料理は愛染明王…ではなく愛情だろ!
「お次は…いざというとき、パパがご飯を作る場面もあるでしょう!というわけで料理対決!食材はこちらで用意しました!」
山盛りの食材を使い、我が家のキッチンで料理を作るそうですが、参加者の皆さんが着ているエプロンに『料理は愛染明王』と刺繍されているのが気になります。彼方さんが居ないので、日本語で刺繍されたそれがどんだけおかしいのか理解してくれる仲間が居ません。多分皆さん『焼肉定食』とか刺繍されててもナチュラルに着ちゃう気がします。
とりあえず、料理は愛情だろ!!と内心で盛大につっこみました。
「ふむ」
適当に肉を手に取るジェラルディンさん。
「審判、確認したいのだが」
「何?」
「おう」
「…妻と息子に食べさせるのか?」
「他の方も味見しますが、そのつもりで作ってください」
ラビーシャちゃんが補足した。
「わかった」
ジェラルディンさんは真面目な表情で肉を選び始めた。野菜は?肉しか選んでない。
「え?妻と子供?うーん…大丈夫かな?」
ミチェルさんは首をかしげながらなにやら草をチョイス。さらに果物、野菜、スパイス…たんぱく質は豆ですか?大丈夫なのかしら。
父は…粉を見てますね。小麦粉?それに肉、野菜、スパイス…なんというか、バランスよく選んでいます。
待つことしばし。
「できたぞ!」
「ジェラルディンさん、完成です!なんの料理ですか?」
「オークのステーキ、ミンクウサギのステーキ、マジックホースのステーキだな」
「…………見事に全部ステーキだな」
「ルーミアにオーク、ジェンドにミンクウサギ、ジャッシュにマジックホースだ」
「試食はお嬢様です!」
「え?」
「お嬢様の後にご家族に食べていただき、採点していただきます!」
とりあえず、オークから。
「…あれ?おいしい」
筋も切ってあり、柔らかいお肉です。ややスパイシーかな?
ミンクウサギは甘めの味付け。マジックホースは固いけど、ジャッシュはちょうどいいのかも。マジックホースはサッパリと塩ベース。獣人はスパイス苦手な人もいるからね。
「…おいしかった。多分それぞれの好みを考えてあるお料理でした。ただ、野菜が欲しい。あと米」
「主、ステーキは俺が唯一作れる料理だ。他はやったことがない」
「……………納得しました。今度簡単な付け合わせを教えてあげます」
「うむ」
ステーキしか作れないのは、なんとなく納得しました。
残りはそれぞれルーミアさん、ジャッシュ、ジェンドが食べました。ついでに米とゆで野菜も出してあげました。
「おとーさん、おいしい」
「そうか!たくさん食ってでっかくなれよ!」
「………おいしいです。父上、覚えていてくださったんですね」
「…ん?ああ、お前がウマイと喜んで食べるのは珍しかったからな」
ジャッシュの目がウルウルしてます。なんでもマジックホースの肉は昔ジェラルディンさんがジャッシュに狩りで獲ってきて一緒に食べたことがあり、幼いジャッシュが喜んでいたのを覚えていたらしい。
「うまいか?」
「………はい。おいしいです」
泣きながら尻尾を振るジャッシュを優しく撫でるジェラルディンさん。普段ジャッシュは振り回されているが、この親子もなんだかんだで仲良しらしい。
「久しぶりに貴方のステーキを食べたわ」
「うまいか?」
「ええ」
ジェラルディンさんのステーキ、ルーミアさんの分はかなり念入りに下処理してあった。笑顔のルーミアさんにデレデレするジェラルディンさん。よかったね。
「さて、お次はミチェルさんですね。何のお料理ですか?」
「サラダ、野菜スープ、フルーツタルトだ」
いつもの癖でご家族全員分作ったそうで、量があるので皆で食べました。
「おやたいおいちい!」
「うふふ、貴方の料理は久しぶりね」
「肉食いたかった」
「なんだとー?父さんの野菜スープ好きだって病気の時はしょっちゅう飲みたがったくせに」
「ば!な!む、昔の話だろ!」
慌てて照れるシーダ君。レアだな。録画してミルフィに横流ししよう。
「そんなに昔でもないだろ~?」
「昔だよ!」
「で、味は?」
「………………うまいけど」
シーダ君とミチェルさんも仲良しですね。
それぞれおいしそうに食べてます。ミチェルさんは植物研究の一環でおいしい調理法なんかも試すらしく、どれもおいしいです。シーダ君が言った通り、肉か魚が欲しかったけど豆類がたんぱく質なんで栄養としては申し分ない。
「僕のお肉半分あげるからお野菜ちょうだい」
「いいぞ」
ジェンドとシーダ君はお互いシェアすることにしたようです。確かに足して割ったらちょうどいいね。
「野菜だけでありながら、栄養・味ともに申し分ないです。特に野菜スープが素晴らしい。今度レシピ教えてください」
「かなりの高評価ですね!最後に旦那様、お願いします!」
「即席サンドイッチとスープだ。具は好きなものを挟んで食べる」
ナンに近い薄いパンと肉、たまご焼き、魚のフライ、カット野菜…ソースも数種類。スープはトマトスープかな?
「父様、料理できたんですね」
「ああ、昔遺跡探索や冒険者の真似事をしていた。その時にうまいものが食べたければ自分で作るしかない状況だったからな。覚えた。ロザリンドやダンには劣るが…まあ味は保障する」
こちらも多めに作ってあるので皆で食べました。
「おいしい!パパ、おいしいです!」
「…そうか」
「今度またピクニックしましょう。その時は一緒に作りましょうね」
「ああ」
「とう…パパ、おいしいです」
「そうか」
父は優しく多分笑って兄を撫でた。兄嬉しそうです。
「ルーとロザリンドは好き嫌いがなくて偉いな。シンシア…野菜も食べなさい」
「うー、だって苦手なんですもの…」
「愛しのシンシア…スープは君のために作った。きっと気に入るはずだ」
「…おいしい!」
母は父に促され、しぶしぶスープを飲んだが気に入ったようだ。父は嬉しそうです。
「ほら、シンシア…」
「あーん」
ナンもどきもちぎって一口大のサンドイッチを作り、父は母に食べさせています。ラブラブですね。
「兄様、私もあーんしましょうか」
「…ほら」
「へ?」
「あーん」
「むぐ…おいひいです」
兄が食べさせてくれたので、おかえしに私も食べさせあげました。
「…仲良しですよねぇ、ルー様とお嬢様」
「ルー様はなんだかんだでお嬢様を可愛がってるからなぁ…お嬢様もルー様になついてるし」
審査結果は以下の通り。
1位➡父
2位➡ジェラルディンさん
2位➡ミチェルさん
決め手はバランスの良さですかね。でも、食べさせる相手のことをよく考えた素晴らしいお料理でした。
わりとどーでもいい補足。ルーミアさんは辛党なので味付けがスパイシーでした。ジェラルディンさんは自分が食べるなら塩ふって焼くだけです。家族が食べるからちゃんと調理しました。ジャッシュのが固めなのは大人の獣人だから大丈夫だという判断です。
ちなみに冒険者まがいをしてた時のパーティーは、父・アーク・マーサ・ルドルフさん・ギルドマスターでした。他メンバーもそこそこ料理は出来ますが、基本的に雑なのでうまいものが食べたいなら自分でやるしかないと父は判断しました。




