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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十一章 目の前にあっても見えない答え
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娘のいる生活は


 二、三日してやっと、ハンスは赤ん坊を抱く妻との暮らし方に慣れた気がした。

「べたべたし過ぎないほうがいい、母子の間には割って入れない」というのが本音だ。


 二人寝するにはピオニアの身体はまだまだつらそうだし、二人寝といっても三人寝だ。となると真夜中に突然泣き声で起こされる。女の子だというのに、張り上げる声は湖まで届きそうだ。

 おむつの取り換えなら何とか手伝えるが、おっぱいじゃどうしょうもない。習った通りに抱き上げてあやしてみても、結局はピオニアが相手しないとだめなようだった。


「おまえは大丈夫なのか?」

 出産後逞しく、悪く云えば少し態度がでかくなったように感じられる妻に訊いてみた。

「大丈夫よ。産む時は身体中の骨がはずれるかと思ったの。でももう元の位置に戻ったわ。赤ん坊は外に出ても自分の一部みたいなのよ。分身ね」

「男には一生理解できない感覚だな」


「そうそう、パラスったらフリシアに会いに来てくれないの。あなたが帰ってくるのを待ってるんだと思ったけど、違うのね」

「テレくさいって」

 恋愛沙汰全てに初心(うぶ)なパラスには、赤ん坊でさえ赤面させられる対象なのだろう。「私たちは恥ずかしいことをしました」という証拠であることは否定できない。


 リルカ姫とソファに座ってもじもじする王様はじれったくも可愛らしい。

 自分もそうだったろう、マリティアの前で。ルーサーもそうだったのだろう、ピオニアの前で。

 許嫁、婚約者、公認の仲という云い訳が欲しくなるのもわかる。王や王子の恋愛は衆目に晒される国事だ。

 花を持って行きなさい、食事にご招待しなさい、狩猟に、避暑に。親や取り巻きに云われてレールに乗って話が進んでいく。それが確かに楽だった。自分で恋愛を進めることと比較したら格段に。

 王が面と向かって振られるのはどれ程の苦痛だろうか。

 

 ピオニアが横になっている間にフリシアを抱いて庭に出た。

 最初は、「娘よ、目を醒まさないでくれ」と願ってしまった。泣きだしたところでどうしようもなく部屋に戻った。

 でも何日か続けていると、目覚めても泣かなくなった。薄茶色の目をぱっちりと開けてじっと見つめる。見えているのかどうかはよく知らない。白目は青いほど澄んでいる。

「フリシア、お父さんだよ」

 柔らかく抱きしめた。


「どうしたらいいか、教えてくれないか?」

 庭をそぞろ歩きながら、ピオニアにも、幸せいっぱいのパラスにも話せていない、レーニアの先行きを娘に相談した。

「これ程途方に暮れたことは初めてなんだよ。いつもはもう少しカッコ良くしてられるんだけどな」

 苦笑するとフリシアは「天使の微笑み」を見せた。

「そうだよな、何とかなるよな?」

 根拠はないが幸せな気分にしてもらって、ハンスは庭の散歩時間を楽しみにするようになった。


 フルクへの謝意、ランサロードの森のジンガとの連絡、アストールとのやりとり、ジャレッドへの詫び、サリウの見舞状、手紙を書くこと以外にハンスのすることは余りない。

 森へ戻ってジンガと今後の話をしなくては、と思っても、次の策が思い浮かばないままだ。ピオニアとフリシアはまだここにいたほうがいいと、つい行動がおっくうになってしまう。懸案事項の圧力とフリシアという名の幸せの重さの間でハンスは足踏みしていた。


「フリシアの機嫌はどうだ? パラスに会わないか? こちらから王に謁見を申し込もう」

 パラスは赤子におろおろするところを見られたくないと、リルカ姫も王太后さまも同席させなかった。

 王の居間に落ち着くと、パラスはフリシアを肘にのせて「ちっちゃいんだなあ」と呟いた。

「おまえが大きいんだ」

 と大人三人で笑った。


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