第4章:黒香の契り編ー第1話:黒香の契り
第4章では、静華が「香に呪いを込める者たち=香呪師」と対峙しながら、“香と契りを交わす”という新たな術と向き合っていきます。
ユウやリュウも新たな立場で再登場し、帝都を覆う影と、静華自身の成長が試される章になります。
それは、帝都で最初の“呪香事件”だった。
街の北、職人街にある古い陶工の家。
そこに、突然現れたのは――壊れた香壺と、倒れた男。
男は昏睡状態にあり、意識は戻らず、皮膚は灰のように冷たかった。
「香壺の破片からは……記録香でもなく、毒香でもない成分……」
静華は慎重に香の痕跡を嗅ぎ取る。
「これは……“黒香”……?」
普通の香とは違う。
煙の中に、鋭く刺すような感情の棘があった。
その瞬間、静華の脳裏に“何か”が焼き付いた。
――深紅の空。
――人の記憶が、香の中で崩れていく映像。
――そして、香壺に手をかざす“面の男”の姿。
(誰……!? いまの記憶、誰の……?)
傍らでユウが言った。
「観香庁の術香師が言ってた。“黒香”は……記憶を封じる香じゃない、“誓いを縛る香”だって」
「誓いを……?」
「たぶんこの男、“誰かと香で契約を結ばされてた”んだよ。香を通して命令を受ける。……意識も、名前も、感情も、香に囚われて」
(香が“呪い”に変わる。そんな香、今まで見たことがない……)
静華の懐で、玲華の香壺が静かに震えていた。
まるで、新たな香が“何か”を告げようとしているように――。
その夜。
都の外れ、廃れた祭壇の跡地で、ひとりの少女が香を焚いていた。
黒衣に身を包み、面で顔を隠したその少女は、ぽつりと呟いた。
「“契り”は完了した。あとは、次の“依代”を探すだけ」
煙が黒く渦巻き、彼女の背に、鈴のような音が鳴る。
――チリン。
新たな香の影が、都へと忍び寄っていた。




