とある兎の一日
ラビオリさん(ラビーシャのお父さん)視点になります。
麗らかな春の日に、私はお嬢様…ロザリンド=ローゼンベルク様に呼び出されました。いつものようにローゼンベルク邸の応接室に通され、お茶をいただきお嬢様を待ちます。たまに孤児院の報告や、不足物資はないかとお嬢様が確認されることもありますので、なんの疑問もありませんでした。
今日もローゼンベルク邸のお茶菓子はおいしいです。また太ったら娘にデブウサギとか罵られるんだろうなあ…しかし、止まらない。おいしいなぁ…もぐもぐ。
だから正直、完全に油断していたのです。
「申し訳ない、お待たせしてしまいました」
「いえいえ…先ほど来たばかりですし、こちらでおいしいお茶と茶菓子をいただいておりましたから大丈夫ですよ」
立ちあがりにこやかに返事をしつつ、脳みそをフル回転させていました。
どちら様だろうか。
突然現れた彫像のように美しい青年。微妙に見たことがある気がする。身なりからして貴族なのは間違いない。しかし、誰だかわからない。昔とった杵柄で、人の顔と名前を覚えるのは得意だったのに………
「父さん…」
「ラビーシャ」
美しい青年の背後から娘が顔をだした。娘にしか聞こえないように囁いた。
『ラビーシャ…父さんこのお兄さんが誰か思い出せない』
「あ…えっと…アルフィージ様、自己紹介してないんですか?」
流石は我が娘、素晴らしいフォローである。青年もしまった、という表情で自己紹介してくれた。
「ああ、重ね重ね申し訳ない。私はアルフィージ=クリスティア。この国の第1王子だ」
クリスティア第1王子、アルフィージ=クリスティア様。おうじさま……?
「おとーさぁぁん!?」
私はびっくりしすぎたのか、気絶したらしい。
そうか、私が死を覚悟したあの事件…お嬢様と関わるきっかけとなったあの事件の断罪の場に幼い彼はいた。だから見おぼえがあったんだね。
「う~ん…」
「父さん、大丈夫!?」
「…ラビーシャ?おはよう」
「…父さん、今は昼よ」
状況を把握する。私は王子様にびっくりして気絶したのだ。素早く床に土下座した。
「すいませんすいませんすいませんすいません」
「……ラビーシャ嬢…私はそんなに怖いのか?」
「あー、いえ…貴族にはろくな思い出がないですし、アルフィージ様に失礼だったと判断しただけですよ…多分」
さすがは我が娘!正解である。とりあえず謝罪すべきと判断したのです。
「顔をあげてください。私の話を聞いてくださいますか?」
アルフィージ様は丁寧に私を起こして座らせた。いったいなんの話だろうか。
「私はラビーシャ嬢に婚約を申し込みに来ました」
「こんやく…」
アルフィージ様が、うちのラビーシャに、こんやくを申し込みに来ました。
こんやく…こんにゃく…いや違う……婚約!?
「のえええええええ!?」
この美しい王子様がラビーシャと婚約!?
ラビーシャ…父さんラビーシャがお金持ちと結婚したいって言ってるの、知ってたよ。父さんのせいだよね。お金なくて苦労させたもんね。父さん、金持ちのじじいの嫁になるとか言われたらどうしようって不安だったんだよ。しかし、とんでもない優良物件捕まえてきたんだね!
アルフィージ様はラビーシャを愛おしそうに見つめ、触ろうとして手をはたかれていた。うん、仲良しだね。でも不敬罪になんないか怖いからやめてほしいな!父さん小心者だからさ!見ててすごーくヒヤヒヤするんだよ!
「そうでしたか。ラビーシャは私がお金で苦労させてしまい、けっして文句は言わなかったのですが、金持ちと結婚したいと言っていまして…」
「いや、今は考えてないから!お嬢様に『むしろ養ってあげたいぐらい好きな男を見つけろ』って言われてるから!」
「そうなのか…父さん安心したよ」
「……え?」
心底ホッとした私。あれ?アルフィージ様が真っ赤になってるよ?
「…ラビーシャ嬢は私が失脚したら養ってくれるつもりなのか?」
「!?そもそも失脚させませんし…したら養ってあげますよ!まさかお金目当てだと思ってたんですか!?殴りますよ!お金目当てなら商人とか、もっと楽な相手にしますよ!王子様相手なんて面倒です!」
「…つまり、ラビーシャ嬢は私が王子じゃないほうがいい?」
「…そうですね。王子様じゃなくて、平民だったらよかったのに。お金も地位も邪魔です。アルフィージ様本人だけで充分魅力的です」
「うわぁ…すごい口説き文句だねぇ。こっちが照れちゃうなぁ」
ラビーシャが幸せそうで何よりだ。アルフィージ様もラビーシャを愛しているのがよくわかる。
「アルフィージ様はラビーシャのどこが気に入ったのですか?」
「最初は有能だから部下に欲しかったのです。しかし、彼女は貴族女性と違い私に真っ直ぐ意見をのべ、時に協力し…気がつけば人生の伴侶は彼女しかいないと考えるようになりました。それから…ちょっかいを出すと反応が可愛いんですよね。やりすぎたかとこちらをうかがう所もかわ「ストップ!うちの父に何を話しているんですか!?」」
「いやいや、ラビーシャの良さをよくわかってくれてるじゃないか。なかなか素直になれないですが、根は優しい子なんです。こちらこそ、娘をよろしくお願いいたします」
「ラビオリ殿…いや、義父上…」
「父さん…」
私はアルフィージ様の手をとり、頭を下げた。
「必ずや、ご息女を幸せにします」
アルフィージ様は、本当に真面目な好青年でした。
「そういえば、獣人は自らが狩った獲物を渡して婚約するのが正式だと聞きました」
「はあ…そうですね」
といっても、それは昔の風習で今どきやる獣人はほとんどいない。アクセサリーや金品で代用するか、群れで狩った獲物にしている。
「この部屋だと入りきらないので、ロザリンド嬢から庭を借りる許可をいただいています」
私は、正直この綺麗な王子様を見くびっていました。彼はロザリンドお嬢様の友人だという、重大な事実を忘れていたのです。
「こちらになります。巨大ですので、このポーチにしまってお持ち帰りください」
首を斬られた巨体。ドラゴンに似た深紅の鱗……うん。これ1体で孤児院を10軒建ててもおつりがくるよ。
「どうォォォォん!!」
私は意味不明な叫びと共に気絶した。しかし、ラビーシャのお婿さんは人外な強さであるらしい。炎系最強の魔物を単独討伐……ラビーシャは何があっても大丈夫だと確信し、安心して気絶したのでした。
ちなみに、魔物はお嬢様によっておいしく調理され、残りは売却しました。一切れいくらかわかるだけに、ものすごく葛藤しましたが、ありえないぐらい美味でした。
お金は結局孤児院の補修に使い、残りはラビーシャの嫁入り資金にすることにしました。身分差の関係から養子に出すことになるでしょうが、花嫁衣装ぐらいは私が用意してやりたいと思います。
またしても酔勢 倒録様からファンアートをいただきました。昼頃活動報告にあげておきます。




