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氷河期世代の勇者  作者: 正宗


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第3話:契約解除

3年後

魔王城、最深部。

かつての派遣社員、鈴木大介は、ボロボロの体を引きずりながら玉座へと辿り着いた。


「……おおおおおっ!」

鈴木は、スキル『苦痛耐性』で脳に突き刺さるような激痛を無理やり黙らせ、折れた剣を魔王の胸に突き立てた。


勝負は、決した。

魔王の仮面が砕け散り、その素顔が露わになる。そこにいたのは、恐ろしい怪物ではなく、同じ人間――かつてブラック王国によって故郷を焼かれ、拉致された異民族の成れの果て。


最後の足掻きに魔王の手が、鈴木の血に濡れた顔を掴む。

その瞬間魔王の固有能力――触れた相手の記憶と感情を読み取る『サイコメトリー』が発動した。


「……がはっ……。そうか……お前も、か……」

魔王の瞳に、深い同情の光が宿る。


読み取ったのは、現代日本での二十六年に及ぶ搾取の日々。そして、異世界に来てからの三年間、アステリアに「都合の良い道具」としてすり潰されてきた鈴木の人生。


「お前も……『使い捨て』、だったのだな……」

魔王は、自らの意思で最期の力を解放した。それは攻撃ではない。呪いでもない。


ブラック王国に復讐を誓い、絶望の中で練り上げられた『魔王の力』のすべてが、触れた手を伝って鈴木の中へと流れ込んでいく。


(ならば持っていけ……。我らを……ゴミのように扱った連中に……報いを……)


魔王が霧となって消えゆく中、鈴木の体内で、勇者のスキルと魔王の力が混ざり合い、真っ黒な光を放ち始めた。


「お前も‥?‥‥使い捨て‥‥?‥どういうことだ‥」

魔王が最後に遺した言葉に困惑する鈴木。


だが、その直後。

背後から、軽やかな、拍手の音が響いた。


「素晴らしいわ、大介様! 本当に魔王を討ち取ってしまうなんて。あなたは期待通り、最高に頑丈で、最高に便利な『道具』でした」

振り返ると、そこには兵士たちを引き連れたアステリアが立っていた。


その瞳に宿っているのは、これまでの慈愛ではない。まるでゴミを見るような、感情のない瞳だった。


「……アステリア、様……?」


「‥‥ですがもう用済みです。用の済んだ道具はきちんと処分しなくては」


アステリアが掲げた魔道具から、冷酷な光が放たれる。

魔王を倒した直後、もっとも消耗したタイミングを狙った『強制送還(契約解除)』の魔法だった。


「あ……が、あ……っ!」 


魔法陣が鈴木の四肢を縛り上げ、その存在を世界から剥離させていく。


「さようなら。あなたは本当に扱いやすかったですわ」


「アステリア様……待って、待ってください! 俺は、俺はまだ……ッ!」


消失の光に身体を焼かれながら、鈴木は喉を掻き切らんばかりの絶叫を上げた。

三年間、一度も眠らず、一度も折れず、ただ彼女の微笑みだけを支えにして戦い抜いてきた。その全てが、「契約解除」というたった一言でゴミ捨て場に放り出されようとしている。


「あ、アステリア、ああああッ!!」


鈴木は、もはや感覚のない腕を必死に伸ばし、彼女の足元へ這いつくばった。泥と血にまみれた指先が、彼女の白銀の靴の先を、そして差し伸べられることのなかったその指先を必死に掴み取る。


 鈴木は消えゆく意識の中、最後の力を振り絞ってアステリアの元へ這い、その指先を掴んだ。



だが――。

ズルリ、と。

鈴木が掴んだのは、彼女の手ではなく、冷たいシルクの手袋だった。


アステリアは心底不快そうに眉をひそめ、鈴木を蹴り飛ばした。


「汚らわしい。最期まで身の程をわきまえられないのですね」


手の中に残ったのは、白い手袋だけだった。


鈴木の視界は再びあの忌々しい土砂降りの日の深紅に塗りつぶされた。

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