トロイメライ
むかしむかしあるところに、小さな双子の魔女・リリィとサリィが住んでいました。
リリィとサリィは生まれた時からずっといっしょで、つま先から頭のてっぺんまで、どこをとってもそっくりそのままでした。同じように真っ赤に燃える赤毛と、うす紫の目を二つ持ち、背中にあるカモメの形をしたあざまで同じところにありました。彼女たちのそっくりさかげんといったら、お母さんとお父さんでさえ、二人の見分けはつかないほどでした。
ある日の夜のこと。
リリィとサリィが二人仲良く屋根の上で星空を見上げていると、オーロラのカーテンの向こうから、おうし座が声をかけました。
「二人とも、明日はきっと忙しくなると思うよ」
「ありがとう、おうし座さん」
星空の言葉を聞いた二人はお互い顔を見合わせ、うなずきました。リリィはうれしそうに目をかがやかせました。
「明日はきっと忙しくなるから、がんばらなくっちゃ! いいことが起こりそう!」
一方サリィは、そんな姉の様子とは正反対に、泣き出しそうな目で顔をふせました。
「明日はきっと忙しくなるから、大変だわ……。 悪い日になりそうね」
その晩、二人はベッドに戻ると、それぞれ明日を夢見て眠りにつきました。
次の日の朝。
おうし座の言う通り、お母さんが二人におつかいをたのみました。二人が近所の森へマンドラゴラの根っこを取りに行っていると、大きなくすのきの上から年よりフクロウがリリィとサリィに声をかけました。
「お二人さん、もうすぐ雨が降るじゃろう。サトイモの葉っぱを傘にしてあげるから、これを持っておいき」
「ありがとう、フクロウさん」
傘を受け取った二人はフクロウにお礼を言いました。一人分の傘の中で、二人はお互いに身をよせ合っておつかいをすませました。森から帰ると、リリィが目をかがやかせて言いました。
「森のフクロウさんのおかげで、雨にぬれずにすんだわ! いつか、お返しをしに行かなくっちゃ!」
またサリィも、疲れた顔をして、ため息をひとつこぼしました。
「森のフクロウさんのおかげで、ひどく借りができちゃったわね……。 いつか、お返しをしに行かなくっちゃ……」
その晩、二人はベッドに戻ると、それぞれ明日を夢見て眠りにつきました。
さらに年が過ぎ、ある日の昼下がりのこと。
小さな双子だった姉妹はいつの間にか大きくなり、とうとう二人が一人前の魔女として家を飛び立つ時がやってきました。箒にまたがり、集まってくれた近所の人たちに見守られながら、リリィとサリィが手を振りました。
「ありがとう! さあこれから、また一段と忙しくなるわ! そうじもせんたくも朝ごはんの用意も、これからは一人で全部やらなくっちゃ!」
「ありがとう……。ああこれから、また一段と忙しくなるのね……。そうじもせんたくも朝ごはんの用意も、これからは一人で全部やらなくっちゃ……」
その晩、二人は仲良く夜空にまい上がると、それぞれ明日に向かって旅立ちました。
こうして別々の街にたどり着いたリリィとサリィの、魔女としての新しい生活が始まりました。
「まずは仕事を探さなくっちゃ!」
「まずは仕事を探さなくっちゃ……」
「魔法薬の分量は、これでいいのかしら? もっと勉強が必要ね!」
「魔法薬の分量は、これでいいのかしら? もっと勉強が必要ね……」
「注文が多すぎて、かまどの火が追いつかないわ。ああ大変!」
「注文が多すぎて、かまどの火が追いつかないわ。ああ大変……」
「いつか私も、お母さんみたいな立派な魔女になれるのかしら……」
「いつか私も、お母さんみたいな立派な魔女になれるのかしら……」
二人はそれぞれ結婚し、子供を産み、その子供たちも空へと旅立ち、さらに長い長い年月がたちました。そしてとうとう、リリィとサリィの二人にもこの世界から旅立つ時がやって来ました。しわくちゃの魔女になった二人はそれぞれのベッドで横になると、別々の窓から同じ星空を見上げてつぶやきました。
「ああ……ようやく私もここでおしまいなのね。特別なこともない、平凡な人生だったけれど……。でもその退屈も不安も不満もいつかの悲しみも……今ではとっても素敵な思い出だわ」
「ああ……とうとう私もここでおしまいなのね。特別なこともない、平凡な人生だったけれど……。あの興奮も刺激も充実もいつかの喜びも……結局持ってはいけない過去の思い出だわ」
それから幸せな人生を送った二人はそっと目を閉じると、それぞれ旅立ちを夢見て深い深い眠りにつきましたとさ。おしまい。