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64話 上からのお達し



 「【 アークスマッシュ 】」


 スキル名を唱えたと同時に、俺の拳が玲央へ直撃する。

 それはちょうど振り向きざまだった彼の横腹へクリーンヒットした。

 高威力な拳により吹き飛んだ玲央は、この室内に張られている結界へと背中をぶつけ、その場に倒れ込んだ。


 【 鑑定眼 】で見たところ、玲央のHPは0と表示されている。

 命を落とした時、どう表記されるのかわからないが、HP全損で死ぬことはない、かつて池上がそう言っていた。

 俺が本当ならきっと気を失っているだけだろう。

 そう信じたい。


そして【 鑑定眼 Lv2 】。

今までは相手のスキルを鑑定することができていたが、今回進化したことで、玲央の攻撃を先読みできるようになった。

つまり相手の未来の動きを鑑定する。

これが進化で受けた恩恵というところだろう。


「「「うおぉ――――っ!!!」」」


 パチパチパチ――


 結界内から突然巻き起こる歓声と拍手。

 あまりの大音量に俺は肩をびくつかせる。


「お前すげーな」

「玲央さんを倒したやつなんて初めて見た」

「お疲れ様! いい試合だったぞ」


 色んな冒険者の人から労いの言葉が飛び交う。

 いつの間にか結界内はさらに人が増えており、まるで武闘大会の続きをしているような状態だった。


 そんな時、いつの間にか新たに構成された転移魔法陣から何人か姿を現し、倒れた玲央の元へ向かう。

 そのうちの1人、おそらく最年長であろう男性が俺に駆け寄ってきた。

 おそらく父親世代くらいだろうか。

 そして整った身なりや、他の人に指示を与えていたところを見るにかなり立場が上の人と予想がつく。


「玲央の相手を任せて申し訳なかった。本当はもう少し早く駆けつけることができたんだが、君らの戦いが異次元すぎてね。巻き込まれると間違いなく私達の中から死人が出てしまっていただろう」


「あ……いえ、俺……いや僕としても被害を最小限に抑えられたのであればよかったです」


「そんなにかしこまらなくていいよ。君は娘の紗夜から聞いている」


「娘……むすめ……ムスメ? ……っ!? お、お父様っ!? 紗夜さんにはいつもお世話になっておりますっ!!!」


「ははっ! 娘のいうとおり君は面白い子だな。紗夜から海成くんはとても強いと聞いていたが、まさかウチの玲央より強いなんてびっくりしたよ」


 おもしろい子って紗夜さん、一体お父様になんて俺のこと紹介したんだ……。

 それはとても気になることだが、それよりも玲央のことが優先。

 父親でも止められないってどういうことだろう……?


「君は……私を情けない父親だと思っているだろう。息子1人を止められないなんてな。しかしその息子、玲央は強くなりすぎた。今やB級やA級なんてもので冒険者の強さは測れなくなってきている。君みたいなE級もいるわけだしね」


「つまり玲央はA級以上の強さを持っているってことですか?」


「あぁ、同じA級の私が勝てないのだからそういうことになるね。おそらく玲央を止められるのはS級に近い実力を持つもの。今この本社のS級冒険者は不在。つまり、君がいなかったらヨウスケくんは無惨にも殺されてしまっていただろう。それにこの結界だって破壊されていたかもしれない。今回の件で死者が出なかったこと、改めてお礼を言わせてくれ。海成くん……本当にありがとう」


 お父様は俺に深く頭を下げ、感謝の意を示す。


「いやいや、お父様!! そんな……頭を上げてください! 平和に終わればそれでいいですから!!」


 こんな目上の方に頭を下げられるなんて慣れてないから、どう対応すれば良いか分からない……困ったな。

 そんな俺の内心が伝わったのか、お父様はゆっくり頭をあげ、


「そうか。この薄汚れた大人に塗れた社会の中で、海成くんはまっすぐ素直に成長してきたんだね」


「まっすぐですか……、そうかもしれません」


 ふと仕事探しをしている時のことを思い出した、

 俺は冒険者になる前、お互い信頼できる仲間を作りたい。

 そんな仲間と何かを成し遂げたいってそんな気持ちがあったのだ。


 紗夜さん、瑠璃、久後さん、凛太郎やねむ先輩。

 本部のヨウスケやヒナ。

 そういえば仲間も増えたし、命をかけて背中を預けたものだっている。


 何気に冒険者、天職だったのかもな。

 転職だけに……。

 寒いな、心の声を読むスキルがあってこれを覗かれていたら、恥ずかしさのあまり悶え死にます。


「まぁ君が望まぬとも今回の件、上層部から何かしらの報酬はあると思うよ」


「報酬……っ!? い、頂けるならありがたく頂戴いたしましょうっ!」


 特に何かが欲しくて果たしたことではないが、貰えるなら嬉しい。

 なんだろ……お金かな、権力かな。


「はははっ! 何も遠慮することはない。貰えるものは貰っとけ!」


「はいっ! ありったけ貰っちゃいましょうっ!!」


 最後は少し紗夜さんのお父様と距離を縮められたかもしれない。

 これも大事だ、将来紗夜さんと結婚するとなれば必要なこと。

 是非ともお酒でも交わさせて頂きたいところだ。


「ははっ! まぁ紗夜はやらんがなっ!」


 笑顔の割に目が笑っていない。

 怖い……これがお父様という生き物……っ!


 てかさっきからこの人心の声読めるの!?

 なんか俺の心と会話してない!?


「え……あの……が、んばります」


 こんな返事しかできなかった。

 我ながら情けない。

 ……というか俺は社内恋愛という考えには至っていない。

 にも関わらずこんな返事をしてしまっていいものだったのだろうか。


「まぁ冗談はこの辺にしておいて、海成くん。本部もこんな有様。修繕にもかなりの時間を要するだろうし。それに今から本部自体、何かと忙しくなるようでね。一旦研修は終了しようか。上からのお達しだ」


「そ、そりゃそうですよね……。では明日からは今まで通り第2支部へ行けばいいですか?」


「あぁ、そうだね。また研修を再開するときは本部から連絡するから」


「わかりました」


 ということで明日から一旦元に戻るそうです。

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