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トルコ石  作者: 葉櫻
一、まじゅつし
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イントロ

白景蘿バイ・ジンルオは、澄んだ渓流を無表情で眺めながら、心の中で盛大にため息をついた。


(どうしてこんなキャンプなんか来ちゃったんだろう……)


じめじめした夏に一泊キャンプへ参加するなんて、まったく気が進まなかった。昨夜は風呂に入ったそばから、パジャマが汗でびっしょりになった。山の中だというのに、気温はさほど下がらない。この行程で唯一楽しみにしていたのは川遊びだったのに、いざ渓辺に来てみれば、ロープで囲まれた安全な浅瀬で水を掛け合うだけだというのだから、がっかりにもほどがある。


かつて家族とここへ来たことがある。上流はもっと深くて、水遊びにうってつけだった。

あの頃の楽しい思い出が蘇り、景蘿ジンルオはこっそりダサいオレンジ色のライフジャケットを脱いだ。下には灰色のシャツと黒のズボン。岩場に溶け込む保護色だ。

足を切った同級生に皆の注意が集まった隙に、彼女は大岩の陰に滑り込み、騒がしい声が完全に遠ざかるまで、ひたすら上流へと歩いていった。


冷たい水を踏みながら歩いていると、魚が見えた。

反射的に手を伸ばしたが、どうしても捕まえられない。指の間をするりと抜けていくたびに、濁った泥水が広がるばかりだった。

悔しくて、待った。

水が再び澄んでいくのをじっと見守り、魚の位置を確かめてから、思い切り飛びかかった。


一見平らに見える渓床には危険な渦がある――コーチが何度も口を酸っぱくして言っていたはずなのに。

踏み外して転んだ瞬間、激流が景蘿ジンルオの体をあっという間にさらっていった。

渓水が目に飛び込んで痛くて目が開けられない。体が岩に何度もぶつかる。せめて顔だけでも枝で傷つけないよう、両腕でかばいながら流されるしかなかった。


(どこを怪我してもいい、顔だけは駄目!)


大量の水が鼻腔へ流れ込んだ。

そして、意識が途絶えた。



鳥の声が彼女を目覚めさせた。

それでも体を動かす気にはなれなくて、ぼんやりもう少し眠っていようとした。


――いや、待て。


溺れかけたことが脳裏に閃き、景蘿ジンルオはがばっと飛び起きて全身を確かめた。


……おかしい。大きな傷はおろか、小さな擦り傷一つない。びしょびしょの服と髪だけが、確かに水の中にいたことを証明していた。


(誰かが助けてくれた?でも、渓流が自分をこんなに遠くまで運ぶなんてあり得ない)


サンダルは流されてしまっていた。裸足で泥の上を歩きながら、助けてくれた人を探して林の中へ進んだ。


歩くうちに、景蘿ジンルオはだんだんと違和感を覚えた。

キャンプ場の隣の林は木がまばらで、地面にはビニール袋や煙草の吸い殻が散らかっているはずだった。でもこの森は違う。翡翠色の葉の間から差し込む木漏れ日は絵画のように美しく、清らかな空気に満ちていて、鳥と虫の声が耳に心地よく絡み合っている。

まるで、別世界みたいだ。


(わたし……もしかして死んだ?)


そんな考えが頭をよぎった頃、視界がぱっと開けた。


森の中央の空き地に、大きなカボチャがあった。

分厚い外皮に木の扉がはめ込まれ、窓枠もいくつかある。緑のヘタの部分が煙突になっていて、今まさに炊煙が立ち上っている。小屋の外には可愛らしい黄色いカボチャ形の郵便受けがあり、外壁には精巧な油ランプが二つ。


(……カボチャの家?)


背後に人の気配を感じて、景蘿ジンルオは振り返った。

籐かごを提げた少女が、少し離れた所に立ってじっとこちらを見ていた。白い服に赤いギンガムチェックのサロペットスカート。金色の三つ編みが両肩に垂れていて、その両耳は――人間のものではなく、すっと尖っていた。


少女はびしょぬれの景蘿ジンルオを眺めてから、穏やかに尋ねた。


「布をお使いになりますか?」


「……あなたは人間?」


「わたしはエルフよ」


その言葉を聞いた瞬間、強烈なデジャヴが波のように押し寄せてきた。頭の奥がじんと痛む。景蘿ジンルオはこめかみを押さえながら、不思議な衝動を必死で抑えた。


「……タオルを貸してもらえる?」


エルフの少女は景蘿ジンルオを家の中へ招き入れ、白い布で髪を拭かせてくれた上、麻の丈長ドレスに着替えさせてくれた。食事もご馳走すると言ってくれた。


身を整えてから、景蘿ジンルオはカボチャの小屋の食卓につき、お料理を待った。


木のお碗に盛られた料理がリネンのテーブルクロスの上に並んだ瞬間、景蘿ジンルオのお腹がぐうっと盛大に鳴った。

エルフの少女はやさしく微笑んで言った。


「どうぞ召し上がれ」


礼儀正しく食べようと自制しようとしたが、気づけばスタートのピストルが鳴った選手のように、がつがつと食べ始めていた。サラダ、クルトンを浮かべたキノコのポタージュ、半月形のフライドポテト、一かごのトーストスライスとジャム、大きなピッチャーの冷たいフルーツジュース。


(……美味しい。すごく美味しい)


これは絶対エルフの王国だ、と景蘿ジンルオは確信した。こんなに美味しい料理、普通じゃあり得ない。料理上手なお兄ちゃんにはまだ一歩及ばないけど、かなりいい線いっている。


食事が終わると、エルフの少女はお皿を下げ、熱々のワイルドベリーパイとハーブティーを持ってきた。


そこで少女はようやく尋ねた。


「お名前は?」


景蘿ジンルオは口の端のベリージャムを拭いてから答えた。


「バイ・景蘿ジンルオよ。さっき上流で泳いでいたら流されてきたの。あなた、本当にエルフ?耳を触ってみていい?」


実際に触れてみると、その尖った耳は紛れもない本物だった。コスプレ用の飾りなんかじゃない。


「ここはエルフの世界なの?」


少女の答えは、景蘿ジンルオの質問とは少しずれていた。


「あなたは第二界から来ているのに、魔法を持っている。もうすぐあなたを送り返さなければならないわ」


「……前にも来たことがある気がするんだけど?」


「あなたはとても才能のある子ね。周波数が合ったとき、こういう偶発的なことが起きるの。これからは魔法に少し制限をかけておくわ。また危険な場所に迷い込まないように」


エルフの少女はすっかり乾いた服を景蘿ジンルオに返し、着替えさせてから、余ったワイルドベリーパイを箱に詰めた。そして景蘿ジンルオをカボチャの小屋の裏の木造の建物に案内した。

床には複雑な魔法陣が刻まれていた。

少女が景蘿ジンルオを陣の中央に立たせると、呪文を唱えることもなく、魔法陣はゆっくりと赤い光を放ち始めた。


次の瞬間、景蘿ジンルオは元の世界の小川のほとりに立っていた。遠くから同級生たちの騒ぎ声が聞こえる。


「エルフ……あれ?え?わたし、何してたんだっけ?」


紙箱を開けると、一角が欠けたワイルドベリーパイが入っていた。

景蘿ジンルオはそれをぼんやりと眺めながら、首をかしげた。


「これ、どこから来たの?」


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