ある鰐さんの一日
ゲータ(ラビーシャの兄)視点になります。正確には鰐と兎のハーフ獣人。見た目が鰐なのでとても凶悪です。
ある日、お嬢様から呼び出しを受けた。呼ばれた先が城だったが、ルー様の友人であるアルフィージ様のことで何かあるのだろうと気にしなかった。
既に顔見知りであるアルフィージ様の侍従に案内された部屋には、国王陛下、正妃様、側妃であるアルフィージ様の母君、アルディン様、アルフィージ様、ラビーシャ、隅っこにデブウサ…うちの親父がいた。
とりあえず、ドアを閉めた。
「あの…」
アルフィージ様の侍従がおろおろしている。
「…これ、何の集まりなんだ?」
「これからアルフィージ様が説明いたします。皆様ゲータ様をお待ちしておりました」
「…そうか」
なるべく無表情を心がけたが…内心では、俺にだって心の準備とかさせてくれよ!無駄なサプライズはすんな!王族待たせてたとか、プレッシャーはんぱないわぁぁぁ!!とお嬢様に愚痴っていた。俺の叫びよ、お嬢様に届け(現実逃避)
「ゲータ殿、騙すような真似をしてすまない」
アルフィージ様が俺を席に案内してくれた。身分差があるからと着席をやんわり断ると、今回はあくまでプライベートだし話しにくいと説得され、結局素直に着席した。
「さて、今回私はこちらのラビーシャ=ワルーゼ嬢と正式に婚約することになった」
「兄上、おめでとうございます!」
「ありがとう。そこで問題となるのがラビーシャ嬢の身分だ。義父上とゲータ…義兄上にも関係があることだからお呼びしたのです」
「ラビーシャを養子にってことか?」
「それも視野には入れていますが、私はワルーゼを貴族として復帰させたいと考えております」
確か、じいさんが冤罪かけられてウルファネアが復帰させたいと申し出たけど蹴ったんだよな。ラビーシャはじいさんと仲良くないから知らないが、俺は偏屈で頑固なじいさんが心配でよく遊びにいっていた。
「私は…辞退したいと考えております」
隅っこで縮こまっていたデブウサギこと親父が発言した。プルプルしている。
「何故ですか?」
「私は元商人で、今は孤児院の院長です。そして今、子供たちが社会に出ても食うに困らないシステムを作ろうとしております。昔のつてを使い、子供たちにあった技術習得や実習…これは貴族ではできません。少なくとも、このシステムが確立するまでは…いえ、私は元とはいえ商人としての矜持もございます。ですから、お受けできません」
最初はプルプルしていた親父だが、最後はちゃんと言いきった。
「…そうか。ゲータ義兄上はどう考えておられますか?」
「俺は…じゃなかった、私も貴族になる気はありません。悩み、考えてルー様の従者兼助手を続ける選択をいたしました。私は誇りをもってこの命あるかぎりルー様とローゼンベルクにお仕えする所存です」
迷いはなかった。お嬢様もルー様も、俺にちゃんと選択肢を与えてくれた。俺は研究者として、従者として、ルー様に仕えると自分で決めた。
医師資格も得たから、ボランティアで孤児院に診察に行ける。今は留学時に得たつてを使い、貧しいものへのボランティアでの診察を広めようとしている。仲間は金に苦労した平民ばかり。どう考えても貴族の身分は邪魔になる。
「…悪いな、ラビーシャ。だが、お前がどこかに養子に行こうが、お前はずっと俺の大事な妹だ。お前が幸せならそれでいい。アルフィージ様なら間違いないだろう。アルフィージ様、妹をよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げた。
「兄さん…」
「正直、わがままで腹黒くてはねっ返りのお転婆娘ですが、根は優しい妹です。必ずやアルフィージ様を支えてサポートすると思います」
「兄さん、上げてんの?落としてるの?ほぼ悪口じゃない!」
ラビーシャは膨れて俺の頬を伸ばした。頑丈だからかあまり効果はない。
「事実だろ」
「兄さんの馬鹿!ヘタレ!童貞!」
「おまっ!?最後は関係ないだろうが!」
「こらこら、やめなさい!」
慌てて父が仲裁に入った。やべ、素で会話してたわ。王様達は笑ってるからセーフか?
「私は…家族とは疎遠でアルディン以外と関わるようになったのはここ数年だ」
アルフィージ様は優しい表情で話し始めた。
「だから、ワルーゼ家のあたたかいやり取りは見ていて微笑ましいし、ラビーシャ嬢から取り上げたくはない。母上、わがままを許していただきたいのです」
アルフィージ様によく似た側妃様がニッコリと微笑んだ。
「任せて!つまり、ラビーシャ嬢は平民のままアルフィージと結婚するのね?」
「はい」
「は?」
「え?」
「ふむ」
「あら」
「大丈夫なのですか?兄上」
呆然とする俺と親父、面白そうな王様と正妃様、まともに大丈夫かと確認するアルディン様。
「アルディン、私が周囲を納得させることも出来ない無能だと?」
なんという説得力。
素直なアルディン様は謝罪した。美人の笑顔、スゲェ怖いな!
「むしろ、政敵をいぶりだせていいわよねぇ。ラビーシャちゃんは冤罪で貴族籍を失い、苦労した悲劇の令嬢…という噂を流しとくわ。アルフィージの婚約に反対する馬鹿の始末は任せてね。うちの可愛いお嫁さんをいじめるやつは、絶対に許さないからね、ラビーシャ」
側妃様もアルフィージ様そっくりですね。黒さが全開です。ラビーシャ、気に入られてるんだな。よかったな。あの側妃様は絶対敵にまわしたらダメな人種だ。ラビーシャは苦笑していた。
「あら、私もお手伝いしますわ」
正妃様もニッコリと微笑んだ。
「わ、わしも…」
「俺もお手伝いします!」
「「貴方達は大人しくしててね」」
この国、実は女性が最強なのではないだろうかと思った瞬間だった。
「お義母様、私も頑張って大物を引っ掛けますね!」
「「期待してるわよ」」
ラビーシャはこの国のトップレディ達と同類でした。本人の素養はお嬢様によって更に磨かれ……何があってもうちの妹は大丈夫だと俺は確信しました。
作者多忙につき返信が滞りまくってすいません。落ち着いたら順次返していきます。更新はどうにか続けるつもりです。
またファンアートをいただきましたので、活動報告にあげておきます。




