モヤシと魔石
魔法院2日目。またどーせ、呪い復活してるんだろーなと思いつつ第1開発室のドアをくぐった。
「おはようございます」
「あ、きたきた!」
「おはよう!」
「おはよー!いやあ今日も可愛いね!」
「こっちが席だよ」
え!?
入るなり研究員さん達に連れられて、私のデスクに連れていかれました。展開についていけず、ハンスさんを見ると頷く。今は皆正気らしい。臭くもない。お風呂にちゃんと入ったのかしら…と現実逃避していたら、聞きおぼえのある声がした。
「うるさぁぁい!」
雷魔法が炸裂した。荒っぽいな、エルンスト。私はやはり結界で無傷である。
「あ、おはようロザリンド!研究の話をしないか?」
「あ、はい。かまいませんよ」
多数の大人に包囲されるよりはエルンストのオタトークに付き合う方がいい。私はエルンストに駆け寄った。
「エルンストに友達が…!」
ハンスさんが崩れ落ちた。泣いている?え?なに!?
「良かったな、エルンスト!」
「ぼっち卒業か!」
「今日はお祝いだな!」
「友達記念日だな!」
エルンストがうつむいてプルプルしている。これ、多分あかんやつや。
「うるさぁぁぁぁぁい!!」
先ほどより強烈な電撃が第1開発室で炸裂した。エルンストはさっさと私を連れて引きこもり部屋…じゃなかった、自分の研究室に私を連れ込んだ。
賢者の汚部屋と違い整頓されていて、棚に飛行機みたいな模型と本がずらり。机とベッドがあり、天井は空を模してあった。隣室が確か風呂とトイレだったよね。
「何を話す?」
「ああ、今後の計画は?」
防音結界を展開してから話をする。
「………ん?うん。今は調査中だから様子見になるよ」
「そうか」
「だから雑談…というか、飛行魔具の話する?」
「いいのか!?」
「いいよ。ところでエルンスト、友達いないの?」
「……………………………いない」
「なら、私が1号か」
「……………………………は?」
「へ?」
あれ?違うの?私は結構仲良くなれたと思ってたんだけど、勘違いか?
「…私、友達1号じゃないの?」
「え!?そうなのか!?いたことがないからわからない!ロザリンドは友達なのか!?いつからだ!?」
「ええと…友達はいつの間にかなるものです。仲良く話せるようになれば友人かと思います。多分昨日からかな?エルンストは私と友達になりたくな「なりたい!!友達になりたい!!」
色白だからほっぺが赤いのが目立ちますね。私も友達が少ないけど…まさかのゼロとは予想外でした。後で兄にも友達になってもらうか。あとシーダ君あたり。
考え事してたら、がっちり握手されました。うん。嬉しいのはわかったけど、ちょっと加減しろ。地味に痛い。意外と腕力あるな、エルンスト!
「せっかくだし、友達記念だ!遊ぶか!」
「すっげぇぇぇぇ!!」
エルンストが…輝いています。現在私達はヴァルキリー飛空艇モードで飛行中です。エルンスト、大興奮です。
「私は専門分野ではないので申し訳ありませんが、贈り人の世界ではこの形にエンジン…動力をのせて翼を可変させることで気流を変化させていました。着陸時のみ車輪が出て……」
サラサラとリンの世界の飛行機を描いていく。エルンストは真面目に聞いていた。
「ちなみに素材は?」
「金属でしたね。雨で劣化しない素材は必須です。雲は水分の固まりみたいなものですから。昔は木造もあったようですが」
「…なるほど。ユグドラシルなら全部クリアするけど、流石になぁ…高額すぎる。魔石も…最低Sランクはいるかな…このランクになるといくらになることか…」
試算して肩を落とすエルンスト。なかなか高額だなぁ。
「おや、こんなところに魔石が」
「…………………………おい」
冒険者殺しの奴と、マーサがくれたインシェントタートルの魔石。なかなかにずっしりくる。
「どっちがいい?」
「…………え?」
「それとも…狩ってくる?一狩り行く?足はあるし、どうせなら風属性狙うか」
「ええ?」
「大丈夫!今なら暇してる英雄と、その息子と、SSランクパーティーと元最強騎士の護衛がつくかも!!予備も欲しいよね!」
「えええええええ!?」
「いやー、大漁大漁!」
「………あ…ありえねぇぇ」
暇してる英雄親子と私とディルクでSランクの風属性魔物、インシェントガルーダを乱獲しました。全部で8個。まずまずの成果です。ジェンドが結構成長していて、アデイルと互角ぐらいになってました。スーツで強化しているとはいえ、確実に実力をつけています。
ディルクはたまたま…暇だった…というのは多分建前で、呼んだら来てくれました。
そして、意外にもエルンストは強かった。彼の雷魔法はガルーダ系に有効だったし、魔力コントロールが巧みだった。体力はないから途中英雄に担がれてたけど。
「予備も充分だね!」
「………………そーだな」
今は皆でランチタイムです。新鮮な鶏肉もあるし、せっかくだから何か作るか。
「ディルク、鶏肉料理なに食べたい?」
「唐揚げ!」
「かしこまりー」
「主!チキンステーキ!」
「はいはい」
「僕照り焼き!」
「おっけー」
「…あ…俺はこれで…」
エルンストは携帯食料を出したが、却下した。
「エルンストはチキンスープにします」
というわけで、豪華鶏肉ランチになりました。
「ロザリンドのごはん…」
ディルクがご飯と幸せを噛みしめています。
「ロザリンドと食べるロザリンドのごはんは世界一おいしい…幸せ…」
お膝抱っこは恥ずかしいし食べにくいのですが、ディルクが幸せなら仕方ないのです。
「…恋人なのか?」
「婚約者です。恋人でもありますよ」
「なるほど。恋人っていちゃつくもんなんだよな?えーと、りあじゅーばくはつしろって呪文を言うのが礼儀なんだよな?」
「そんな礼儀はないから。誰だ、そんな嘘教えた馬鹿」
「りあじゅー?」
ジェンドが首をかしげる。
「リアル…現実が充実した人ってこと。リア充爆発しろってのは『くっそ恋人とイチャイチャしやがって!羨ましいんだよ、爆発しろ』の略」
「………それ、もはや呪いじゃねえか!!エド、帰ったらぶっ飛ばす!!」
犯人は院長でしたか。やりそう。いや、他にもやらかしてそうだな。
「たまに院長、でたらめ教えたり……」
「めっちゃしてる」
典型的なダメ親父だな。エルンストがどんよりしている。頭を撫でてやると驚かれた。慰めただけだよ?
「後で私もシメてあげますよ」
「頼む」
お互いニヤリと笑った。
「…あまり無茶はしないようにね?」
常識人なディルクさん。私はにっこり微笑んだ。
「前向きに善処いたしますわ」
「……………容赦する気が微塵も感じられないよ…まあ、たちが悪い悪戯ぐらいだろうから、いいけど」
ため息をつくディルク。
「それいい!仕返しじゃなくて悪戯しよう、エルンスト!魔具職人、本気の悪戯を見せてやろう!」
「わあ、面白そう!僕もやる!僕も混ぜて」
「…そうだな、たまにはいいか」
「あああああ、火に油を注いでしまった!」
「はっはっは。子供達が楽しそうで何よりだ」
頭を抱えるディルクと、愉快なようすのジェラルディンさん。大丈夫、あくまで悪戯ですから!
というわけで、次回は悪戯をやらかします。魔具職人の本気をご覧あれ。




