王都からの使者
投稿遅くて、本当に申し訳ございません_(._.)_
4章を美しいまま終わらせるために、悪役ポジだった人物を良い人に変えます。
そのため、20話の最初らへんを今日中に改稿しておきます。
申し訳ございません_(._.)_
エルシアと2人で大通りを歩いていると、ギルドの看板が見えてきた。
竜が弧を描き、その中心で剣と杖がバツ印を作るように交差している紋章。
描かれている竜は、すべての竜の起源と言われている『始祖竜』。
剣と杖は、各地に散らばる迷宮から見つかった聖遺物を表している。
冒険者ギルドの最終目標は、伝説に名を残すようなモンスターの発見・討伐と、古代文明が残した聖遺物の回収なのだ。
ここに来るまで、何だかんだ俺の会話に付き合ってくれていたエルシアだったが、看板を目にした途端、急に黙りこくってその場に立ち止まった。
「どうした?」
「その……う、受付カウンターにはあなた1人で行って欲しいの」
「なんで? ―――俺と一緒にいる所を誰にも見られたくないとかだったら、けっこうヘコむんだが」
「誰にもって言うか……その。 い、いいからお願いっ!」
妖樹討伐のあと、町に戻った俺はアデーレさんに妖樹の解体作業を依頼しておいた。
通常、換金素材の剥ぎ取りはモンスターを討伐した冒険者の仕事である。
しかし、倒したモンスターが余りにも大きすぎたり、迷宮を支配する主だった場合には、ギルドの調査部隊が、代わりにその仕事を引き受けてくれる。
エルシアの小さな両の掌に背中を押され、ずるずるとギルドの門口に近づいていく。
2人で討伐をしたのだから、エルシアも一緒に話を聞いた方がいい。
そう思ったが……まぁ、いいか。
「良く分からんが……分かったよ。 エルシアさんは後から入ってくればいい」
「あ……ありがとう」
ギルドの扉を開くと、すでに10人余りの冒険者たちが酒場の椅子に座って、今日の探索についての打ち合わせをしていた。
クエストボードにはすでに依頼が張り出されているが、依頼受注の受付はあと1時間ほど待たないと解放されない。
あと20分もすれば、ぞろぞろと冒険者たちが集まり始める。
「マルクたちは……まだいないな」
今日は、町から離れたところにある『ベルツィア山脈』に探索に行くつもりだ。
長々と連なる切り立った山々。
山頂付近は深い雪に覆われ、氷翼竜の住処となっている。
銀ランク冒険者たちは氷翼竜の上質な硬い甲殻を求めて、『ベルツィア山脈』に足を運ぶ。
山頂は立ち入り禁止エリアとなっているため、直接、巣穴に潜り込むことは出来ないが、餌を求めて山腹に降り立った氷翼竜を狩猟することは出来る。
1ヶ月前に俺たちも銀ランク冒険者になったので、すでに何度か『ベルツィア山脈』に行っている。
ちなみに、『ベルツィア山脈』ベースキャンプには露天風呂がある。
夜になるとギルド職員が火を焚いて風呂を沸かしてくれるのだが、温かいお湯に浸かりながら見上げる夜空は本当に綺麗で……冒険の疲れも一瞬で吹っ飛ぶ。
―――まぁ、有料だが。
「おはようございます、レオンさん」
受付カウンターに行くと、アデーレさんがいつものように声を掛けてくれた。
ほんのわずかに微笑みながら軽くお辞儀をするアデーレさんは、今日もギルドの制服をきちんと着こなしている。
「おはよう。 実は聞きたいことが―――」
「妖樹の件ですね。 ギルド長が直接お話したいという事ですので、エルシアが来るまで待っていて下さい」
さらっと俺の要件を言い当てるアデーレさん。
アデーレさんの理知的な青い瞳に見つめられると、なんだか心を見透かされているような気分になる。
彼女の勘の良さに、俺はいつも感嘆させられるばかりだ。
「……よく分かったな。 エルシアさんなら外にいるぞ」
「え?」
「いや……なんか、受付カウンターには俺1人で行ってくれって」
「フフッ……」
アデーレさんは、何か事情を知っているのだろう。
エルシアが外で待機していることを聞いたアデーレさんは、手に持っていた書類で顔を隠すと、肩を小刻みに震わせながら静かに笑った。
笑った顔を見せないあたりが、気品のあるアデーレさんらしい。
「ど、どうしたんだ?」
「………ふぅ。 レオンさん、ちょっとエルシアを呼んできてもらえませんか?」
「あ、あぁ分かった」
アデーレさんは感情を落ち着かせるように大きくゆっくり深呼吸をしたあと、顔を隠していた書類を机の上に置いて、エルシアを呼んでくるよう俺に頼んだ。
ギルドの外では、エルシアが玄関の手すりに背中を預け、頬を赤く染めながら小さな声で何か独り言を呟いていた。
後ろから声を掛けると、エルシアは心底驚きながら俺から距離を取るように飛び退いた。
そんなに驚かなくても……とりあえずエルシアに、ギルド長から妖樹についての話があることを伝えた。
「―――ちょっと、待って。 もしかして、アデーレに私が外にいることを話したの?」
「まぁ、エルシアさんが来ないと話が進まんからな」
「はぁ……分かったわ」
エルシアは大きなため息をつくと、重い足取りで俺の横を通り過ぎ、ギルドの扉を開いた。
そんな彼女を待っていたのは、数分前、俺にエルシアを呼んでくるよう言ったアデーレさんで、
「おはようございます、エルシア」
「……おはよう、アデーレ」
優しさのこもった穏やかな表情で親友を見つめるアデーレ。
エルシアは眉間に皺をよせて気まずそうに、軽く手を上げながら挨拶を返した。
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カウンターの奥、関係者以外立ち入り禁止の貼り紙が貼られた扉の向こうには、緊急時に使用される会議室や、ギルド職員の休憩室・更衣室、そしてギルド長によって半私物化された応接室がある。
アデーレさんに連れられて入ったのは、数々の一級品……『幻想郷:アルムンド』に生息する一角獣の見事な角や、『暗獄街:タナトス』の番犬である魔凶獣の漆黒に染まった毛皮など、なかなかお目にかかれないアイテムが飾られた件の応接室。
自慢の品々に囲まれながら、柔らかいソファーに座って落ち着きなくピョンピョン飛び跳ねていたのは、真っ赤に燃え上がるような髪を乱雑に後ろで縛り、ギルドの制服を窮屈そうに着た筋骨隆々の大男。
彼こそがこの町『ロザラム』の冒険者ギルドをまとめ上げるギルド長:ローウェン=バルトだ。
ローウェンとは幾度か話をしたことがあるが……彼の話はいつも長い。
「おぉやっと来たか! まったく待ちくたびれたぞ!」
「……待ちくたびれたって。 いつからそこで待っていたんですか?」
「妖樹の調査部隊から凄い報告がわんさか入ってきてな。 早く君たちに伝えたくて、昨日からずっとソワソワしていたんだ。 他にも、2人には報告と言うか依頼と言うか……まぁ、立ったままというのも難だ。 そこに座ってくれ」
ローウェンが示したのは机を挟んで反対側の、来客者用のソファー。
俺とエルシアは、ひとまず柔らかいソファーに腰を下ろした。
ソファーの前の机の上には、魔石がはめ込まれたペンダントと、紅く透き通った刀身を持つ直剣……エルシアの腰に納められている剣と似て非なるものが置いてあった。
「このペンダントと剣は妖樹と何か関係があるの?」
「その通りだ、剣姫君。 実は、これらは妖樹の体内から出てきたんだ」
「これが……どうして?」
「まぁ、ゆっくり私の話を聞いてくれ」
ローウェンはエルシアの疑問をいったん遮り、静かに調査部隊からの報告を話し始めた。
妖樹に似たモンスター、樹魔は、赤みを帯びた肉が魔石にへばりつくように塊を作り、心臓のごとく躍動している核を幹のどこかに隠し持っている。
その核を破壊すれば、樹魔は活動を停止するのだが……妖樹の核は、樹魔の物と形を異にしていた。
妖樹の核には手足や頭、胴体があり……まるで1人の人間のような形をしていたらしい。
そして、その核の左手らしきものに握られていたのが、いま目の前の机の上に置かれている直剣だと言うのだ。
直剣の横で青く輝くペンダントも、核の胸元あたりから見つかったらしい。
「つまりは―――」
「妖樹は元々……人間だったってこと?」
「そ、そういう推測が成り立つことになるな。 他にも―――」
直剣には、火属性の魔法が付加されていることが分かった。
魔法の付加技術は古代文明しか持っていない……いや、正確に言うと、帝国『アルムス』の天才貴族クラウド様(笑)が、禁書を解読して技術の一部を解き明かした。
ちなみに、帝国は禁書から得た技術を国家機密として厳重に保護しているので、諸王国にその技術が漏れることはまずない。
レオンとかいうただの(元)禁書庫職員が国外追放の刑にあったが……まぁ、漏れることはないだろう。
「つまりは―――」
「妖樹になった人間は、遠い昔、歴史の残ってない暗黒時代に生きていた。 ……そういえば、妖樹はエルシアさんを近寄らせないように、全身に炎を纏って襲い掛かってきたな。 あの炎の鎧はこの直剣に付加された魔法が関係していたのかも」
ふと、頭をよぎった疑問。
もしも本当に、妖樹が人間だったのだとしたら……俺は、人殺しをしたことになるのか?
たしかに、アレは正真正銘の化物だった。
理性を持たず、唯々、本能のままにすべてを喰らう邪悪の権化。
しかし……机の上に置かれた深紅の直剣。
鈍い輝きをはなつ鋼に小さな青い魔石が埋め込んであるだけの素朴なグリップ、目を引くところと言えば、燃え盛る炎の如き結晶でできた刀身ぐらいなもので、シンプルの一言に尽きる騎士剣だ。
けれど、確かに伝わってくる威厳、覚悟、勇猛。
この剣の所有者は、邪悪とはまったく無縁の誇り高き剣士だったのだろう。
なぜあんな化物に姿が変わってしまったのか……分からないけれど、自分の意志で姿を変えたはずがない。
俺の行いは、果たして正しかったのだろうか?
……いや、たぶん望んでいたはずだ。
醜悪な怪物に成り果ててしまった己を悲しみ、苦しみ、呪縛から解き放ってくれる誰かを待ち望んでいたはず。
そうであって欲しいと、身勝手ながらも俺は願った。
「なるほど……というか、2人して私の見せ場を奪っていくのは止めてもらえないか? 私がカッコよく仮説を披露して、それを2人が「さすが、ローウェンさん!」と拍手をしながら褒め称える……そんな構図を思い描いていたのに」
昨日からずっと拍手喝采の嵐を夢見ていたローウェンの表情には、ついつい同情してしまうほどに落胆の文字が色濃く浮かび上がっていた。
先ほどまでの、ウズウズワクワクしていた彼はどこへやら……。
「その……ごめんなさい」
「す、すまなかった」
「ま……まぁ、いいさ。 実はもう1つ話が―――」
まだ私には隠し玉がある! ……瞳をふたたび輝かせ、意気揚々と話を始めようとしたローウェンの最後の希望を打ち砕くように、
「そこからのお話は、私が代わりに伝えましょう」
突然、部屋に入ってきた謎の男。
男は呆気に取られているローウェンに深々とお辞儀したあと、俺とエルシアの方に顔を向けて、自己紹介を始めた。
「私はレスティー王国の全冒険者ギルドを束ねているヴィルヘルム=フォルツ。 国王様直々のご依頼をお二方にお伝えするべく、この地にやって参りました」




