深淵からのオーラ
新婚旅行に来たはずが、バカンス先で立派なクラリン神殿を建造した私達。
美しく荘厳な神殿は、私の頭をクリアにした。
私………何してんの??
まあ、でも、さ………。今回は本気でヤバかった。何がヤバいって、私がガチで人外にされるとこだった。
ねえ、そんな事ある?私が何をしたっていうんだ!貴族の義務を真面目に果たしていただけだというのに!あと、この世のモフモフがパサつくことなくモフモフしていたらいいとかと割と私欲もあったのに!!善人ではないというのに、なぜみんな勘違いするんだろう……。
まあ……クラリンの神殿はいずれ建てる予定だったから前倒しになったと思えばいいか。ここでクラリン信者が増えてくれればいいことしかないし。
「………本当にウチの妹は何がしたいわけ?次から次へと出かけ先でトラブルにあうとか……趣味なの?」
「断じてノー!!私ほど平和を愛する女はいませんよ?!というか、そもそも回避不可能だったと思いますし!なんですか、神聖ロッザリンド教団って!訴えて勝ちますよ?!皆して私を好き勝手使いすぎです!私のことを好き勝手していいのは夜のディルク」
「うんうん、そのぐらいにしておこうね。本当にありがとう、ルー。来てくれて助かったよ」
今回は我が兄ことルーベルト=ローゼンベルクが仕事を調整して来てくれた。医療分野担当であり、教育部門においても薬草の研究発表などをしていて顔が広いからだ。それから、麻薬のアフターフォローもできるので適役である。
「まあ、可愛くて残念な妹たっての頼みだ。仕方ないからどうにかしてあげるよ」
「本当に助かります!なぜ余計な業務が増えてゆくのか……」
本当に謎すぎる。
「それはね、ロザリンドが適当にそこらの人へ任せないからだよ」
「………そうかも。だって、医療機関とか教育機関とか……信頼できて有能な人でないと任せられなくない……?」
ローズさんに丸投げる手もあるにはあったが、せっかくならば信頼できて有能な人にお願いしたいと思うじゃないか。結局麻薬についてルート不明だし、兄ならそのへんもきっとフォローできる。それにせっかく大金使うんだしさ。横領とかされたらやだし。
「…………信頼できて有能な人?」
「え?はい。これ以上なく」
それはそうだろう。兄以上の人選となると……難しい。兄はそれなりに余裕を持って働いているから頼んでも困らないし、能力的に完璧。そもそもこの国に興味があったので来訪するいい機会とも思った。
懸念事項は図書館から出てこなくなるかもしれないことぐらいたが、きっと仕事を終えてからにしてくれると信じている。
「ふ、ふ〜ん。まあ仕方ないからやってあげるよ」
「流石兄様!あ、これ探してた本です。たまたま売ってたので即買いました」
「こ、これは絶版になった植物図鑑!絶滅種も禁種も載っている超稀少本!!しかも、しかも初版?!」
「これ、今回のお礼に」
「なるなる!流石は僕の妹だなぁ!」
我が兄ながら現金……。チョロいルー、略してチョルーの片鱗を見た。とりあえず兄は図鑑で買収されてくれたようだし他にも希少図書が手にはいるかもとホクホクだ。今回の件はお任せして問題ないだろう。せっかくの新婚旅行もあと少しなのだし、楽しむよう言われたのでお買い物を楽しむことにした。
そこで、私は見つけてしまった。
『俺と僕のサブミッション』
作者名は…………ウサ眼鏡先生ではない。さぶろう花子と書いてある。正確には花子だが………。どう考えてもこれ日本人では?!
いや、まあそこはどうでもよい。問題はタイトル。私はその美しい漫画絵の表紙から、強烈な腐界のオーラを感じ取っていた。
「………これ、買います」
立ち読みは良くないので購入し、店内併設のカフェで本を読む。ディルクも適当に購入した本を読んでいた。
読破した私は机に伏した。
「ロザリンド?」
「……くっそ面白かった……」
「……面白かったのになんでまたそんな苦渋に満ちた顔をしてるわけ?」
「この人は新たなる腐界の伝導師です……」
しかも、本当に面白い。タイトルからしてギャグかと思いきや、ほどほどに重たい設定とキャラの魅力が素晴らしくてついおかわり欲しくなるぐらい。悔しいけどラビーシャちゃんに勝るとも劣らない人材である。
「とりあえず、あと4冊ください。あと、この作者の既刊5冊ずつ全部ください」
「ああ、この人の本人気なのよねぇ。良かったわねぇ、他国だと書籍はすぐ売り切れちゃうから購入制限あるけど、ウチはすぐ再入荷するから」
静かに、しかし確実に腐界はこの世界を蝕んでいる……!私は本を腐界の根源であるお騒がせ娘と腐界の伝道師にそっと送りつけるのだった。
「……ロザリンドはふかい?が嫌なんじゃなかったっけ?」
「……嫌っていうか私が凛花を呼んだせいで女子たちの性癖を歪めたんじゃないかなって罪悪感があります。ありますが……」
それはそれとして…………好きなものを布教したいのはオタクのサガ!仕方ないんだ!!
ちなみに、本をもらった凛花は冗談抜きで奇声をあげて歓喜の舞を披露していた。残念な姪である。
ラビーシャちゃんはライバルの出現といい刺激になったそうでこの後新作をたくさん出したそうな。
後にこの事実を知った私が、やはり自分も腐界を広げているのではとしばらく悩む羽目になるのであった。
ディルクは何故うちの嫁は男同士の恋愛本が世に出回ることを悩むのだろうと首を傾げています。
もう誰にも腐界の侵食を止められない。邪神ロッザリンドでも無理なようです。




