62話 玲央の本気
最初から全力でいく。
もう貯蔵スキルも使っちゃったし、出し惜しみなしだ。
「疾風烈波っ!!」
前方へ向かって広範囲の鋭利な爆風を拳から放つ。
「無駄だ」
玲央は手を前にかざすことで爆風を全て消し去った。
「なんだそれ?」
仕組みがよく分からん。
おそらく魔法だろうが、えっとたしかあいつが覚えていた魔法は重力魔法と幻影魔法だったっけ?
重力で力の方向を変えた、もしくは俺の魔法を幻影で消えたように見せかけた……とか。
どっちの可能性も捨て切れないな。
どうにせよ、近づけば分かるっ!
俺はシュッシュッと玲央の元へ駆けた。
玲央は再び掌を向けてきて、
「くらえ」
すると俺の体にグッと重圧がかかり、跪きそうになる。
これはもしかしてステータスで見た重力魔法!?
……がそんなものは対した障害でもない。
(専用パッシブスキル【魔力吸収】を発動します)
さすが、稼働してくれました俺の専用パッシブ様!
その重さは一瞬のうちに消し飛び、俺は玲央の元へ再び向かっていく。
「なっ!? ……これはどうだ?」
そう言った玲央は突如として分裂……という言葉が正しいかは分からないが、目の前で2人になってみせた。それどころか4人、6人とさらに数を増やしていく。
大人数の玲央達は俺を円で囲むように連なっていて、厄介なことに全員本物としか思えない出来なのだ。
それにしてもさすがA級冒険者。
俺が戦ってきた中で最強レベルということはある。
魔力吸収を初めて見た人でこんなに冷静な相手は今までいなかった。
一瞬驚きはしていたものの、すぐに気持ちを立て直し、次の策へ転じる。
行動の一つ一つが強者のそれだった。
「この人数だとどこを攻めればいいか分からんだろ。重力魔法を止められたのには少々驚いたが、ここからは俺の独壇場だ!」
分身全員が同時に話し出した。
やっぱり初めのは重力魔法。
そしてこの分身の術もどきは幻影魔法ってことか?
全員の玲央は背中の鞘から大剣を引き抜き、同時に斬りかかってくる。
くそ……どれが本物なんだ……なんて関係ない。
「それも俺には効かんっ!!」
俺は手を前にかざし、全ての幻影を吸収してやった。
「そうか。重力魔法の無効。幻影魔法の吸収、それに結界の中から唯一お前だけ来られたことを踏まえると、お前は魔法を無効にする何らかのスキル持ち、もしくはユニーク職業持ちってところだろ?」
幻影魔法を防いだことで玲央は、驚くどころか自分なりに分析して事実に近いところまで辿りついている。
ここで初めて、俺は今までで一番強いやつと対峙していることに改めて気付かされた。
「そうだなぁ……ここまでして黙ってるのも変だから言うけど、俺は武闘家の上位職なんだ」
もう魔法を吸収してる場面見られたし、問題なかろう。
今考えると当たり前なんだけど、結界内の冒険者達にもガッツリ見られてるわけだし。
「なら魔法なんてお遊びはもう終わりだな。ここは剣と拳で決着つけようか。手加減もしないっ!」
口数の多さ、声のハリからも心なしか戦いを楽しんでいるようにも見える。
玲央はその勢いで斬り込んできた。
「俺も全力でいくっ!」
久後さんほどではないにしろ鋭い斬撃。
その一振りを俺は軽快に避ける。
……が反撃はあえてしない。
ここで一度でも反撃をすれば玲央のことだ、戦い方を大きく変えてくるだろう。
その前に最高の一撃を叩き込む準備をする。
俺はシュッシュッと激しい連撃を避け続け、一番の隙を探す。
「なんだ? これが全力ってわけじゃないだろ?」
果敢な攻めの中で玲央は挑発じみた言葉を発してくる。
まだまだ余裕だと言わんばかりに。
「ちっ! 避けるので精一杯だよっ!」
本当はそんなこともないが、余裕がないフリでもしておく。
そして少しずつ玲央が放つ攻撃の型のようなものがみえてきた。
続く連撃は多くて8段階。
一筆書きのように一度も止まることなく剣を振るう。
その8連撃が終わるとほんの1秒ほど息継ぎのような時間が決まって訪れる。
狙うならそこだ。
1秒もあればアークスマッシュを叩き込める。
玲央の連撃が始まった。
俺は難なく避け、攻撃の数を数える。
(1、2……6、7……)
8段目の太刀筋を避けつつ、今まで魔力吸収で貯めていた魔力を右腕に乗せる。
「よし、【 アークスマッシュ 】!!」
「【 剣聖 】」
俺のスキルは当たる……はずだった。
完全に隙ができたタイミングで打ち込んだのだから。
自分で言うのもあれだが、今の流れ完璧だったと思う。
玲央が何かを発動した途端、
(緊急事態により専用パッシブスキル【 自動反撃 】を発動するため、専用攻撃スキル【 アークスマッシュ 】の発動は中止します!)
突如自身の脳内にステータスからのメッセージが流れてくる。
俺は自身のシステムにより、玲央が放つ斬撃を避けさせられたのだ。
おかしい……。
あのタイミングで剣を振り切れるわけが無い。
俺が猛烈な刀筋を避けた隙に、玲央は俺から少し距離をとっていた。
「ククク……アハハハハッ!」
玲央は無防備なことに上を向き、高笑いしている。
「おい、あの相羽玲央が笑ってるぞ」
「始めてみたな」
「てかなんであの研修生、玲央さんと張り合えてんだ?」
そして結界内の冒険者達はすでにパニック状態から抜け出し、俺と玲央の戦いに釘付けになっていた。
うわ……めちゃくちゃ見られてるじゃん。
「戸波海成……お前、面白いよ。最高にいい気分だ! 本当は使うまいと思っていたが、今からは俺のユニークスキル、【 剣聖 】でお前の相手をしよう」
剣聖?
スキルの詳細は分からないが、玲央は今から本気を出すってことらしい。