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第3話

裕也を肩に担いだルスターンは、風を切るように駆けていた。

走る振動で先ほど殴られた腹部や背骨に激痛が走り、気絶してから数分で裕也は目を覚ました。


口の中が胃液の味がして、もう一度吐きそうになるが、振動で体が痛むことにより、嘔吐感は和らいだ。


裕也は体の痛みに耐えながら、どうすれば良いかと考えようとした。

しかし、腹部と背骨の痛みから苦悶の声漏らし、何かを考えるなどできなかった。






もう何時間たったのだろうか、そう思っていたが実際には痛みに耐えているせいで時間が長く感じられているだけだった。

ルスターンに担がれてから20分ほどたったころ、衛兵の詰所の前に到着した。


詰所の前で待機している衛兵にルスターンは命令して、麻袋と馬を用意させた。

裕也を麻袋に入れ、馬の鞍の後ろに荷物のように縛り付けると馬に乗り、西門に向かって走り出した。



レイヴリッヒ聖王国には門が四方一つずつあるのだが、ルスターンは聖王の命により西門に向かっていた。

西門が選ばれたのには理由がある。


その理由には聖王国の周りに存在する国が関係している。


レイヴリッヒ聖王国は人類の勢力圏の中心に位置する国である。

まずその北側の国 アルスブルム帝国。

聖王国の仮想敵国であり、実力主義の国。

そのため、自身の力ではない勇者と聖剣に依存する聖王国を良く思っていない。

裕也を北に捨て、もし帝国の者に拾われでもすれば、召喚は成功したが聖剣を抜けなかったことを知られる。

その事を外交のカードとして、使われる可能性が高い。

その理由からまず北は選択肢から無くなる。


次に東側 魔道国ノクターン。

魔術を極めようとする者達が作った国で、この者達に裕也がわたれば貴重な異世界人のサンプルとして、人体実験の後に解剖などを繰り返し、聖王国が独占している技術である、勇者召喚もしくは聖剣を抜ける存在を、人体実験などから得られたデータで量産しようとする可能性がある。

そのため東も選択肢から無くなる。


そして南側 ダスヘイム都市連合。

この都市連合は、昔勇者が役目を終え各地を回っている時に、地球の知識を教えることで発展した街などが連合となりできた国だ。

そのため、勇者に助けられたというより異世界の知識に助けられたという思いが強く、勇者ではなく異世界人を敬う国となっている。

そんな国に聖剣が抜けないという理由で追放された異世界人が接触すれば、聖王国は都市連合が敬う異世界人をぞんざいに扱い捨てた事が知られ、敵となる可能性が高い。

そのため南も除外される。


北、東、南と裕也を捨てるにしては適さない。

消去法として西が選ばれたのか?そう思うだろうがそれだけではない。

大陸の西の果てには獣王国 ギリスナダルという獣人の国がある。

聖王国は建前としては獣王国を国と認めているが、実際は獣人など人間に支配されるのが相応しいと考えている。

そのため聖王国に住む人たちもその思想に染まっており、聖王国から西に行く人は少なく、開拓もあまり進んでいない。

開拓が進んでいないことが原因となり、西には魔物がかなり生息している。

その上、獣王国までは徒歩では1年以上かかる距離がある。

人通りは少なく、誰かに拾ってもらえる可能性も無い中、1年かけて地理もまったくわからない世界で、獣王国にたどり着くことが出来るのか?

これは子供でもわかる話だ、無理だと断言できる。


聖王国は裕也を自分達の手で殺すには問題がある。

ならば自然に魔物にでも食われて死んでもらうのがいい。

それに適した場所が大陸西側だった。




裕也が馬に乗せられてから数時間。

急に馬の走る振動が止み、馬から降ろされた。


ルスターンは裕也の麻袋を取り、手足のロープをナイフで切った。


苦痛に耐えながら何時間も馬に乗せられいたため、裕也は今の状況をまったく理解できず呆けていた。


そんな裕也を見て、ルスターンが聖王からの伝言を伝える。

「偽勇者、聖王様からの伝言だ。 どこへなりとも好きに行くがいい、だが聖王国に戻ることは許さん、もし戻ってくるようなことがあるならば、お前を勇者を語った罪で公開処刑にする。 以上だ」


伝言を伝えられた裕也はルスターンに何も言い返さなかった。

ただ、ああ本当に捨てられたんだな、っとだけ思っていた。


何も言わない裕也をルスターンは見て、早々に馬に乗って立ち去った。


周りには何も無い平原。

元の世界にも戻れない。

何をすれば良いかもわからない。


何も思いつかない、そんな中ぐぅとお腹がなった。


そういえば起きてから何も食べてないな。

でも周りはただの平原、何も食べれるものはなさそうだ。

とにかく、食べれるものでも探そう。


裕也はふらふらと立ち上がろうとした。

すると地面を目に入った。

そこは荒れているが道のようなものになっていた。


そうか、あいつは道沿いに馬でここまで来たのか。

なら、あいつが走っていった反対の道を進めば、人が住んでる場所に着くはずだ。


裕也は道を歩いていく。

道があるが、本当に人がいるかもわからない道を歩く。

不安、警戒などが心の中にあるせいで、普段より歩幅は小さく、ゆっくりと進んでいった。




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