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66話 紗夜さんとのサシ飲み



 久しぶりにきたな、『村一番』

 少し早く着き過ぎた俺は、先に席まで案内してもらった。

 今回は大事な話が多いため前もって個室を予約している。


 あの時はヨウスケとヒナも一緒だった。

 戦いから1週間。

 ヨウスケはあの直後、レベルアップコーポレーション本部の医務課で集中治療とやらを受けている。

 一昨日目を覚ましたようだが、一般の病棟へ移るまで面会することができないらしい。

 彼の体の骨はあらゆる箇所に粉砕骨折が見つかり、冒険者としてはもうやっていけないだろうとのこと。

 幸いヨウスケは冒険者として引退予定だったため問題はない。

 しかしこれ以上の情報は分からないので、友達としていち早く会いに行きたいものだ。


 ガラガラッ――

 

「お連れのお客様、来られましたっ!」


 あ、前もいた女子大生くらいの可愛い店員さん。

 連絡先でも聞きたいが、そんな勇気がない。

 それにその子の後ろには店員さんの言うお連れ様もいる。

 女癖が悪いなんて思われたくないしな。


「お待たせ、海成くんっ!」


 俺に手を挙げて挨拶してきたのは、もちろん紗夜さん。

 いくらこの店員さんが可愛いといえど、紗夜さんの前ではそれも薄れてしまう。

 それほどまでに紗夜さんの美貌とはとんでもないのだ。


「いいえ、俺も今来たところです!」


 と、定番の会話を交わしあった後お互いクスリと一笑いし、紗夜さんは席についた。


「はぁ〜お腹減ったぁ」とのことで、とりあえずお互い食べたいものとお酒を頼んでいく。


「紗夜さん、今日は飲み過ぎちゃダメですよ?」


「わかってますぅ〜! あの時はちょっと……楽しくって……ほんとごめんねっ?」


 紗夜さんは両手を合わせてウインクしてくる。


「そんな可愛い仕草されると許しちゃうじゃないですか〜! もしかして狙ってます?」


「ね、狙ってるって海成くんのことを……っ!? そんな……事務所の先輩としてあ。あるまじき……」


「紗夜さん、何を一人で動揺してるんですか?」


 なんか質問の意図と違う捉え方をしたらしい。

 顔を赤く染め、何かを弁明している。

 彼女のそういう天然なところも可愛いのでちょっとイジってみた。


「もうっ! 久しぶりに会っても海成くんは私をおちょくってくるっ!」


「こんなことできるの紗夜さんにだけですよ」

 

「わ、私だけ特別なの?」


「はい、特別ですね。他の人にはしません」


 そりゃこんなこと瑠璃にするなんて恐ろしいし、瑞稀をおちょくると「続きは拳で決着や」とか言ってきそう。

 やっぱり紗夜さんだけかな。


「……まぁそういうことなら悪い気しないかな」


 よく分からないけど、紗夜さんの機嫌が良くなったところで生ビール2杯とおつまみが届いた。

 乾杯し、お酒をぐいぐい飲み始めたところで本題に入る。


「海成くん、まずは弟の件、本当にごめんなさい。そしてありがとう!」


 紗夜さんは俺に頭を下げる。

 お父様といい相羽家からは謝罪されまくりだ。


「いえ。俺は自分のできることをしただけですよ。それよりも玲央は……どうなったんですか?」


 この質問こそ、今回俺が一番紗夜さんに聞きたかったことだ。


「うん……まぁ当たり前なんだけど、懲戒解雇だって。でもそれだけ。他になんの罰もないの……おかしいよね?」


「俺は冒険者の世界が浅いので、これがどれだけの罰になるのか分かりませんが、玲央は周りから見るにヨウスケを殺そうとしていた。普通に考えると殺人未遂になりますもんね」


「そうなのよ。冒険者ってのは国の中でも機密事項。世に知られていない分、国の法律にも適応されない。でもその代わりレベルアップコーポレーション独自で作った『冒険者規制法』ってのがあってね、その中に冒険者が冒険者、または一般人に明確な殺意を持って攻撃することを禁止するものがあるの。今回の件、充分この規制法に引っかかると思うんだけどなぁ〜」


 冒険者規制法?

 久しぶりに必須知識みたいなのきた。

 きっとこういうのって冒険者になった時には知っとかなきゃダメだよな。

 なんで俺はいつもこんな大事なことを知らないんだ……。


「ちなみにその規制法に引っかかるとどうなるんですか?」


「冒険者用の監獄に収容されるらしいよ。でもその場所は冒険者の中でも一部の人しか知らないって言われてる。ちなみに池上や浦岡もそこで収容されているみたいだよ」


「そ、そうなんですか。おっかねぇ……。でも玲央がそうならなくてよかったじゃないですか」


 めっちゃ怖いじゃん。

 絶対罪犯したくない。

 犯さないけどさ。

 

「よかった……か。たしかにそうね。玲央、実家にも帰ってきたし、この一件から表情も少しだけ昔の明るかった頃に近づいたような気がするんだ。きっとこれも海成くんのおかげだね……っ!」


 少し涙ぐみながら俺にそう言う。


 少しだけでも紗夜さんの力になれたなら良かった。

 これからも共にする先輩であり、大切な仲間。

 そんな彼女が幸せなら俺も幸せだ。

 もちろん一切他意はない、下心もない……多分。


「そうだったんですね! 俺はただ玲央をぶっ飛ばしただけです。彼が変わったのは、彼自身の中で何かが変わったんじゃないですかね?」


「玲央の中で……。そうかもしれないね。……あ、あと海成くん、これ玲央の連絡先」


「えっ!? 連絡先!? 俺そんな玲央と連絡する中になりましたっけ!?」


 玲央はどういうつもりだ?

 まさか俺の一撃に惚れてしまってこれから仲睦まじく……みたいな?


「いや、よく分からなけど渡してくれだって。なんか言いたいことがあるとかなんとか」


「そうですか。まぁ連絡してみます」


 そうだ、俺もあいつに聞きたいことがある。

 向こうもわざわざ連絡先くれるなんて律儀なところあるんだな。


「はい……っ!! 今回の件の話は終了っ! 今からは海成くんのお疲れ様会第2弾ということで飲みましょうっ! もちろん私の奢りだからどんどんいっちゃっていいからね!」


 紗夜さんが話したい用事とやらが済んだからか突然パッと明るく、場を取り仕切り始める。


「ありがとうございますっ!! あ、でもほんと紗夜さん飲み過ぎダメなんですからね。次は放って帰りますから」


「冷たい……っ!? 私の後輩が冷たいわ……っ!」


 彼女は顔を伏せ、えんえん声をあげている。

 泣き真似をしている紗夜さんも可愛いな……泣き、真似だよな、そうだよな?


「紗夜さん……? 俺は優しい後輩なので泣きやんでください」


 女性を万が一泣かせてしまっていると思うと男の名が廃る。

 そう思って念のため声掛けを行った。


「へへっ! じゃあ今日もお家まで送ってくれたら許そうっ!」


 てへっと紗夜さんは舌を出してみせる。

 その水分の溜まっていない瞳を見るに、やはり泣き真似だったか……っ!

 それになんか追加で要求までされてしまった。


 家まで送るって……むしろ俺得なんじゃ……?


 なぜかお家までの確定演出を勝ち得た俺と紗夜さんの飲み会は本格的に始まったのだった。

 

 

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