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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十一章 目の前にあっても見えない答え
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未練か一途か


 パラスからフリシアを受け取りソファの上で、腹にもたせかけて縦抱きにした。木にしがみつくこぐまみたいだ。ピオニアは隣で穏やかに微笑んでいる。


 赤ん坊の話題から互いの弟妹の恋愛沙汰の話になる。

 パラスの妹フラ王女は、ランサロード城滞在中。ゴールインすれば、弟にとって五つ六つ姉さん女房になる計算だ。ピオニアやマリティアがそんな年下と結婚すれば、楽に尻に敷くだろうが、王女はおしとやかなほうで、なかなか似合いのカップルだと思う。


 ぼうっとしているとパラスの声がした。

「ラドロー、だから知っていたら教えてくれ」

「え? 何を」

「あなた、聞いてなかったの?」


 そういえば最近ピオニアが、自分を「あなた」と呼ぶようになったなと、また考えが横に逸れる。

「悪い、何を知りたいって?」

「招待状の……送り先だ」

 パラスは真っ赤になっている。ああ、自分の挙式の話題に移ったのか。

「オレたちは呼ばれなくても出席するし、レーニア代表としては大統領を招待して欲しいな」


「だからそうじゃなくて」

 困惑するパラスを見てピオニアが助け舟を出した。

「レーニアじゃなくて、問題はメルカットなんですって、あなた。どんな公式文書も総理大臣から返答が来てるって、デルスは外務大臣じゃなかった?」

「ああ、海賊の話か。もともとメルカットには大臣が五人いた。軍務、外務、内務、宗教、産業だ。アストールが云うには、軍務外務兼任だったデルスが司法関連の内務にも手を出した。産業大臣は辞任するし、もう全部を任せようって『総理大臣』という役を作った。デルスの思惑通りだろうよ」


「ルーサーは? どこで何をしているの?」

「オレもルーサー王に式に来て欲しいんだ。知ってるかどうかしらんが、パラシーボ族は東出身だ。小さな王国を海賊に奪われてこの地に移り住んだ。デルスか? 海賊と馴れあうつもりはないよ」

「こちらにはそんな歴史があるのですね」

 ピオニアがフリシアを抱きとりながら合いの手を入れた。


 答えたくないから自分の耳は会話を聞き逃したのかと、ハンスは俯いて苦笑いした。

「引退したのか? メルカットを見捨てたのか? それともオレの知らない離宮にでも隠遁しているのか?」

 心優しいパラスの声には心配のほうが多く含まれている。


 こんな時はさっさと白状するに限るとパラスの目を見た。

「いるよ。元気にしてる。フランキからの帰りに見かけた。レーニアにいる」

「え?」


 ピオニアの胸に貼り付いていたフリシアがぴょこんと飛び上がった気がした。どうして話してくれないのと云いたそうな、妻の視線を感じた。


「レーニアの皆がメルカット人になりすまして、島に帰るだんどりは進んでいるんだ。夏には何家族か送り込むこともできる。メルカットの浜で魚獲ってる漁師の中には、メルカット女性との結婚を真面目に考えている者もいる。そうすれば正式にレーニアに入植できる」

「誰が結婚するの?」

「ギリー」

「まあ、それはステキ」


 ピオニアの明るさというか能天気さが気持ちを逆撫でした。普段ならもう少し考えて物を云うのに、作為なく続けた。

「だがな、オレたちは帰れないんだ。アイツが城に居座る限り、オレたち三人は。いや、厳密に云えば、オレだけだな。ピオニアがオレを棄ててフリシアとレーニアに戻れば、アイツはきっと、喜んでめんどうみてくれる……」


「バカなことを云うなよ」

 頭を抱えたらパラスの声が優しかった。

「やっぱりルーサー、頭いいよな。オレの一番困ることをよく知ってる。捕まって殺されることが怖いんじゃない。オレはピオニアとフリシアと一緒にいたい。ただ一緒に暮らしたいんだ。でも『大事な姫さんに島を返したかったら、身を引け』って突きつけられている。おまえのせいでレーニアは離散して、姫さんは島に居られなくなった。それでいいのか、それがおまえの愛し方かって毎日耳元で囁かれている気分なんだよ……」


「ピオニア姫はやはり島に帰りたいのですか?」

 パラスがバカ丁寧に尋ねている。

「そうですね、いつか、いずれ、帰りたいとは思いますけど、三人、家族で暮らせるなら、そのほうが大切です。このひとが死なないで、傍にいてくれることのほうが大事」

「それならこのまま、パラシーボに住んでくれたって構わない。この城に居候が嫌なら、家を建ててもいいし」

 パラスは拘りない。しかしこの点に関しては、ハンスの見解はフルクに近い。

「姫さんのいないレーニアなどレーニアじゃない、という仲間も多くて……」


「ルーサー王はレーニアで何をしているんだ?」

「何も。アストールの仲間に探ってもらったんだが、城の中で過ごしているらしい。たまに島を散歩する。かなりぼうっとしていて、尾行しても気付かない」

「島を統括しているのか?」

「他に住んでいる者はいない。メルカット人入植者は皆帰国した」

「護衛は?」

「兵はいないらしい。城内に従者が数人」

「何だ、それ?」


「レーニア船で取り囲んで上陸し、ルーサーを追いだす手も考えてみた。フルクがいうに、大型船が六隻あれば、海賊が統制しているメルカット海軍にも勝てるそうだ。とはいえ造船時間がない。船をこさえる間に、東国からもっと買われたらキリがない。今回の決闘沙汰で、フランキの国王と仲良くなれたんだが、サリクトラ、フランキ、レーニア連合軍を作っても、東国船の性能にはすぐには勝てない」


「軍備増強合戦ほど愚かなことはないわ。みんなの生活の負担になり過ぎる。国庫にお金があるわけでもない。レーニアには無理よ。ルーサーに新しく恋人ができるまで、余所で暮らすしかなさそうね。みんなには島に帰ってもらって」


「新しく……恋人?」

 男二人は顔を見合わせた。

「無理だろう」「無理だな」

「どうして? ルーサーだって健康な大人の、魅力的な男性じゃない、きっといい人に巡り合うわ」

「おまえ……」


「私がこんなに幸せなんだから、ルーサーにも幸せになってもらわないと困るの。ねぇ、フリシア」


「女って……」

 云い澱んだパラスにハンスが言葉を継いだ。

「恐いだろ?」

「ああ、残酷というか……」


「ピオニア、新しく恋人を作ろうと思ったら、レーニアなんかに住まない」

「どうして? ルーサーはもともとレーニアが好きよ? この世でたったひとり、レーニアに住めるメルカット人なの」

「それはおまえがいたからだろう?」


「今でも待ってるんでしょう、貴女のこと」

 パラスが云い難いことを口にしてくれた。

「私を……待ってる?」

「ああ。おまえが戻ってくれるなら、メルカットなんていらない。レーニアで、ふたりで暮らそう、子どもの頃のように。木こりなんかとは別れて帰っておいで。そういう意味じゃないか?」


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