くじら14号。3
くじら。
くじら13号は、大きかった。
夢ちゃんと歌ちゃんは、
くじら13号のあまりのくじらさに、
ぽやーんと口を開けたまま。
『こっちだよー!来て来て。』
雪ちゃんがこっちだよ、を言う前からくじら13号はその巨大な黒い姿を見せていた。
画用紙いっぱいに黒を描いてもまだ足りない。
ぜんぜん足りない。
そんな大きな大きなくじら。
くじら船内の
操縦エリア、客席エリア、ショッピングモール、映画館、ヘアサロン、室内プール、展望デッキ、
飛行システムエリアなどを見学しながら、
オシャレなカフェで甘いものを食べて、
雪ちゃんは、嬉しそうに説明をする。
13号ではその巨大な船体を空に浮かすために
ヘリウムガスを採用していた。
ヘリウムガス。
うん。
希望に満ち溢れ、瞳をキラキラさせている
あの子達には聞かせたくない。
ちょっと、こっちへ。
今回のお話、タイトルは
《くじら14号。》
今、乗り込んでいるくじらは13号。
ヘリウムガス。
うん。
そういう事みたい。
念の為に、避難しといて。
『くじらチョコバニラオレンジパフェ
美味しかった。』
雪ちゃんも夢ちゃんも歌ちゃんも、
ニコニコキラキラしていて、
カフェでお土産を買った。
『んじゃ、そろそろ夕暮れだし、
くじら飛ばそっかな』
雪ちゃんが、おなかいっぱいしながらそう言って、3人は操縦エリアに向かう。
操縦エリアまでの長い通路の床はピカピカしていて、新築の匂いがした。新鮮な匂い。
傾く太陽が今日もオレンジ色を選んで、
少しずつ全部がオレンジになっていく。
『くじら13号……』
雪ちゃんが、くじらのほっぺにキスをして、
旅の安全を願う。
そうして、かっこいい操縦パネルの
かっこいいボタンを
『くじら……空へ! 』
押した。
おした。
押したけどさ。
くじら13号は
やっぱヘリウムガスでは少しも浮かばなかった。
空は遠かった。
船内の映画館では、
時計仕掛けのオレンジが上映されていた。
『くじら? ダメ? 浮かないみたい? 』
ボタンを何度も何度も押す雪ちゃん。
もう一回だけボタンを押したら、
もしかしたら。
もう一回。
もう一回。
悔しくて、泣きべそ。
もう一回……
やがて、雪ちゃんは、その場に座りこみ、
『わああああぁん』
大声で泣き出した。
全部がオレンジだった。
夢ちゃんも、歌ちゃんも、
雪ちゃんに寄り添い、
一緒になって大声でわんわん泣いた。
———
読者だけが、
大丈夫、14号があるぞ。
って知ってる。
雪ちゃんが、
今までみたいに、
「14号を作ろう」
と思えた時点で、
もう未来は始まってるんだよ。
想像することそのものが未来。
誰も見たことのない可能性を信じて
未来を作る。
夕焼けになるまで見えない本当の色。
まだ咲いていない花。
まだ分からない恋。
まだ誰にも見えない「未来」
雪ちゃんは失敗に
物語を終了させる権利を与えていない。
まだ、
次を想像できる。
まだ何ひとつ終わりなんかじゃない。




