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犬が吠え、猫が導く  作者: ロース山


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3/3

とある導きの神と守り神達の宴

 ワタクシは神と崇められておりますが、名はありません。

 勝手にワタクシを神扱いしているくせに、名前を与えてくれないのはどうかと思います。

 せっかくなら素敵な名前が欲しいです。

 とは言え、自分がオスかメスかワタクシ自身が分からないのですから仕方がない気もします。

 ワタクシは気がついたら生まれていて、どこから来てどこへ行くのかワタクシ自身もわからない。

 そんなワタクシを認識し崇めてくれるだけで、もしかしたらありがたいことなのかもしれません。だけどやはり寂しいことは寂しいのです。

 ワタクシを神と崇める群れの中で、内心ワタクシを神扱いしない彼女の話をしましょうか。

 彼女はワタクシに全く期待しません。 むしろ、ワタクシを拝み倒す両親や家の者たちを恥じていました。

 そんな彼女の事が好きです。

 ワタクシは、不確かなモノを頼りにせず、自分でなんとかしようとする彼女の姿に憧れを抱いているのだと思います。

 そんな彼女がワタクシの主な住処、ネコの祭祀場に来てそこに住むことになったのは驚きのことでした。

 彼女もそれが不本意であることはそのぶすっとした表情から見て取れました。

 どうも彼女の体調が芳しく無く、療養地として選ばれたのがここのようです。

 それは悪手だと思いました。

 彼女の両親は賢く先見の明もあり、ワタクシを崇める群れを更に繁栄させてきました。

 しかし、その自分達の力で達成したこともワタクシのおかげとする一面がありました。

 いえ、おかげというよりワタクシの実力だと自分たちを卑下さえしていた。

 彼らはワタクシに依存しています。

 そして彼らは彼女にもそれを押し付けようとする悪癖があります。

 彼女はどちらかと言うとワタクシより狼が好きで、以前彼女の両親は娘から狼を模した指輪やその他のグッズを取り上げようとしていました。

 それを見ていたワタクシは不愉快になり、気がついたら両親の無意識を操りそれを阻止していました。

 そう。ワタクシのことを崇める者達はワタクシのことを『導きの神』としていますが、実は操ることもできる怪しげなモノなのです。

 そんな一面はしれっと隠すに限ります。

 奥の手は隠しておくに限るとワタクシを崇める者達の持っているマンガと言う本にも書かれていました。

 その事は置いておいて

 ワタクシを奉る祭祀場に連れてこられカンヅメ状態にされた彼女は日に日に弱っていきました。無理もありません。彼女はワタクシよりも狼が好きなのに、持ち出せた狼グッズは指輪だけ。祭祀場はワタクシを象った物だらけな挙句、ワタクシに過度な期待をする掛け軸だらけ。

 正直あまり良い環境ではないと思います。

 が、困ったことに手が出せませんでした。

 操る力にも限度があります。 無意識へ暗示を落とす程度なら容易。 ですが完全に操るには、身体へ入らねばならない。簡単な操作なら百人くらいまでなら同時にできます。 しかし記憶は残る。 あまり使いたい手ではありません。

 対象をより良い方向へ連れて行く『導き』の力もありますが、今の弱りきった彼女に使ったら身体に強い負荷を与えてしまいます。

 何か良い手は無いか。どこか現実逃避もしつつウロウロと彷徨っていたら、とても信じられない光景に出会いました。

 ワタクシと同じ様な存在が、一箇所に群れて居ました。彼らの姿形は、イヌと呼ばれる生き物を模しています。

 自分の尻尾を追いかける者、丁寧に毛づくろいをする者。

 しかし彼等にはワタクシと同じで影がない。

 これはあまり無いことです。

 普通は一体で広く縄張りを作るものです。

 最近の神々は人の姿を好みます。見目麗しい姿が流行りなのです。ワタクシも例に漏れず中性的な、自分で言うのもアレですが美しい人間の姿に頭からネコの耳を生やしています。

 さらに驚いたことにその中心地には生きた状態のままワタクシたちの存在に半分なりかけているイヌの群れがありました。そしてそんな渦中には一人の少年が。

 目を凝らすと彼は見た目はボロボロで、一見みすぼらしい姿をしています。ですが、彼の瞳は力強くとても美しかった。

 鳥肌が立ちました。

 そして次の瞬間、ワタクシは少年を囲っていたワタクシと同じ存在の群れたちに囲まれて居ました。今度は違う意味で鳥肌が立ちました。

 彼らはワタクシと同じ存在になって日が浅い若モノではありました。しかしその嗅覚は非常に鋭く、なんと驚くことにワタクシが持つ『導き』の力を嗅ぎつけていたのです。

 彼らはたどたどしく、しかし一つの要求をしてきました。それは少年をより良い方向へ向かわせる『導き』の力を使うこと。

 正直今はそんな状況ではありません。見知らぬ少年より彼女を救いたい。何とか逃げようとしましたがどこまでもどこまでも追ってきました。

 一対一なら跳ね除けられたのでしょうが、多勢に無勢、そして見事な連携でワタクシを屈服させました。

 ワタクシは仕方なしに『導き』の力を使いました。少し身体が気怠くなります。

 現れるのは、左右で違う目の色を持つネコ。

 少年はネコのあとを追い導かれていきます。

 そしてその方向に予想外の人がありました。


 彼女です。


 想定外のことに顎が外れるかと思いました。


 不定期に現れる少年の存在は徐々に彼女を救って行きました。

 徐々に良くなる血色に安堵しました。

 しかし彼女の回復は確実ですが遅く、じれったい。

 ワタクシはイヌの姿をした"神"―――もう存在とか面倒くさい―――達に交渉しました。

「もっと強くはなりたくないか?」と

 ワタクシの『導き』の力さえあれば、彼らは強くなれる。

 ワタクシには、それがわかりました。

 少年を愛しその安寧を求める彼らの願いも叶う。

 その替わりに、少年を祭祀場に住まわせる許可を乞いました。

 その交渉はアッサリ決まりました。

 イヌの神達は、少年にもっと良い暮らしをさせたかった。 例えば祭祀場で、“ネコの客人”として暮らすような。 是が非でもない、と彼らは言いました。

 ワタクシは彼らに『導き』の力を使い、さらに祭祀場に用意されたワタクシのお告げを記すための台に「客人ヲ住マワセロ」と書きました。

 これを見た彼女の両親は少年を住まわせることに成功しました。

 彼女は加速度的に回復していきました。

 ただ誤算だったのは、彼女が体調を崩した理由です。色恋は盲目で賢者を愚かにさせるとは言え、まさか学び舎でそんな陰湿なことが起きていようとは。

 確か相当な名門校のはずですが、生徒の質は良くないようで。

 嫌な予感がして確認してみると、彼女の両親はワタクシの知らない間にワタクシに祈るだけ祈って放置していました。学校側は何が起きたのかさえ分かっていない状態です。

 愚かすぎる!

 どうしようか、体調も万全だし彼女に『導き』の力を使うか。

 そんなことを思っていたら、彼女は両親とは違いワタクシを当てにせず少年に相談していました。

 それを見て、ワタクシは様子をみることに決めました。

 見事! 少女は自分の力で状況を打開しましたが―――ワタクシの気が収まりませんでした。

 放課後、私は愚か者たちを操って一処に集めました。操られた時の記憶が残るのも利用します。

 恐怖を刻みつけてやりましょう。

 彼等彼女等は自らの手で保護者に「帰りが遅くなる」と連絡しました。この時点で彼等彼女等は恐怖していました。しかし足りない。帰宅が遅れることを伝えた後はバラバラな道順で―――ここは難しかった―――彼等彼女等は空き教室に入り自ら鍵を閉めました。

 そこで起きたことはワタクシのみぞ知ることです。



 そして、数日後。

 食堂で事件は起こりました。

 誰が予想できたでしょう。少年は彼女に恋をしていたのです。

 ワタクシは長生きでフットワークが軽いので"ミッチーくん"が誰なのか、彼女の言いたいことはわかりますが少年や若いイヌ神達は分からなかったらしく、衝撃を受けました。少年は日課を終えると涙をこんこんと流しながら眠りにつきました。その時のイヌ神の怒りの恐ろしさはとても一口では説明できません。

 散々死に物狂いで逃げ惑って―――元々の嗅覚が鋭いうえにワタクシが強くしたので大変だった。自らの首を絞めるとはこのことか―――朝方ワタクシは機を見て少年に使った『導き』の力の名残を用い、こっそり少年の中へ潜みました。

 イヌ神たちはまさかそんなところへ隠れているとは思わず周りをウロウロしましたが、やがて少年を守ることに専念し、がっちり周りを囲みました。

 しかしここは、ワタクシの祭祀場です。

 ワタクシから注意を反らすことに成功した後、この祭祀場に染み付いたワタクシの力を伝い―――内心バレやしないかとヒヤヒヤしながら―――部屋で眠る彼女に忠告をしました。

 か細い線なので、『導き』の力は使えません。

 朦朧としている夢の中ですが、効果はあります。何が起きたのか、危険だから少年に近づかないようにしっかり言い含めた後、ワタクシが少年の中へ帰ろうとした時。何か予感がして振り返ると、先ほどまでのトロンとした目からガッチリ起きた目で彼女がこちらを見てました。

 怖っ。

 ワタクシは速やかに少年の中へ潜りました。

 しかし彼女は目覚め、あろうことかこちらの部屋に突進してきました。慌てたワタクシは少年を操って群れを止めようとして自分で自分に『導き』の力を使うというトンチンカンな事をしました。群れが彼女を威嚇し始めた時ワタクシは万事休す! と思いましたが。

 "にゃーん"

 そんな鳴き声が聞こえたと思ったら、一気に肩の力が抜け、自分が何をすればよいのかがわかってきました。

 彼女が群れやイヌ神の怒りを鎮めた後、ワタクシは少年を操り、半ば強引に遊園地へと向かわせました。

 そしてしれっと祭祀場へ帰ろうとした際、イヌ神達にガッチリ捕まりました。

 彼らはもう、ワタクシや彼女に怒っていませんでした。

 そして、少年と彼女の後をつけイヌ神達が見たこともないアトラクションにしれっと乗り込み共に楽しんだり。特にジェットコースターでの反応は良かった。途中で降りようと足掻く者、耳を倒して覚悟を決める者。様々いた。

 レストランのランチで共に舌鼓を打ったり。彼等の食べられないネギの入った料理やチョコソースの掛かったパフェを目の前で食べて反応を見たり。大まかに、羨ましがる者とドン引きする者の二つに分かれた。

 少年と彼女がずっと手を握って離さないところにニヤニヤしたり。遊園地に来たことのない少年は興奮しながらも、時折繋いだ手を見おろして嬉しそうにはにかんだ。

 夜のパレードを共に見て。空に昇る花火に興奮した彼等の遠吠えは美しかった。

 そして祭祀場に帰った時、ワタクシに名前がないこと知ってイヌ神達が名前を考える選手権を始めて―――

 その後のことは、ワタクシ達のみぞ知ることです。

ありがとうございました。

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