ドラゴン怒りの鉄拳。6
戦いの♾️の超回転の中、
カタワレちゃんは不思議な気持ちになっていた。
もうハンマーを振り下ろす必要も、少しの力でさえも必要が無かった。
ただ夢ちゃんの回転に身を委ねているだけで、
回り続ける。
円。
この感覚……
戦いの中で、《対立する存在》だった夢ちゃんが
いつの間にか《対になる存在》になっていた。
♾️の形は、片方の円だけでは成り得ない。
縁。
この感覚……
涙があふれる。
ああ……私は……ずっと……
カタワレちゃんの回転の力がわずかに鈍った。
『…カタワレ…ちゃん?』
夢ちゃんが、その変化に…涙に気がつく。
しかし、超高速回転の次の一撃は止まれない。
カタワレちゃんが穏やかな顔で笑った……
『夢ちゃん先輩!ダメっ!』
歌ちゃんが叫ぶ。
『!』
夢ちゃんは歯を食いしばり、
回転打撃の緊急停止を試みる!
『うう…止まれー!』
螺旋の理から無理やりに外れた、夢ちゃんは楕円を描きながら墜落。
地面へと激しく転倒した。
カタワレちゃんも同じようにぐらぐらと楕円、
激しく倒れ込む。
『…夢ちゃん先輩…カタワレちゃん』
白い奇跡の癒しの力が、
夢ちゃんとカタワレちゃんを優しく包み込む。
カタワレちゃんの心が無防備になる…
その中で歌ちゃんと夢ちゃんが見たもの—
カタワレちゃんの遠い記憶。
——
カタワレちゃんの本当の名前は、
『たんぽぽちゃん。』
たんぽぽちゃんは、ふわふわの綿毛のような靴下であった。
その隣にはバニーテールちゃん。
うさぎのしっぽのようなふわふわの靴下。
2人は、ふわふわもこもこのかわいらしい靴下。
だけども、
商品発売の直前で悲劇は起こった。
バニーテールちゃんの
デザインだけが没になったのだ。
没になった靴下は…
破棄される。
「対になれなかったことへの絶望」
たんぽぽちゃんはそのまま、
開発倉庫の中に保管され続けた。
ひとりぽっちのまま。
最初は祈りだった。
『そろいたかった。』
『ちゃんと並びたかった…』
『同じ場所にいたかった……。』
祈り。願いは、光の無い暗闇の中で、壊れた。
そろわないなら、世界の方が間違っている。
—そんな世界なら、壊れてしまえ。
——
『たんぽぽちゃん…』
片割れの絶望の果てに、暴力へと堕ちた、
たんぽぽちゃんの心を見てしまった歌ちゃん。
そして夢ちゃん。
『…ホワイトドラゴン、
なぜ最後の一撃を止めさせた? 』
ボロボロのたんぽぽちゃん。
『あなたは戦いの最中に…回転をゆるめて自分から倒されようとしていました。』
『……』
『…どうして、ですか?』
『……あの戦いの中、一瞬だけ、
初めて…対になれた気がしたんだ』
『…対に?』
『僕との回転の歯車だね。』
傷だらけの夢ちゃんが立ち上がる。
『そう。どちらか片方の円だけでは成立しない、
……ふたつでひとつの形。』
『それをずっと、望んでいたんだね?』
『…例え一瞬だけでも、その形になれた…
その時に私の心はもう、折れてしまっていた。』
『…たんぽぽちゃん』
極悪非道の暇つぶしに見えていた行動は、
埋まらない心の穴を埋めるための
絶望的な足掻きだった。
わたあめちゃん達も、
永遠に揃わない絶望の片割れ…
その事実に涙する。
『ずいぶんとたくさんのひどい事をしてきた…
私の罪は消えるものではない。』
『絶望がそうさせたんです。
たんぽぽちゃんも…犠牲者です!』
『ホワイトドラゴン…』
たんぽぽちゃんはゆっくりと立ち上がった。
『……最期に、私は…片割れでは無くなった。』
『たんぽぽちゃん…』
たんぽぽちゃんは、空を見上げた。
『やっと…
バニーテールちゃんに、会える。』
そう呟くと、たんぽぽちゃんは
穏やかな顔で笑った。
『ありがとう、夢ちゃん。
ありがとう、歌ちゃん。』
——綿毛がそよ風に舞う。




