第60話 教師レトファリックの想い、5属性複合魔法
ゲームのNPCと人間であるプレイヤーの意識が入れ替わった世界の話。国王ゼレラの授業は終わり、レトファリックの授業が始まった。レトファリックはカードのスキルを駆使して魔道具を大量に生成し、生徒に渡し教えていた。誰も置いていかない理想論のレトファリックの授業に、生徒からも感謝の声があがる。国王ゼレラとの魔力の練度の差を乗り越えるため、レトファリックは昨夜覚えた秘技を使うのだが…。
生徒たちはコールドボールを使って氷魔法の演習を始めていた。
「うーん。難しい。コールドボールがあってもレトファリック先生みたいに魔法を使えないな」
エルフの中でも一際若いダークエルフの子供がレトファリックから渡されたコールドボールを使って氷魔法の練習を行っていた。
レトファリックは彼を見つけ演習の手助けを試みた。
「君。名前は。氷魔法はまだできないかな」
レトファリック先生の質問に、ダークエルフの少女は答えた。
「エルミー。全然氷魔法の技が打てないの。先生教えて」
「おっけー。先生頑張って教えるから頑張ってついてきてね」
レトファリックはダークエルフの少女に魔法を教え始めた。
「まずは、魔力の意識からだね。全身の魔力を一つに集約するイメージだ」
レトファリックの言葉通りダークエルフは魔力を集中させたが、すごく小さな氷の結晶ができただけで、氷魔法は扱えなかった。
「なるほど。魔力が少ない上、魔力の流れが上半身と下半身で分かれているね。癖かな」
レトファリックはダークエルフの少女、エルミーの分析が終わり、アドバイスをしだした。
「片足立ちなんかをしながら上半身と下半身を同時に動かしてもう一度魔力を集中させてみよう。コールドボールからも魔力をとるイメージも持って。大丈夫。諦めなければ必ずうまくいくよ。エルミーさんはまだ若いし」
レトファリックの助言通り、エルミーは片足立ちをしながら魔力を集中させた。
「これでいい。レトファリック先生」
レトファリックはエルミーの肩を持ち、重心が崩れないように支えた。
「うんいいよ。それじゃ魔力を集中させて」
レトファリックの推測通り下半身の魔力が体の動きに連動して上半身に集まってきた。エルミーは胸の部分に大きな氷の塊を生み出すことに成功した。
「やったー。できたできたー。氷魔法を使えたよ」
エルミーは氷魔法が扱えた嬉しさではしゃぎ始めた。
「よし。よくできたね。じゃあ後は大丈夫かな」
レトファリックはその後も、氷魔法を扱えないものに魔法の所作、コツを教えていった。レトファリックの教え方は丁寧なので、生徒たちからは好評だった。
レトファリックは再び壇上に戻った。レトファリックは演習の終わりを告げ、最後の講義を始めた。
「はい。演習お疲れ様。それじゃ講義を再開するね」
レトファリックはファイアボール、コールドボール等の魔道具を生徒たちに再び見せた。
「ファイアボール、コールドボールの扱い方、エンシェントナルという本と、エンシェントハットという帽子のマジックアイテムを使って演習をしてみた。教えている最中若いエルフの子供もたくさんいて、まだ魔力が足りないものも多くいた。国王ゼレラの授業では見えなかった、年齢による魔力の熟練度の差に気が付かせることができた。僕の授業では誰も置いていかないように努める。授業の進みは遅くなってしまうけれど、皆の満足度を高めるにはこうするしかない。国王ゼレラと比べて僕の授業
はインパクトが足りないと思い、魔力の扱いがまだ初歩的な僕が君たち生徒に教えるためにはマジックアイテムが必要だった。僕の力不足だ本当に申し訳ない」
生徒たちからは応援や、賞賛する声があった。
「先生の授業はすごいです。魔法が苦手な僕の中の世界は変わりました」
「先生のおかげで氷魔法が使えたの。ありがとって思ってるよ先生」
生徒の言葉にレトファリックは嬉しくなった。
「ありがとう。でも、魔法の授業として格式が高く、より優れているのは国王ゼレラの方だ。マジックアイテムを使わず己の魔力のみで生徒たちに演習を見せる。実力のあるものにしか成せない芸当だ。本当にすごい。でも僕は国王ゼレラに負けるわけにはいかない。約束したんだ。僕が授業で勝つことができたら、僕の願いをかなえてくれるって。だから僕は今回の授業を引き受けた」
レトファリックからの突然の発言に生徒たちは驚いた。
「レトファリック先生。国王ゼレラと約束って本当ですか」
レトファリックは生徒の質問に答えた。
「ああ。約束の中身は話せないけれど国王ゼレラ様と確かに約束したんだ」
あらかじめ、約束の内容は話せないが、今回の授業対決の趣旨として約束したことは話してもいいと国王ゼレラから許諾をもらっていた。
「僕は君たち全員にいい魔法使いになってもらいたい。国王ゼレラが聞いたら、それは絵空事だ、と言われるかもしれないけれど、僕はマジックアイテムでも魔力が借り物でもどんな手を使ってもいい魔法使いになってほしいとおもっている。僕は今日皆それぞれのために授業していた。君たち生徒一人一人にすごい魔法使いになってほしい。そして僕は今日、国王ゼレラに授業で勝ちたい。だから最後にマジックアイテムを扱わない魔法がどの程度なのか君たちに見せたいと思う」
そういうと、レトファリックはマジックアイテムから離れ自分の力のみで魔法を放つために魔力を溜めた。技は水魔法だった。
「ほらね。僕のマジックアイテムを使わない水魔法の威力はこの程度だ。これじゃ竹で作った水鉄砲と変わらない。笑えるだろ」
レトファリックは魔力を溜めたが小さな水の粒が体の中心に現れただけで魔法の威力も弱かった。
レトファリックの授業はもうすぐ終わってしまう。演習に時間を割いてしまった事が影響していた。しかしレトファリックは最後に大魔法を使おうと試みた。
「しかしながら、水魔法がこの程度の僕でもマジックアイテムを総動員すれば複数の魔法を同時に発動できる。今回はその魔法を最後に見せたいと思う」
昨夜、レトファリックの自分の全ての努力を授業にぶつけるために魔法の練習をしていた。
「難しいな、複合魔法。でもこれができないと国王ゼレラは超えられない。なんとしてもできるようにならないと」
初めは水魔法と火魔法の複合魔法を扱うのさえ難しかった。だが、その後何度も試して少しずつできるようになった。
「よし。魔力を2点に集めて融合するイメージ。よしできてきたぞ」
しかし、3つ以降の複合魔法はさらに難しくなる。しかしレトファリックは何度も練習してできるようになっていった。
現在に戻る。壇上で講義をするレトファリックはコールドボール、ファイアボール、ウォーターロッド、ブラックボール、ホワイトボールを手元に寄せ、エンシェントハットを被り、エンシェントナルの本を手に持ち魔法を溜め始めた。
「汝の意向、汝の意向。ひとたび、またたび、もののけのごとく。光、闇、炎、氷、水、魔法を扱えば天が動く。天童地天童地。魔の怪物を顕現せよ。コンポジットベールバースト」
闇、光、炎、氷、水の魔法のすべてを集約させた魔法を最後に放った。
生徒たちからは感嘆の声が挙がった。
「すげえ。複合魔法の最上級だ」
レトファリックは最後の魔法を披露して授業を終えた。
よし。最後に、この魔法を見せるために、昨日特訓しておいてよかった。
「これで私の授業を終わります」
授業が終わり、国王ゼレラの使いのものが壇上に上がった。
「授業をご出席いただきましてまことにありがとうございます。司会のマレウィです。此度の国王ゼレラと、新米教師のレトファリックの授業対決は決戦投票に移らせていただきます。今お帰りになろうとしている生徒の皆さんはもう少し待ってください。これから投票箱に紙でどちらか片方の教師の名前を記して提出してください。投票のほどよろしくお願いいたします」
司会のマレウィが指で指示を出すと、他のゼレラの部下が投票箱を壇上に用意した。
少しばかり時間が経ち、生徒全員に紙が配られると生徒は渡されたペンで名前を書き始めた。
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