29話
「忘れ物だ」
バイト先へ着いた伊達に、店の前に居た明石がそう言って伊達の前に傘を差し出した。
「あ、すいません。忘れてました」
「いや、先日は送り届けもせず悪かった。家の人は心配していただろう」
「いえ大丈夫です(たぶん)」
明石の言葉に首を振って返事をする。
久々汰とは、知人の家に外泊する了承を得て以来、あれから不思議と連絡がない。
伊達の返事にどこかホッとしたような表情をする明石。
「そうか…」
「あ、先輩そういえば」
伊達が明石に言いたかった事を口にしようとした時、明石が何かを思い出したようにハッとした顔で「伊達氏、」と呼んだ。
「――君は休みだったから知らないだろうが、今日は早い時間に予約が入っている。そろそろ入店しておいた方が良さそうだ、行くとしよう」
そう言って店に入る明石につづく。
「―…ま、いっか。後で」
その日の帰り、再び雨が降った。
今日、たまたま明石から傘をかえしてもらい、ラッキーだったと伊達が意気揚々と歩いていると、雨宿りしていると思われる明石と何故か遥が居た。
伊達は目を丸くして「遥…?なんで」とつぶやいた。
「いーくん、おつかれ。何か雨降ってきたから雨宿りしてたー、この人と。面白いね、この人。オレ好き!」
「…え………!」
遥の突然の告白に動揺した伊達は、遥で想像しようとした自分に待ったをかけた。
…あっぶなかった、。
「伊達氏、すまないが…君とこの青年の関係をkw」
「センパイ、傘持ってないんですか?良かったら送ります、この前のことも、まだ何もお礼出来てませんし。遥、待ってられる…?すぐ戻ってくるから」
遥は、伊達に手を振って「うん、待ってるねー」と笑顔で言った。
「いいのか…?いや、やはり俺の出る幕ではないぞどう考えても、伊達氏ここは空気を読んで俺の事は置いていきたまえ」
「嫌です(センパイに後ろからつけられるのは)」
「む、君はどう思う。俺は君と伊達氏が」
遥に絡む明石を止めようと、伊達は身を乗り出す。
「送りながら詳しく話すんで」
「行こう」
「……ハイ」
いってらっしゃーい、と見送る遥に手を振り返しながら、早歩きでその場を離れる。
…なんでよりにもよって先輩と…
「すまない、…邪魔してしまったな」
「なんの話ですか」
…わかりたくもないが、わかってしまう。明石の頭の中では今脳内でドーパミンが大量放出されていることだろう。
「しらばっくれようとも俺の目は誤魔化すことは出来ない、伊達氏正直に言うことだ」
「…、何もないですよ」
明石の誤解に、ここは訂正しても明石の耳には入らないだろうな、と諦めつつ、伊達はバス停のそばを通り過ぎ、あれ、ここどっちに行けばいいんだろうと道がわからなくなっていた。
「ああやはりそうか…わかっていたとも、俺の目に狂いはない」
「センパイ、ここ真っ直ぐでしたっけ、道」
「ああ、そこを左だ」
「しかしどうなんだ、事細かに白状したまえ」
「……――、弟です」
「―、ほんとうか…?……いや今の言葉は気にするな……」
「…?着きました」
「ああ、ありがとう。そういえば君に見て欲しいんだが…」
「何をですか?」
まあきたまえ、という明石について行きながら、伊達は待たせている遥を思った。
「先輩、遥持たせてるんで…」
「いや、すぐだ。時間はとらせん」
「はあ…」
明石の部屋の前まで来た。
ドアを開け中へ入る明石。
バタンと閉まった後、また開いたドアから明石が「何してるんだ入れ」と言ってきた。
「え、お…じゃまします」
「どうだ…」
「ええ…」
ここは、そういうショップか、と思うくらい茂っている。部屋の中が。
伊達が来たのが確か三日前。数日しか経っていないのに、様変わりしすぎな部屋。
伊達は目の前で揺れるハンモックと周りに生い茂る大きな観葉植物達に圧倒され、なぜか期待したような目で伊達を見る明石をみた。
「ああ、…部屋引っ越し終えたんですね」
「いや、まだだ…少し憧れがあってな。ジャングルのような部屋で寝るのが」
「やりすぎでは…湿気とか大丈夫ですか…?」
「…、ふむ。少し減らすとするか…。新生活感を出そうと思ってな。…確かに、張り切りすぎたかも知れん。伊達氏、一株持っていくか」
「………じゃあ、今度」




