表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

第4章:黒香の契り編ー第2話:面の女と“依代”

帝都・南門の外れ、かつて香童たちが訓練を積んだ廃園跡。

風に吹かれて、わずかに香が漂っていた。


観香庁の調査班が嗅ぎ取った香は、記録にも分類にも属さない“異香”。


「また、黒香か……」


静華は現場に膝をつき、割れた香壺の残り香に神経を集中させた。

その香には、明らかに“命令の痕跡”が含まれていた。


(誰かが……この場で“誓い”を結ばされた。自分の意思を手放し、香に従う契約)


香壺の破片の下に、何かが落ちていた。

静華が拾い上げると、それは古びた小鈴だった。


「……鈴……?」


静華の脳裏に、昨夜のあの音が蘇る。


――チリン。


(やっぱり……この香も、“あの女”のもの……)


同刻、帝都・裏市。

霧の立ち込める夜道を、一人の少女が歩いていた。


年の頃は十三、十四。

灰茶の髪を肩で切り揃え、目は濁った灰色。

名前も、住まいも、家族も、何ひとつ語らず、周囲では“壊れた子”として扱われていた。


その少女の前に、音もなく“面の女”が現れる。


白磁の面。

銀の鈴。

黒い外套。


女は香壺を手にし、無言のまま少女の手にその壺を押しつけた。


「……この香を焚けば、お前は“名前”を得る」


少女は目を細めた。


「……名前?」


「そう。お前が忘れたもの……望んだもの。香がそれを与える」


少女は言葉少なに、壺の蓋を開けた。


煙が立ち昇る。

濃密な、黒香の香り。


その瞬間、少女の目が開き――


「わたしは……“ユラン”。そうだ、私は……あの女を……!」


“契り”が成立した。


香が、過去を書き換える。


少女の中に“誰かに与えられた記憶”が流れ込み、まるで自分の意思であるかのように、彼女は“目的”を持ち始める。


面の女が囁く。


「次は……“観香官”だ。玲華の娘。静華を見つけ、彼女の記憶を奪いなさい」


「……はい、“契り”の香に従って」


銀の鈴が、またひとつ鳴った。


――チリン。


翌朝。

観香庁に、ひとつの匿名報告が届いた。


「観香官・静華を狙う“黒香使い”が都に入った」


静華はその報せを前に、懐の香壺をそっと撫でた。


(やはり、始まったんだね――“香を使った記憶の契約”。そして、香による“呪い”)


母の遺志を継ぐ者として。

香を“繋ぐもの”として守り抜くために。


静華は静かに立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ