第1話
まだ眠い。
そう思いながらも、カーテンの隙間から射し込む陽光でぼんやりと目が覚める。
昨日は飲みすぎたな。
布団の中でもぞもぞと動いて、寝返りを打つ。
そろそろ起きないとなっと思い、少し頭が痛かったが起き上がった。
ぼーっとした頭で周りを見る。
あれ、なんでベットで寝てるんだ?
確か終電に間に合って、色々考えていて途中でうとうととして寝てしまったような気がするけど、ここは何処だ?
高そうな調度品が並ぶ部屋。
こんな部屋一泊何十万としそうだな、でもなんでこんな部屋に俺はいるんだ?
こんな部屋に泊まった覚えもないし、そんなお金もない。
誰かがここに連れてきた?
俺なんかをこんな良い部屋につれてくる意味もないし、もし誘拐だとしてもこんな部屋に連れてくる意味もない。
それなら他の理由・・・。
考えを巡らせるが思い当たる節もない。
そう考えていると、コンコンと扉からノックをする音がした。
「失礼します」
声のするほうを見るとそこにはメイド服を着た女性と、白のドレスを着た金髪の高校生くらいの少女が入ってきた。
少女がベットの横まで来ると「お加減はいかがですか?」と俺を心配するように話しかけてきた。
「二日酔いみたいで少し頭が痛い、あっでも少しだけだから大丈夫」
「そうですか、もしお辛いようでしたら仰って下さい。二日酔いに効く薬を用意させますので」
「ありがとう、そんなことより君は?」
「申し遅れました、私はリーラ・レイヴリッヒともうします。貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ごめん。ちょっと混乱していて名乗り忘れてた。俺は朝霧 裕也」
「アサギリ ユーヤ様・・・」
リーラと名乗る少女が俺の手をぎゅっと握ってきた。
「昨日このレイヴリッヒ聖王国で勇者召喚の儀式が行われました」
柔らかい手、髪からふわりと匂う甘い香り。
女性にこんなに近寄られたことがない裕也はかなり動揺していた。
それでもどうにか「ゆ、勇者召喚?」と聞き返すことが出来た。
「はい、そしてその儀式で呼び出されたのがユーヤ様です。ユーヤ様は召喚された時、熟睡されていましたので、この部屋にお連れいたしました」
酒を飲みすぎたのもあるけど、運ばれたのにも気がつかないで、半日近くも寝ていたんだな。
しかし、ラノベとかによくある異世界に勇者として召喚されたって状態みたいだな。
それなら魔王を倒せとか言われるのかな?
「ユーヤ様が起きましたら、お父様のもとに連れてくるように申し付けられております」
「詳しい説明をしてくれるって事かな?」
「はい、まだ勇者召喚といわれても、わからない事が多いと思いますので、お父様から現状の説明があります」
「了解、色々と知りたいこともあるし、そのリーラのお父さんの所に連れて行ってくれるかな」
「では、こちらになります」
昨日着ていたパーカーとジーンズを着たままだったので、リーラに案内されるままに部屋をでて石造りの廊下を歩き出す。
リーラの後ろを歩きながら裕也は現状について考えていた。
昨日までは、26歳フリーターで人生終わってると思っていたのだが、一夜にして勇者様か。
どうせ魔王討伐してくれって感じだろうから、それさえ終われば金も名誉も女も全て手に入れることが出来るのだろうな。
羨ましいと思ってたあの二人よりも、俺は勝ち組だな。
ざまあみろ、お前らが社畜として働いている中、俺は女をはべらせ、好き放題できる身分になるんだ。
そういえば、リーラの名前ってリーラ・レイヴリッヒって言ってたな。
この国の名前がレイヴリッヒ聖王国、つまりリーラは王女で父親は国王かな。
勇者はこの世界にとって重要な存在みたいだし、自分の勢力に取り込もうとしてくる可能性もあるだろう。
それならリーラを俺に嫁がせようとしてくるかな。
いいね、見た感じ身長は俺より10cmくらい小さいから160前半、歳も高校生くらいだろうし、胸もそこそろある。
ちょっとぽっちゃりしてるのが減点だけど、日本人にはない綺麗な金髪に可愛らしい顔。
たまんねえな、ベットで喘ぐ姿が見てみたい。
裕也がそんなゲスな考えをしていると、執務室らしき場所に到着した。
リーラが執務室のドアをノックした。
部屋の中から「入れ」と一言声がしリーラが扉を開ける。
「お父様、勇者様をおつれしました」
リーラに続いて中に入るとそこには王らしき人、その横に騎士風と魔術師風の人が一人ずついた。
「ワシがこの聖王国の王ランドル・レイヴリッヒだ。ようこそ勇者殿」
「始めまして、朝霧 裕也です」
「少し長い話になる、そちらのソファーに座ってくれ」
ソファーに座ると、王は対面のソファーに座り、リーラも王の横に座った。
「さて、急に召喚されて色々と戸惑っているだろう。 現状を説明させていただく」
長い説明だったが、やはり俺が考えていたのとそう大差のない内容だった。
魔族との戦争が起きそうになっている。
1~3年以内に魔族が攻めてくる。
魔族には魔王という存在がいて、かなりの力を持っているため、この世界の人間だけでは戦うのが辛い。
そのため対抗できる存在である勇者を召喚した。
勇者召喚は何百回と行われていて、そのたびに勇者は魔王を倒している。
勇者によく聞かれることだが、暗殺者のように勇者が単独で魔王を倒しに行くということはない。
密偵により魔王軍が動き出すのは察知できるので、相手が動いてきたら人類の精鋭達による軍でそれを迎え撃つ。
その際、人類軍が魔王までの道を開き、勇者殿にはこの世界の最大戦力である賢者4人と共闘で魔王を討ってもらう。
武術・魔術に関しても教師の準備は出来ているので、戦い方もこちらで教えることが出来る。
それに後で引き抜きに行く聖剣を持てば、魔王ともすぐに互角に戦えるようになる。
戦争までの間この国で勇者殿の全ての面倒をみる、欲しいものがあれば何でも言って欲しい。
戦争が終わった後も、勇者殿が一生不自由のない生活が出来るように約束しよう。
この話で不思議に思ったのは、何百の魔王が倒されているのにまだ魔王がいる、それはおかしいと思って聞いてみると、魔王は討伐されると百年くらいで新しい魔王が生まれるそうだ。
それなら、魔族側が攻めてこなければ魔王だらけになるのか?っといえばそういうわけでもない。
魔王は何故か8人以上にはならないらしい。
そのため何時も世界には、魔王が5~8人存在しているということだ。
人類としては全部の魔王を討伐したいのだが勇者の力をもってしても、同時に戦えるのが二人が限度らしい。
つまり勇者とは魔王を間引きする為の存在ということだ。
状況を説明された裕也は、執務室に来る前に考えていた以上に魔王討伐と言うものが簡単だと知り、顔には出さないが内心ではニヤついていた。
一番危惧していた、某ゲームのように、お小遣い程度のお金とこんぼうを渡されて魔王倒してきてねと言われなくて本当に良かった
危惧していたようなこともなく、聖剣を抜きちょちょいと修行すれば簡単に魔王も倒せる。
それだけで自分の一生が保障されるなんて、あの生きにくい元の世界は何だったんだろう?
まあいいや、王様は欲しいものがあれば何でも言って欲しいって言ってたんだ、さっさと聖剣とやらを抜いて、飯と酒と女でも用意させよう。
「状況は理解できました。俺が使うことになる聖剣というのを抜きに行きたいのですが」
「ふむ、やる気のある勇者殿で助かる。それでは聖剣の間に向かおうか」
王がソファーから立つと横に立っていた騎士と魔術師が先導をして聖剣の間に向かった。
ゆっくりと投稿しいていく予定なので、よろしくお願いします。