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7、1人のパイロット②

投稿遅れました

長い間ひなの泣く声だけが続いた。私はひなに対して、何を言ってあげたらいいから分からなかった。自分の中で、練度の低いパイロットを出撃させて、無駄に死なせるぐらいなら、練度が上がるまで出撃させない。させても、もっと簡単な任務からだと思ってた。それが間違ってることだとは今も思ってないけど、現にその判断で目の前に泣いている人がいた。私はひなに対して、励ましてあげるべきなのか、何を言えばいいのか分からなかった。それでも、何か言って失敗するよりも、今の沈黙の時間の方が心が痛かった。


「ひな。今回の事はしょうがないんじゃない。機体のことも事故だった訳だし。...多分艦長も、結構悩んで決定したことだと思うよ」

「そんなのわかんないよ!艦長の顔なんて私1回も見たことないよ。そんなのが悩むわけないじゃん。絶対練度とかで決めてるよ!私が強かったら絶対出撃出来てた。...私が弱くなかったらもっと結果は違ったんだよ」

「いや、ひなは弱くなんか...」

「今日会ったばかりなのに知ったかぶらないで!私が弱いことなんて知ってるよ。そんなこと自分が1番分かってる」

 

ひなの言っていた事は的を得ていた。確かに私はあんまりパイロットや乗組員と関わっていなかったし、誰を居残りにするかなんて特に長い時間掛けて、悩んだことじゃなかった。ひなの言っていることが私の心に、矢のように突き刺さって、何を言ってもひなに対していい事が言えなかった。時計を見ても、さっきから全然時間は進んでいなかった。


「なんでそんなに自分を攻めるの?」

「攻めてないよ!ただ私が弱いって言っただけでしょ!...何その目。なんでそんな困ったような目をするの!やめてよ!ねぇ!」


私の言ったことがひなには全てマイナスで、全然ひなは落ち着く様子がなかった。どうしたらいいか考えていると、顔に出ていたのか、ひなから思いっきり胸ぐらを掴まれた。ひなの掴んできた手は、私の襟を力強く握った。ひなの手は震えていて、顔も涙でぐちゃぐちゃで、それでも急にされたものだから、驚いて、その勢いに何も抵抗することが出来なかった。私はひなをどうにかしてあげたかった。それでも、何を言っても駄目で、どうしたらいいか分からなかった。だけど、まだひなには言ってないことがあって、これならひなが落ち着くかもしれないと、そんな気がした。


「待って、ひな」

「何。また私のこと...」

「艦長なの」

「え、」

「私、この艦の艦長なの」


 ひなの私の襟を掴む手の力が、さっきよりも強くなった気がするし、体が下に少し引っ張られた。ひなの顔を見ると、さっきまでの泣いていた顔が、なんて言ったら良いのかよくわからない、驚いたような、悲しそうな、それで怒っていそうな、複雑な表情をしていた。


「はっきり言うけど、今のひなは弱い。ベテラン揃いの空母搭乗員の中で、ひなは目にも止まらないぐらい」


 ひなの手が私の襟から落ちて、だらーんと下に垂れ下がった。ひなは何も言わずただ無表情で、同じ場所をずっと見て立ち止まった。だけど、そんな状態でも私はひなのことを思って、話を続けた。


「さっきは艦長も考えてるんじゃないとか言ったけど、たしかにひなの言った通り、そんなに私は時間をかけて考えなかった。それでも別に適当に考えたつもりはないし、練度の低い若いパイロットが無駄死にするのが嫌だったからで。そこはちゃんとわかってほしい。それでもちゃんと強くなったら評価するし、嫌でも作戦に参加できるようになるから。だから今回は諦めて。攻撃に行った人達が帰ってきて、暗い顔した人が待ってたら嫌でしょ。だから笑顔にして」


今言ったことは、本当に私が思ってることだった。変に優しくするより、キッパリと思ってることを言った方が自分もスッキリするし、相手も変に気を使われない方が、嫌な思いをしなくてすむから。それでも少しは言い過ぎた気がした。ひなはさっきからずっと何も言わないでその場に立ってる。それでもまだひなに言いたいことが残ってた。


「これが艦長としての私の言葉」

「え、」

「私はひなに死んで欲しくない。それでも努力してる人のことを否定もしたくない。だから艦長が文句言えないぐらい頑張って。嫌なことあったら、文句でも愚痴でも泣き言でも何でも聞くから。友達でしょ、ひな」


さっきまでその場に立っていたひながこっちの顔を見てきた。さっきとは違って、大粒の涙ではなく、親を見つけた子供のような表情をして。ひなはそのまま私の胸に抱きついて、泣き始めた。部屋の中はひなの泣く声だけ。それはさっきまでと同じようで違う声だった。壁にかけられた時計を見ると、さっきまで止まっていた針が動いていた。

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