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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十一章 目の前にあっても見えない答え

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メルカットからパラシーボへは

この小説はフィクションです。


使われたという歴史的記述があったり、18世紀の絵画に描かれていたりしますが、異世界の話と捉えてください。



 ハンスが起きるとフルクが眠っていた。かけてくれていた毛布を船底に転がっている友人に返した。

 馬を入手してパラシーボ城まで駆けるというオプションがちらりと頭を掠めたが、自分の空腹もどうにかしなけりゃならない。食料を用意してその間にフルクが目を醒ますことを期待した。

 

 浜に上がるとメルカット東港は見違えるほど活気があった。一年前、ねずみを胸にひそませて舫い綱を伝った時は、軍の船員以外人っ子一人いなかった。

 今では、海には漁船も増え、陸には浜と森の間に馬車道ができ、八百屋、料理屋、釣り道具屋、酒場に服屋、何でもある。

 

「民の力ってのは、すごいよな」

 ハンスは声に出して云ってみた。「民草」と貶して呼ばれるが、ある意味では褒め言葉かもしれない。本当に雑草のようにどこへでも根を張り強く生きる。

 アストールの作戦で集まった民衆たちも、家業に戻った者もあれば流民のままの者もある。新天地で店屋を始めた者もいただろう。

 デルスが強いた徴兵制度のせいで、一般のメルカット人が船に乗らなくてはならない。そんな自宅から離れる男たちを慰め、必要な物は港で手に入るようになったということか。


 繁盛している肉屋にさしかかってハンスは足を止めた。昨日の今日だ、自分の肉体のことを肉屋に訊くつもりはないが、何か怪しい取引でもされてないか行列する男たちを眺める。生肉よりも保存のきくハムやソーセージを買う客が多い。

 自分の番が来て、ソーセージの煮込みでも作ろうかと思いつき、半ダースほど頼んだ。

 八百屋で玉ねぎとじゃがいも、道具屋で鍋を手に入れた。

 船の傍の砂浜に枝を組んで火を起こし、海水で煮立て、フルクを待たずに好きなだけ食べることにした。


 真昼の光がさんさんと当たり、フルクは思ったより早く目覚めた。

「おい、オレのもあるんだろうな?」

 と云ってむくりと起き出すと鍋の中を覗いて、

「おまえ、もう早速肉屋に行ったのか?」

 と笑った。

「行くには行ったんだがな、わからずじまいだ」

「だから然るべき人にちゃんと習えって」

「ああ、そうする。何か腸詰めの皮をサービスしてくれたみたいなんだが、狩りする予定もないし、作り方も知らん……」

 とそこまで云った時にフルクがブーッと煮汁を横に吐き出した。

「何だよ、そこまで不味くないだろう?」

 フルクは笑いながら咳き込みながら拭いながら、あせあせと(せわ)しない。


「生まれて初めておまえが可愛いと思ったよ」

 フルクは笑うことに集中できたみたいで、心ゆくまで高笑いした。

「いいよ、好きなだけバカにしろよ。王子なんてものに生まれると、常識外れなことばかりなんだから」

「悪い、悪い。料理が不味いわけでも、ソーセージが作れないのをバカにしたわけでもない」

 フルクはニヤニヤしながら鍋の中味をたいらげた。

「目の前に答えが転がってるのに気付かないハンスを初めて見たからよ。それだけだ」

「答え?」

「いいから片付けて、来いよ。海風のうちに北上する。パラシーボの城に行くには、国境になってる川を無視してその次の川を遡る。湖に出る。湖の奥に水門があり、運河がお城の庭に繋がってる。凪の前にその川に辿りつけたら湖まで行けるかもしれん」


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