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69話 初めてのB級ダンジョン



「姉さんも守ってくれってどういうことだ?」


 俺は玲央に言われたことをそのまま聞き返した。


「元々、俺は姉さんを守るために冒険者になった。だがそんな俺も、もう冒険者ではない。それに戸波、お前は姉さんが好きなんだろ?」


「え……っ!? あぁ〜まぁな」


 不意打ちすぎる質問につい、おどけた返事をしてしまった。

 すると玲央の顔が突如として険しくなり、目の前のテーブルをバンッと叩く。


「あ……? なんだその煮え切らない返事は。もしかして遊びか? お前は姉さんを誑かしていたのか……っ!?」


 やばい、家族を大切にしている玲央にとって今の返事はタブーだったらしい。

 とはいえ今のは確実に俺が悪いな。

 大の大人になって、色恋を恥ずかしいものだと思ってしまっていた。

 玲央は至って真剣、紗夜さんだって……あの時真剣に気持ちを伝えてくれようとしてくれていたんだ。

 それに対してあんな曖昧な返事はいけないな。


 俺は自分の両頬をパンッと両掌で叩いた。

 それをみた玲央は目を丸くして驚いている。


「違う……っ! 俺は紗夜さんが好き……。だ、大好きだ――っ!!!」


「……お、おう」


 しまった、大声を出しすぎた。

 おそらく今の声量、外までは疎か隣の家の中くらいまでイッたんじゃねーかな。

 あれだけ奮起していた玲央も呆気にとられたみたいな顔してるし。


 ドンッドンッ――


 天井から音がしてきた。


「うおっ!? なんだ?」


 俺は上を見ながら疑問に思う。


「姉さん、聞こえてたのかな」


 玲央はそう言って頬を緩ませた。

 そんな穏やかな表情できるんだな。

 って一瞬思ったけど、本来の彼、ヨウスケと仲良かった頃の玲央はこうだったんだろう。


「……って待って。そんな2階に聞こえるくらい壁薄いのか?」


 玲央の表情に気を取られていたけど、今のセリフ聞かれていたとしたら恥ずかしくて仕方ないんだが。


「え、あぁ。昔、親の会話が部屋まで聞こえていたなぁと思って。普通の声量なら会話の内容まで分からないが、今の声量はさすがに聞こえたと思うぞ」


「ええ……恥ずかしい……。恥ずか死ぬんけど」


 ついさっき恋愛に対して真剣に向き合おう、恥ずかしいことじゃないなんて思ったところだったのにこれはわけが違う。

 聞こえていないと思って愛を叫んだにも関わらず、実は届いていました……ってのは相当苦しい。


「まぁ気にするな。弟の前でおっぱじめるよりかはマシだろ?」


 そう言った玲央の口角は明らかに上がっている。


「な……っ! お前なぁ……」


 そんな羞恥的なイジリを受けた。

 まぁ仲良くなった証拠ってやつかな。

 

 なんにせよ、ひとしきり話も終わった。

 今から紗夜さんの部屋に行くのもなんか気が引けるし……。


 ってことでようやく俺は帰ることにした。



 ◇



 次の日。

 今日から本格的に第2支部での冒険者業務が始まっていく。


 さて、このドアを開ければ事務所だ。


 だけど昨日あんなことがあった。

 どんな顔して紗夜さんと会えばいいのか分からない。

 いや、でも今から仕事なんだ。

 私情を持ち込んではいけない。

 紗夜さんだってきっとそこは割り切っているはず。


 ガチャッ――


「おはようございます!!」


「海成くん、おはよーっ!」


 そこにはいつもの笑顔で朝の挨拶をする紗夜さん。

 思った通り昨日のことは全く顔に出さずいつも通り、といった様子だ。


「おっ! 海成、きたか。さっそくだがダンジョン行ってこい!」


 朝から紗夜さんとの接し方で悩んでいたけど、どうやらそんな暇はないらしい。


「わかりました。どんなダンジョンですか?」


「あぁ〜今回は久々に紗夜とだ。B級ダンジョンだけど、お前ならいけるだろ?」


「えぇ……っ!? ま、まぁいけると思いますけど」


 俺はこの冒険者になってから、運がいいのか悪いのかB級やA級の冒険者と相対することが多かった。

 その経験からか、今回B級ダンジョンと言われてもあまり驚きはなく。

 ただ思わず声を出してしまったのは、紗夜さんと一緒という点についてだ。

 あぁ……緊張する。


「おっ! 受け入れが早いから助かるな。紗夜がいればB級ダンジョンにも入れる。海成、お前はあの相羽玲央と同等以上の実力があるんだ。早めに上級のダンジョン経験を積むのもいいだろう」


「久後さん、ちょっと買い被りすぎですよ。でも俺も早く強くなりたい。今からB級ダンジョンの経験を積めるのは嬉しいです」


「ようし、じゃあ行ってこいっ!!」


「はいっ! 紗夜さん、よろしくお願いします!」


 俺は今日お世話になる彼女へしっかりそう声をかけた。

 そう、あくまで平常心でだ。


「うんっ! なんか海成くんと一緒にダンジョン、久しぶりだからドキドキするね〜」


 紗夜さんは何食わぬ顔でそんなことを言ってくる。

 どっちだ……っ!?

 それは意識して言ってるのか!?

 今の彼女はおそらく仕事モード。

 全くいつも通りの表情なため、内心が分からない。


 いやいやこれは仕事、しかも命懸けの。

 俺も集中しなければいけないな。

 

 ということで俺は紗夜さんとB級ダンジョンへ向かうことになった。

 

次話から更新頻度を火・木・土となります。

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