだってお母さんがいた。いつだって私は、お母さんを頼りにしてた。
「まったく、夕方過ぎると疲れて当たり散らすクセ、大きくなっても変わらないのね~!」
そう言って、お母さんは少し笑った。お母さんはまた、私の事を小さな子供扱いしてる。もう中学生になったのに。
でも、何だか安心した。
私はまだ…………お母さんの強さに甘えてる。
「まだまだ子供でいてね。」
そう言って、お母さんは私の頭を撫でた。肩の高さが……同じくらいだった。
背の高さは同じくらいなのに、私は全然、お母さんを支えられてない。
「ごめんなさい。さっき……酷い事言って……。」
本当はね、お母さんを置いて行けないんだよ。
お母さんを残して、私達だけで、希望に満ちた気持ちで出て行くなんてできない。お母さんだけ、あの畑に一人きりで残して行けない。
「そういえば、リン、離れてみたら思い出すって事もあると思うぞ?」
「え…………?」
急にシェロが口を挟んだ。
「俺、隼人といて楽しすぎて、ずっと前の飼い主の事、忘れてた。でも……ゴミ屋敷見たら、全部思い出したんだ。」
私も、何だかシェロを見てると思い出す。まるで、狼のように大きな、ふさふさの毛並みの犬。
「お母さん、うち、大きな犬飼ってたよね?お父さんと同じ名前の!」
お母さんと犬の話をしていたら、シェロが反対側の歩道を歩く女の人が気になりだしていた。
何?あの女の人狙ってんの?
「あ、シェロ!どこ行くの?」
「あの人…………知ってる!!」
そう言って突然、シェロが走り出した。
え?知り合い?




