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俺が暖かそうな服を見つけて着ていたら、入り口に行っていたリンが帰って来た。そして、おじいさんと話をしたら…………リンが突然泣き出してしまった。
「リン、どうした?」
「な、何でもない。何でもない。」
そう言って何度も何度も涙を拭っていた。
「ごめんなさい。こんな……みっともない所見せちゃって…………」
泣いているリンにじいさんが真面目な顔をして言った。
「みっともない事なんかあるか。俺を見てみろ。この家を見てみろ。みっともないだろ。俺だってわかってる。わかってるんだよ……。」
じいさんの声がどんどん小さくなるのを、俺達は黙って聞いていた。
「母ちゃんとの思い出が捨てられん。みっともねぇってわかってても…………捨てられねぇんだ……。」
ああ、そっか。この宝の山、じいさんの思い出の山なんだ……。
いや、絶対思い出以外もあるな。
「私も、捨てたくない。捨てられたくない。」
捨てられたくない…………。
その言葉だけが、俺の中に残った。
俺は…………前にもこんな風に、ゴミの中で…………
捨てられたくない…………。
そう思っていた。
「大事な思い出を捨てるのは嫌。過去を捨てるのが、大人になる事なら、ずっと大人になんかなりたくない!」
泣き叫ぶリンの背中を、隼人が優しくさすっていた。
過去を捨てるって…………何だ?
泣いているリンの背中が…………別の女の後ろ姿に見えた。……誰?誰なんだ?
『ごめんね。ラッキー。幸せになってね。』
俺をラッキーと呼ぶのは…………誰だ?
ゴミに埋もれた部屋の窓辺に、白いカーテンが揺れていた。俺は、ずっとそれを眺めていた。ずっと、ずっと…………




