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5.5、マルイカムイ島上空

 白神の甲板に並べられた何十機もの飛行機。周りには作業員が行ったり来たり、慌ただしく動いている。そんな中、並ばれた飛行機はエンジンの音を立て、今か今かと飛び立つ順番を待っていた。


「順番まだすかねぇ〜」

「まだまだだねー、少しはのんびりとしても」

「おい梅田!暇ならちゃんとラダーが動いてるか見てくれ。こっちからじゃ見えねぇから」

「大丈夫ですよ。ちゃんとラダーもエレベーターも動いてますから」


ほんと桑原さんは真面目だな。休める時間は今だけだって言うのに。

そんなことしていると、目の前にいた飛行機が翼を広げて、勢いよく飛び立って行き、自分の乗っている飛行機もゆっくりと前に動き始めた。


「やっと来たね」

「桑原さん。ミスって海に落ちないでくださいよ」

「わかってるよ」

「おっ」


桑原さんちょっとイラついてんな。

飛行機のスピードが急に速くなり、時間も立たないうちに、空に余裕の様子で飛び立って行った。空に飛び立ち数分。続々と仲間の飛行機が集まり、編隊を組んで目的地に向かって飛び始めた。


「ここからが1番長いんだけどね」

「そうなんすよね。敵を警戒しながらの1時間は流石に」


 上田さんと喋っていると、一番前にいる桑原さんがこっちを横目で見て、


「はぁ、梅田。無駄口を叩いてもいが、俺等の命はお前にかかってるんだぞ」

「わかってますよ。それに無駄口だったら上田さんだってしてるじゃないすか」

「上田さんは、まぁ年上だし」

「あぁ〜俺も、桑原さんより歳上だったら」

「いいだろ、梅田」


 目の前の席にいる上田さんはこちらを向いてニヤついた顔をしてきた。


「うわ大人気ねぇ」


 空母から飛び立ち、数十分。無限に広がる海の空に似合わぬ物が飛んでいた。126機からなる攻撃隊はマルイカムイ島を目指して進んでいた。道中敵に合うことも無く、無事にマルイカムイの近くにまで来ることが出来た。


「桑原さん。白神にいる女性の中だったら誰が1番いいすか」


大きなため息がここまで聞こえてきた。桑原さんは呆れたような声で話しかけてきた。


「お前その話何度目だ」

「いいじゃないすか。何回したって暇なんすから」

「俺は操縦してるから暇じゃないんだ。するなら上田さんにしてくれ」


顔はよく見えないけど、片手を振っているのが見えた。どうやら桑原さんは俺のことを上田さんに放り投げたらしい。放り投げられた俺は、目の前の上田さんに話しかけた。


「どうですか、上田さん」

「そうだねー、白神は他の艦と比べても女性多いもんね」

「そうなんすよ。いや〜白神に乗っててよかった〜」


他に比べて多いんだから、彼女だってすぐに。そんで結婚して、夜を共にして、


「お前みたいな奴は一生無理だろ」

「はぁー!わかんないですよ。出来るかもしれないじゃないすか!そう言う桑原さんはどうなんですか」

「だから俺は何もねえって」

「横山中隊長は、」

「...あの人はなしだろ。色々と変わってるっていうか」

「まぁそうですよね...」

「おっ、変針するな」


桑原さんの一声があり、外の方を見ると、何機もいる攻撃隊が次々に針路を変え始めた。変針が終わり、前方を見ると、緑に覆われた大きな島が進路先にたたずんでいた。


「あれがマルイカムイ島」

「梅田。機銃の確認をしとけよ」

「それはいいんですけど、ほんとにこの射界どうにかなんないんですかね」


 機銃を上下左右に動かし、ちゃんと正確に動くか確認すると、案の定、左右に対して、全く銃口を向けることができなかった。足元のマガジンを確認しつつ、ついに始まる攻撃に心臓の鼓動が早くなっている気がした。


「全員気を引き締めろ!」


 目的地のマルイカムイまでもうすぐだった。島との距離が近くなり、周りへの警戒も強めて、いつ敵が来てもいいように待ち構える。自分の見ている景色には、無限大に広がるような青空だけが広がっていた。


「っ、戦闘機隊が編隊を解いた!」

「敵に見つかったぞ!梅田」

「どこですか。こっちからじゃ何も」

「いや、前から来る。30機!」


 桑原さんの声を聞いて前を見ると、黒い点がたくさん、青空の上に広がっていた。


「戦闘機隊がぶつかるぞ」

「抜けてくるのはいる?」

「ちっ、結構な数が抜けたぞ。梅田!敵が頭を抜けたら撃てよ!」

「わかってますよ。それより先に弾食らわないでくださいよ」


 前のほうで銃声が聞こえ、普段聞きなれていない音が段々と近づいてくる。身構えていると、空を切る音と共に機体の横を弾が飛んで行った。


「っ」


 視界にたくさんの弾の軌道が光って見えた。そうこうしていると、敵の機体が編隊の中を突き抜けていき、目の前に見えていた艦爆が1機、燃えて落ちていくのが見えた。次々に抜けていく中、まだ当てることができそうな敵機を発見した。俺は手元にある機銃の銃口を向けて、敵機を撃ち始めた。


「くそっ、なんだこの銃。当たってるのに全く落ちないぞ!」


 機銃を敵機が腹を見せた瞬間に撃つが、振り切るように機体を傾けてかわされ、当たった弾も効果がないようにピンピンしていた。


「梅田!後ろはどうなってる」

「艦爆が1機、どこの隊だろう?燃えて編隊から落伍していってる」

「敵は?」

「こっちからじゃ何、いやっ待って、こっちに来てる!後方からダイブして突っ込んでくる!」


 俺は急いで上空からダイブしてくる敵機に向かって、機銃を撃って撃って撃ちまくった。弾が敵の横を抜けていき、敵との距離だけが近くなってきた。


「梅田!」

「離脱を」

「っ!」


 撃った弾がほとんど敵横に抜けていく。そんなことをしていると、敵の頭がこちらを向き、弾丸がこちらに向かって飛んでくるのが分かった。空を切る音がさっきよりも耳元の近くで聞こえ、赤く光った弾丸が視界いっぱいに広がっていた。


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