表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷河期世代の勇者  作者: 正宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第五話:透明人間の逆襲

三年前、鈴木をゴミのように使い捨てた物流倉庫。その現場責任者である佐藤は、今も変わらず派遣社員たちを罵倒していた。

 

「おい、手が止まってるぞ! 代わりはいくらでもいるんだ。嫌なら今すぐ辞めろ!」

佐藤の怒鳴り声が、埃っぽい倉庫内に響く。だが、そのすぐ背後。わずか五十センチの距離に、鈴木が立っていることに佐藤は全く気づかない。


それは、異世界へ召喚された際に発現した固有スキル――『気配遮断』。


鈴木は無言で、自ら立ち上げた動画配信サイトのアカウントを起動した。

ユーザー名は、『氷河期男』。


配信が開始された瞬間、鈴木は佐藤の真横に張り付き、その醜悪な「本性」を至近距離で映し出し始めた。

「佐藤さん、また派遣の子が倒れました! 熱中症です!」

駆け寄ってきた若手社員に、佐藤は面倒そうに吐き捨てた。

「放っておけ。どうせ替えの効く消耗品だ。救急車なんて呼んだら稼働が止まるだろ? 適当に裏のコンテナに転がしておけ。動けなくなったのは本人の体調管理不足、つまり『自己責任』だ」

その声が、リアルタイムでネットの海へ流れていく。

何も知らない佐藤は、さらに鼻で笑いながら、部下に指示を飛ばす。

 

「……いいか。派遣会社には『自己都合で早退した』とでも報告しとけ。俺たちの仕事は、上の連中に言われた数字を合わせるのが最優先だ。下っ端の命なんてのはな、帳尻を合わせるための消耗品なんだよ。バレなきゃ存在しないのと同じだ」


その時、佐藤のポケットの中でスマートフォンが狂ったように鳴り始めた。

「……あァ? なんだ、うるせえな……」

佐藤は不審そうに端末を取り出し、電話に出た。


「はい、佐藤です、どうしました?」


『――君はなんてことを! いいから今すぐ動画サイトを見てみろ!』


電話の向こうの悲鳴に近い声に、佐藤は訝しみながらも送られてきたURLを開いた。

そこに映し出されたのは、今まさにスマホを覗き込んでいる自分自身の顔。

そして、画面を埋め尽くす怒濤の罵詈雑言。


「な、何だよこれ……っ! いったいどこから……!」

佐藤が絶望の表情を浮かべたその瞬間、鈴木は配信を終了させた。


 ――スゥッ。

さっきまで「存在しないはずの空間」から、突如として一人の男が物質化するように現れた。


「ひっ……!? 誰だ、お前……!」

恐怖に顔を歪ませる佐藤に、鈴木は冷徹な眼差しで言い放った。

「俺の顔を忘れたか?」


だが、佐藤の瞳に映るのは困惑と、得体の知れない存在への恐怖だけだった。三年前、使い捨てた一人の男の顔など、彼の記憶の片隅にも残っていない。

佐藤はパニックに陥り、手近な鉄パイプを掴んで鈴木に殴りかかった。

――ガキィンッ!

 

鈍い音とともに、鉄パイプが鈴木の首筋で止まる。鈴木は微動だにせず、鉄パイプを素手で掴み取った。


「謝罪はいらない。……あんたがこれから味わう社会的抹殺、キャリアの崩壊、そして世間からの冷笑。……それも全部、あんたが大好きな『自己責任』だろ?」

鈴木は、もはや恐怖で腰を抜かした佐藤を一瞥もせず、夜の闇へと消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ