015 どこへでもある陰謀
「死を覚悟させた? そもそもオマエらは、死ぬことなんて屁でもないはずだが?」
片山はそう呟き、地面に転がるコマンド兵だったものを一瞥もせず、残ったふたりの兵士に忠告する。
「死ぬことが怖くない、と口では言っていても、人間は死にたくないもんだ。たいていの死が不本意なものである以上、余計にな」
シャーロットはコマンド兵と互角以上。また片山の援護もあり、霞も優位に戦闘を進めている。撤退するか、犬死するか。どちらを選ぶか。
そうして戦場に、奇妙な沈黙が流れていると、
コマンド兵の無線が鳴った。
『撤退しろ。作戦を変える』
たったそれだけの命令が、壮麗の上層部からくだされる。
「承知した……。ひとり殺られてしまったが」
『残念だ』
壮麗上層部からすれば、きっとコマンド兵すら働きアリかなにかと変わりないのだろう。使えなくなった働きアリを、いちいち気にかける連中ではない。
そして、
コマンド兵ふたりは、音もなく消え去った。
場には、片山が撃ち殺したコマンド兵だったものが残る。
「やはり、〝ジャマー〟を持っているか」
片山は冷静に、コマンド兵だったものの手からデバイスを抜き取る。すでにタクシーは逃げおおせているが、片山は気にもしていない。なぜならば……。
「コマンド兵以上に与えられるジャマーは、素粒子ドローンを錯乱できる。コイツらは隠密に動くことが多いし、ドローンはサイバー・ギアに悪影響を与えるしな。さて、コイツを使って、安全にホテルまで逃げよう」
冷淡な態度は、生き残るため。百も承知な話だった。
*
壮麗グループ本社取締役室。そこで、寛太たちの父が部下から報告を受け取っていた。
「なるほど。コマンドがひとり殺られたと」
「えぇ。息子さんと、その友人が殺ったようで」
「さすが我が息子。さすが無効化能力」
「取締役、ひとつ疑問なのですが」
「なんだ?」
「無効化能力は、トリック・スター的な力。そんなものを、治験班に回すのはおかしな話だと思いまして」
「あぁ。私が治験班に渡したからな」
「……?」
「これは計画の一部だったのだよ。良いか? 良く考えてみろ。私の子どもに、ピンポイントで無効化が渡ると思うか? 治験を受けたがる者は多い。異能を得られるメリットがある上に、協力費もそれなりに払っている」
「と、言いますと……」
「最初から、あの力は子どもに渡す予定だったのだよ。私の娘はカテゴリー5の優等生。息子にも無効化があれば、兄妹で壮麗の優秀な盾になってくれるだろう?」寛太たちの父は、舌打ちする。「しかし、あの英国のスパイの所為で台無しだ。どうしても、私がイギリスの壮麗グループの社長になるのが気に食わないらしい。まぁ、当然だがな。今、日本では異能事件や発砲事件、殺人が相次いでいる。その仕掛け人のひとりは、私だからな」
寛太たちの父は、冷徹なビジネスマンだ。出世主義者かつ、有能で、いわゆる『ひとりの死を悲劇と思えても、100万人の死を統計上の数字としか見られない』類の人間である。
「ともかく、コマンドは一旦引かせた。ヤツらを消耗したくないからな。〝エリート兵〟を出しても良いのだが、まだ時期尚早だな。だいたい、エリート兵は壮麗PMCに7人しかいない。しかも連中は、海外で暗躍しているから、日本へすぐに戻ってくるのは難しい。さて……どうしたものか」
「では、〝ヒューマノイド〟を展開しても良いのでは? コマンド兵よりは実力で劣りますが、彼らは所詮プログラミングの産物。敗れそうになれば、自爆して道連れにしてくれるでしょう」
「そうだな。よし、当面の目標はシャーロット・テイラーだ。アイツを消せば、子どもたちも考えを改めてくれるかもしれない。考え直してくれなければ、私は妻に顔向けできんよ」




