遺跡に眠るもの
遺跡の最深部付近にさしかかり、ジェラルディンさんが首をかしげた。
「俺はガキの頃からこの遺跡で遊んでいたが、この奥は行き止まりだぞ?」
「Bランクの遺跡で遊ぶとか、非常識ですね」
「…ジェラルディンさんもロザリンドに言われたくないと思うよ?」
「非常識なのはお嬢様の方だと思いますよ?」
「ロザリンドちゃん、現実を見てくれ」
「ロザリンド様のほうが間違いなく非常識ですよ」
「あー、うん。まぁ…うん…せやな」
「味方がいない!ディルクまで酷い!」
「…ごめんね」
私は泣き真似までしましたが、誰も否定しませんでした。皆して酷い!すっかり拗ねた私は遺跡でしゃがみこんで体育座りの姿勢になりました。
「ロザリンド」
「ふんだ!」
「に、にゃ~ん」
ふんだ!可愛くなんか…可愛いけど!獣化したディルクはセクシーかつ可愛いけど、そう簡単にほだされないんだから!私は悪のりするけど一応常識はあるんだから!ちょっとお転婆だけど、普通の女の子なんだからね!
「にゃ、にゃぁお」
「………………………」
可愛いディルクの鳴き声にも揺らがない。ちょっともふりたいけど我慢だ!私は固く決意した。
しかし、目の前に突如現れた超絶ぷりてぃなあんちくしょうに一瞬で陥落した。
「いやああああああ可愛い!可愛い可愛い可愛い可愛い!!奇跡が!ミラクルが!素晴らしい!fantastic!!ありえなぁぁい!」
「ロザリンド!?目が怖い!」
仔猫サイズの完全獣化ディルク様に、私は大興奮です。即座に抱っこしてスリスリしました。ディルクのモフ心地は世界一です!お持ち帰りしたい!いや、連れて帰る!一生一緒に暮らす!!幸せにしますからね!!
「えっらいテンションやな。しかも無駄にfantasticの発音ええし」
「さっきのジェラルディン様とは比べ物にならないぐらいのテンションだな。主の機嫌がなおってよかった」
はう…もふもふ…仔猫ディルクマジで天使。ディルクをだっこしてスリスリしてあげます。甘噛みして…優しく抱きしめます。
ディルクは魔力コントロールが上達した結果、完全獣化ならある程度サイズの変更ができるようになったらしい。今度は大きくなってもらって、背中に乗っけてもらおう。
べ、別に私はチョロくなんかないんだからね!チョロいのは兄ですから!ディルクが可愛すぎるのがいけないんですよ!
「ふみゅう…ゴロゴロ。もう、くすぐったいよ」
天使から猫…いや黒豹パンチいただきました。肉球スタンプだなんて、ご褒美ですよ。ごちそうさまです。まいう~です。
ゴロゴロ言ってるくせに、恥ずかしがりやさんなんだからぁ!ディルクをなで回しつつ進んでいきます。皆が残念なものを見る目だった気がしますが、気のせいです!ディルクが可愛すぎるから私がメロメロになるのは仕方ないのです!
ディルクを抱っこして超上機嫌な私と皆さんは遺跡の最深部にたどり着きました。
「行き止まりですね」
「見た目はな」
彼方さんはここまで迷いなく進んでいった。この遺跡はゲームと構造が完全に同じらしい。私はよくゲームでも迷子になるタイプだったので、道を覚えてる彼方さんをすごいと思いました。いや、いつの間にか同じとこを回り続けるんだよ。不思議だよね。
行き止まりで彼方さんは壁を確認し始めた。
「ロザリンドちゃん、見てみ」
「ボタン?」
彼方さんがボタンを押すと、音声が流れた。
『クイズに答えてください。童話のシンデレラ。日本語の意味は?』
「灰かぶり」
『正解。童話、赤ずきんちゃんで狼が食べたのは?』
「お祖母さんと赤ずきん」
『正解。最終問題です。ラプンツェルとは、和名の何を指す?』
「ノヂシャ」
『正解。貴方を異界の友人と認めます。ゲートオープン』
声とともに隠し通路が現れた。
「おお…!」
ジェラルディンさんがわくわくしているらしい。尻尾がいつかちぎれないかしらというぐらいブンブンしている。
「最後のよく分かったな」
「いや、ラプンツェルはサラダにして食べるらしいのでどんなものか興味があって調べました。問題はランダムなんですか?」
「おう。最後が難しいやつになるな」
確かに最終問題はやたら難易度が高かった。たまたま知ってたからよかったけど。
さらに地下へと下りていく。通路は灯りで照らされていて暗くない。電気ではないな…微弱だが魔力を感じる。階段が終わると、ひらけた場所に出た。するといきなりスポットライトが女性を照らした。
「…萌え系アンドロイド?」
猫耳メイド服の美少女ロボットが現れた。じっとしていると人形みたい。祖母宅の飼い猫と同じ白地にブチ模様だ。なんとなく親近感をおぼえていると、猫耳メイドロボットはにっこり微笑んだ。
「よーこそいらっしゃいました、異界の旅人様!あたしはミーコと申します。何をお望みですか?」
「とりあえず、この施設の目的は?」
「はい、ここは異界の旅人様のための施設です」
「何ができるの?」
「情報提供が基本です」
「情報提供以外だと?」
「お答えできません。マスター登録をされた方のみが…………………………」
淡々と答えていたミーコちゃんが停止した。え?壊れた?私は無実です。
…………
………………
………………………
5分経過しても動きません。
「…ロザリンドちゃん、壊した?」
「いやいやいや!さすがに無実です!話してただけだから!」
「…むしろヒトに壊れたは無いんじゃない?でもこのヒトはアンデッド…ではなさそうだし、息してないし匂いも生きものらしくなくて怖いんだけど」
腕のなかの天使が怖がってます。怖くないよ!ディルクのためなら神様だろうが魔だろうが倒しますから!ディルクをよしよししました。チラッと見たら、ジェラルディンさん達も毛を逆立てて警戒している。気持ち悪いんだね。
「見た目は人間に近いけど、ナビィ君やゴーレムに近いカテゴリかな」
「…なるほど」
天使は納得したようだ。
「……マスター登録を確認しました」
「ん?」
ミーコちゃんが再起動した。
「マスター!歓迎いたします!大変失礼いたしました!さあさあさあ奥へどうぞ!あたしったらお茶もお出ししないで申し訳ありません!すぐにおいしいお茶とお菓子をご用意いたしますね!お連れの方もどーぞ!」
「えっ!?ちょっと…待って…」
「さあさあさあ遠慮なさらずー☆マスターが来てくれて嬉しいですぅ!」
ミーコちゃんは超強引ぐ☆マイウェイでした。お茶の会計時に支払いをさせないおばちゃん並みの手腕でした。なんで急に態度がガラッと変わったの!?戸惑う私を全く気にせずミーコちゃんはグイグイきています。
「え?この奥は入ったこと無いなぁ…」
「お嬢様は女性に弱いですよね」
戸惑う彼方さんとしみじみ言うジャッシュ。私は女性に弱いわけではないが…オバチャンに勝てる気がしない。地上最強の生きものはオバチャンであると信じている。
ミーコちゃんによって、遺跡のさらに奥深くへと連れていかれるのでした。




