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72話 戻った日常と新たな仲間



「え、今なんて?」


 俺の耳がおかしくなければネクサリウスに来た時は私のもの、みたいなことを言っていたような気がする。


「いいえ〜なにも言ってませ〜んっ!」


 そう言い放つ瑠璃は頬が緩み、なぜかルンルンだ。


「聞き間違いか? ネクサリウスに行った時にどーとかって言ってたよな?」


「まぁ向こうへ行けば分かりますよっ! で、いつ行きますか? ネクサリウスっ!」


 瑠璃はやたら前のめりにネクサリウスへ行く予定を立て始めた。


「いや、有休取れないしまだ行けないんじゃないか?」


「そんなの分かってますぅ〜っ!」


 彼女はぷくりと頬を膨らませてそう言っている。

 まぁ取れるようになったら行きましょう、とのことでこの話題を終えた。


「それで瑠璃、今日来た件で話をしときたいんだけど」


 とりあえず、俺は話を今日の本筋に戻す。


「え? なんでしたっけ?」


 瑠璃はなんのことかと言わんばかりに首をこてんと傾げた。

 しっかり者の彼女が珍しいものだ。


「いや、本部の一件だよ。この研修中に遭ったことの報告というか、それを今日しにきたはずなんだが」


「あ、そうでしたっけ? それならもういいですよ。久後健斗さんから聞きました」


「え……っ! そうなの!?」


「はい……っ!」


 彼女は笑顔でそう答える。


 なんと、もう今日の要件は終わっていたらしい。

 たしかに健斗さんには本部の件以降、報告はしていた。

 まぁそこが同じ本部にいるのだし、いつでも聞けるっちゃ聞けるか。


「じゃあ今日はなんのために……っ!」


 俺がそう呟くと、


「なんのためって……そんなのイチャイチャしようと……」


 瑠璃は再び瞳をうるうるし始めた。

 今、これは彼女にとっての地雷だ。


「あ〜ごめんごめんっ!!!」


 俺は頭を下げてしっかり謝罪する。


 その後しばらくして瑠璃は機嫌を直してくれたが、今日はそのまま解散の流れとなった。

 紗夜さんに気を遣ってくれてのことだろうか?


 まぁもう夜更けだ。

 明日も仕事だし、帰って休みたい。


 あ、その前に玲央の件。

 ニューロヴォアに人を操る力はあるのか。

 それを聞きたかった。


 そう思って彼女に質問すると、やはり答えは限りなくYESに近いらしい。

 確信を持てない理由としては、未だニューロヴォアにそこまで迫れたものはいないからだ。


 とはいえネクサリウスの冒険者の中にも人格そのものが変わってしまった、そんな事例がいくつかあったとのこと。

 未だ対処法もなく、玲央の洗脳に関しても完全に解けたかもしれないし、再び変化する可能性もあるようだ。


 瑠璃は「玲央の件なら対策済みですっ! 心配しないでください!」と言っていた。

 まぁ彼女がそう言うんだから大丈夫なのだろう。


 俺は全ての要件を済ませたため、瑠璃の家から帰宅したのだった。



 ◇



 次の日。


 一通のメールが届いた。

 


 from 久後 渉 AM9:28


 皆さんおはようっ!

 よく眠れましたか?

 僕はもう起きられないんじゃないかと思うほど深い睡眠に入っていました。

 ノンレム睡眠というやつです。

 いや、もちろん間にはレム睡眠があることも知っています。

 S級冒険者なんだからそれくらい知っています。

 僕はみんなより知識が多いのです。

 だから今日も1日僕を敬ってください。

 

 ところで今日から第2支部に新しい仲間が増えます。

 紹介するから11時までに事務所きてね〜。

 よろっ!


 

 朝から軽い文面のメールが来た。

 そしてタラタラ長いしウザい文章だ。

 ブロックしようかな、嘘だけど。


 そして眠れるわけなかろう……っ!

 こちとら初めて彼女ができた日の夜だぞ。

 そんなの悶々として眠れるわけがない。

 色々考えすぎた……そう、色々だ。

 あんなことやこんなこと、そんなことだって考えた。

 おかげで一睡もしていない。

 おまけにもう9時半ときた。


 よし、こうなったら起きよう。

 もう11時なんてあっちゅうまです。


 ということで本当に時間が経つのは早い。

 朝の準備やコーヒーを嗜んでいると、もう気づけば10時半。

 出ないといけない時間になって眠くなってくる、世の中そんなものである。


 俺は外に出て自転車に乗った。



 ◇



 事務所に到着した。

 時刻は10時50分。

 大抵こういう時、俺が一番遅い。

 第2支部はクセ強い人ばっかりだけどなんかみんな朝早いんだよな。


 ガチャ――


 俺は事務所のドアを開けて挨拶をする。


「おはようございます!」


 入ってすぐのパーテーションは一昨日のパーティの時に退けたので、事務所の見通しは良くなっている。

 初めからこうすればよかったのに。


「おざーっす! 海成さん……ってどうしたんすか、その疲れてますみたいな顔っ! 目の下のクマもすごいし」


 凛太郎はオロオロと俺のことを心配してくれている。

 なんと良い後輩なんだ。

 いや、冒険者としては先輩だな。


「いや……ちょっと寝不足で」


「海成さん、冒険者たるもの睡眠は大事っすよっ! 今日はしっかり寝てくださいっ!」


 なんかドヤ顔で語られた。


「あぁ、ありがとう」


 その後事務所をぐるりと眺めると、いつも通りの景色が広がっていた。

 ゲームをする久後さんに本を読み続けるねるさん。

 どうやら新しい仲間とやらはまだ来てないみたいだな。

 そこで俺はもう1人いないことに気づく。


「あれ、紗夜さんは!?」


「あ、相羽センパイまだ来てないっすね」


 俺の問いに凛太郎が答えた直後、


 ガチャッ――


 再びドアが開き、その先に俺の探していた人物がいた。


「お、おはようございます……。遅くなりました」


 紗夜さんが事務所へ入ってきた。


「おざーっす! 相羽センパイ……ってどうしたんですか? 顔色も悪いようですし」


 凛太郎が心配するのも無理はない。

 まず紗夜さんの出勤が遅いだけで充分おかしい。

 それに加えて入室してきた時の表情、まるで一晩中ダンジョン攻略に勤しんでいたんじゃないかと思うほど疲れ果てている。


「あ……うん大丈夫。ちょっと眠れなかっただけだから。へへ……っ!」


 とは言うものの、かなりしんどそう。

 てか眠れなかったって俺と一緒じゃん。

 もしかして紗夜さんも俺とのお付き合いに悶々としていたとか?

 そんなこと真正面からは聞けないけど。


「紗夜が寝不足なんつーのは珍しいな〜。男でもできたか?」


 彼女の体調不良がレアなのか、ゲームをしている久後さんまで横槍を入れてきた。

 おいおっさん……今のご時世、それ完全にセクハラですよ。


「……っ!? 久後さんっ! 今のはセクハラ行為で本部に言いつけますよっ!」


 ポッと赤く頬を染めた紗夜さんが久後さんへ辛辣な言葉を投げる。


 紗夜さん照れてる……。

 今日も俺の彼女が可愛い件。

 内心そんなことを思ってしまった。


「へいへい。すまんの〜」


「ったく本当に適当なんですから! 久後さん、そういえば新しい仲間って?」


 適当に返事をする彼に対して紗夜さんはさっそく本題をぶち込む。


「あ〜それね。実はもう来てんだわ。今向こうの部屋で待たせてる」


 久後さんが指差す方にはねるさんの実験室とやら。

 あんな何があるか分からんような部屋で待たさせるとは、新人くんも可哀想だな。


「私は早くあの部屋を使いたい。さっさと紹介しろ」


 あぁ。ねるさん追い出されたのか。

 めっちゃ不機嫌そう。


「悪りぃって言ってんじゃんさ〜。まぁ呼ぶか。お〜い新人くんっ! 出てきていいよ〜!」


 久後さんの声によって実験室のドアがゆっくりと開かれるのだった。


 

 

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