表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷河期世代の勇者  作者: 正宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

第4話:帰還

気づくと鈴木は大理石の床ではなく、冷たい泥水の中に這いつくばっていた。

見覚えのある三年前と同じ公園。

体中が焼けるように熱い。


異世界で三年間戦い抜いた肉体は鉛のように重かった。だが、その皮膚の下では、魔王から託された禍々しい漆黒の魔力が、どろどろと不気味に脈動している。


「帰って……きたのか。日本に……」


何も変わらない。

ただ搾取され続けるだけの日常に


「……ああ……あああああああッ!!」

鈴木は地面を叩き、獣のような咆哮を上げた。

三年間、一度も眠らず、一度も折れずに戦ったのは何のためだったのか。


アステリアを信じ、彼女のために剣を持ち、どれほどの血を流したか。 


その時、近くに落ちていた「白い手袋」が目に留まった。

鈴木はそれを呪わしく睨みつけ、握りつぶそうとした。

その瞬間だった。


「――っ!?」

ドクン、と心臓が跳ねた。

魔王の能力である『サイコメトリー』が、鈴木の意思とは無関係に発動した。


手袋を通じて、凄まじい密度の「記憶」が脳内に直接流れ込んでくる。


記憶の中のアステリアは、鏡の前で一人、冷酷な笑みを浮かべていた。


『お父様、例の勇者は期待以上に働いておりますわ。しかもあの男、私が少し微笑んで、優しい言葉を与えただけで涙を流して喜ぶのです』

 

『……ふふ。‥‥しかしあの「魔王」も、忌々しいですわ。たかが異民族の元奴隷のくせに我が国に反逆するなんて……』


「……あ、が…………」

鈴木は手袋を握りしめたまま、絶句した。

自分が「正義」と信じて斬り伏せた魔王は、自分と同じように人生を奪われ、都合よく「敵」という役職を与えられた、ただの被害者に過ぎなかった。


自分が魂を捧げて信じた「救い」も、正義だと思って守った「国」も、彼女が暇つぶしに描いた、残酷な脚本に過ぎなかったのだ。


「……ふ、ふふ……あははははははは!」

公園に、狂ったような笑い声が響き渡った。

二つの世界からゴミとして捨てられた男の笑い声。


その背後に三つの影が差した。


「おい、ジジイ。夜中に一人で何笑ってんだよ。不気味なんだよ」


コンビニの袋をガサつかせ、スカジャンを着た若者が三人、鈴木を囲む。

一人は鼻にピアスをつけ、残りの二人は退屈そうにスマホを弄りながら、獲物を見定めるような下卑た笑みを浮かべていた。


「ここ、俺たちのシマなんだわ。座ってるだけで『場所代』が発生すんの、分かってんの?」


「……場所代、か」


「あ? 聞こえねえよ。耳まで腐ってんのか?ほら、さっさと財布出せよ」

リーダー格の男が、胸ぐらを掴み上げようと手を伸ばした。


その瞬間。

――ガキィッ!!

硬質な音が夜の静寂を切り裂いた。

男の指先が、鈴木の衣服に触れる直前、目に見えない『壁』に弾かれたのだ。

「……あ? なんだこれ、硬っ……!?」


鈴木の瞳に、うっすらと青白い光が宿る。

魔王の力は鈴木の深い怒りと同調し、現代の物理法則を無視して溢れ出していた。


「おい、何したんだよジジイ!」

焦った一人が、ポケットからバタフライナイフを取り出し、鈴木の脇腹へ突き立てる。


だが。

パキィィィィンッ!

鋼鉄の刃が、まるでおもちゃのプラスチックのように砕け散った。

鈴木の肌には、傷一つついていない。

「……私の人生は、ずっと我慢の連続だった」

周囲の空気が震え、街灯がパチパチと火花を散らした。


「『代わりはいくらでもいる』と言われ、殴られ、安い給料でこき使われ、必死に自分を削って……ただ、生きてきた。どんな理不尽も、お前の努力不足のせいだ、『自己責任』だろ……という言葉一つで片付けられ、耐えることだけを強要されてきたんだ」


「‥‥そんななか異世界に召喚され、ようやく人生がいい方向に変わると思った。……だが、そこでも私は、都合のいい道具として使われただけだった」


「――もうウンザリだ」

鈴木が軽く指先を振る。


それだけで、突風のような衝撃波が半グレたちを襲った。

彼らは叫ぶ暇もなく、吹き飛ばされ、そのまま地面に這いつくばった。

「ひ、ひぃっ……! 化け物、化け物だ!」

腰を抜かし、失禁しながら逃げ惑う若者たち。


鈴木は自分の掌を見つめる。

そこには、魔王の強大な力が脈打っていた。


視線の先には、闇の中に浮かび上がるビル群。

自分を使い潰し、ゴミのように捨てた社会の象徴。


「……自己責任、か」

鈴木は、若者たちが逃げ去った暗闇に向かって、冷たく吐き捨てた。


「散々、俺たちをその言葉で切り捨ててきたんだ。なら……俺の力で誰がどうなろうと、それも『自己責任』だよな」

かつての派遣社員は、静かに歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ