テストプレイ
「……ということがあったので、ウルフレースの方が落ち着いたら、次のイベントは的当てをやってみたいのですが、いかがでしょうか?」
俺はクイーンドリアードさんに好評だったダーツ……というよりは的当てのことをティルナノーグで話し、みんなの意見を聞いてみることにした。
俺としてはそのままでも充分に楽しんでもらえると思うけど、より楽しみを増やしたいというのがある。
「そうですね……ダーツみたいなものだと得点の集計が大変なので、的の大きさによって得点を変更するのはどうでしょうか?」
「当てづらいほど高得点だけど、外した場合は大きい的を全て当てた場合よりも若干得点が少なくなるように調整すればいいかもしれないな」
「小さい的はハイリスクハイリターンということですね。最高点を取るか、全ての的を当てるかはその子の考えによって変わるのも楽しそうですね」
「その子……ということは、これもペットモンスター用のイベントですか?」
「そうですね、今のところウルフだけしかイベントができてないので、他の子もイベントに参加させてあげたいというのがありますね」
今考えているのはシードバレットでの的当てだから、ドリアードとアルラウネが対象だ。
ほかにも似たようなスキルを使える子がいるなら、その子もかな。
「僕としては、矢や投石でも大丈夫なら、プレイヤーとペットモンスター両方が参加できると思うんですよね」
「確かに、どちらも参加できればコンビネーションを魅せることもできますね。その方向性もよさそうです」
「ペットモンスターが苦手な大きさの的はプレイヤーが当てる……みたいなこともできるな」
「人によって戦略が変わってくる感じですね。他にも動く的……というのを考えていましたが、メンテナンスが大変だったり、動くと難しいので敷居が高くなったりするので、まずは基本的な静止した的で調整していきましょうか」
「「「分かりました!」」」
俺の言葉に皆が賛成してくれる。
その後は的の大きさ、的からの距離、投擲回数など細かいところを詰めていく。
そして、試験的に誰かにプレイしてもらって調整していこうという流れになる。
俺が挙げたのはクイーンドリアードさんをはじめとしたヴァノリモ大森林のドリアードたち。そして弓と言えば……のアルテミスさん。
少し遠いけど、トレントの島のアルラウネさんたちもよさそうかな?
ギルドメンバーの人たちは、知り合いの弓使いや、ドリアードやアルラウネをペットモンスターにしている人を挙げてくれた。
最終的に候補を30人ぐらいに絞り、セットが完成したらメッセージなどで連絡をすることを決めて、今日のミーティングは終了するのだった。
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その後、着々とセットは完成していき、まずはギルドメンバーで実際にプレイしてみることに。
的の大きさは小・中・大の3つで、的の数はそれぞれ3つずつの計9つ。
投擲回数はプレイヤー、ペットモンスター合わせて6回。
得点は小が3点、中が2点、大が1点で、最高点は15点だ。
的への距離はおよそ10メートル程度。横に広がっているので、多少の誤差はあるが……。
「それではまず、俺からやってみます」
俺は石を大きな的に向かって投げる。
石がコツンと的に当たると、ゆっくりと的が倒れていく。
「よし、うまく動作するみたいですね」
「ええ、風で倒れないように調整するのに苦労しましたもんね……」
的はある程度の衝撃を与えると後方に倒れるように設計した。
これで、同じ的を連続で狙うことはできないようになっている。
その後も何度か試していると、シルフィーさんがふらりとやってくる。
「おー、なにやってるのー?」
「あ、的当てというものです。石などを投げて的を倒す遊びですね」
「おもしろそー。やってみてもいいー?」
「どうぞ。石を投げるのはこの線からです」
シルフィーさんに石を投げる位置に立ってもらい、的を全て立てる。
「あれを倒せばいいのー?」
「そうです。それではこの石を……」
「てりゃー」
シルフィーさんが強い風をおこすと、的が一斉にガシャーンと倒れる。
的の後ろに控えていたギルドメンバーたちはあっけにとられてシルフィーさんの方を見る。
「全部やったー。ぶいっ」
「あ、あの……それは反則なんですが……」
「そうなのー? ちぇー」
……風魔法は禁止した方がいいかな?
いや、石を風で操作して曲げて当てる高等テクニックを使う人がいるかもしれないし、できるだけ制限はかけたくないんだよなあ。スキルや魔法も実力のうちだし。
とりあえず部門を作って、魔法ありとなしで分けるのがいいかな?
そんなこんなで更に調整は進み……。
**********
数日が経過し、テストプレイ日にはクイーンドリアードさんたち、アルラウネさんたち、アルテミスさんをはじめとしたプレイヤーたちが集まってくれた。
「コウさん、今回はわたくしを誘っていただきありがとうございます」
「弓と言えばアルテミスさんがすぐに浮かびましたからね。よろしければ率直な意見をお聞かせください」
「はい。それではまずは……」
「えっ?」
おかしいぞ、まだプレイしてないはずなのに……?
「かわいらしいドリアードさんやアルラウネさんがいっぱいの空間で……かわいすぎてつらいです。言うなればかわいす罪です」
「なにそれ」
なんだよかわいすギルティって。
かわいいは正義の逆か何かでござるか?
……いかん、頭がついていけなくて語尾がおかしくなってる。
「……おい、コウよ。こやつ頭は大丈夫か?」
「大丈夫……と思いたいです」
「嘘じゃろ……」
クイーンドリアードさんが得体の知れない何かを見るような顔でアルテミスさんを見つめる。
アルテミスさんはクイーンドリアードさんの視線に気づき、少し顔を赤らめる。
いや、絶対アルテミスさんの思ったような視線じゃないからね!?
「え、えー……今日はお集まりいただきありがとうございます。次のイベント案である的当てのテストプレイをして頂き、ご意見を頂ければありがたいです。……それでは、まずはアルテミスさんからよろしいでしょうか?」
「分かりました」
アルテミスさんは弓を構えて位置につく。
「コウ、あやつで大丈夫なのか?」
「ええ、見ていたら分かります」
「ふむ……?」
クイーンドリアードさんは複雑そうな表情でアルテミスさんの方に向き直る。
……まあ、第一印象がアレじゃねえ。
「それでは始めてください!」
「……はっ!」
アルテミスさんのさっきの醜態はどこへやら。
矢を弓につがえ、一番小さい的へ向かって射ると、見事ど真ん中に命中する。
その後も次々と的のど真ん中を射貫き続け、気がつけば6射すべてがど真ん中というとんでもない精度を見せつけた。
「おお……人は第一印象によらぬものなんじゃのう……見直したぞ」
「ですよね、分かります」
アルテミスさんが戻ってくると、ドリアードやアルラウネたちから囲まれて、盛大な祝福を受けることに。
すると、アルテミスさんは鼻血を吹きだしてその場に倒れ込む。どうやらかわいいものに囲まれて限界がきたらしい。
「……すまぬ、前言撤回してもよいか?」
「どうぞ存分にやっちゃってください」
……その後、全員がテストプレイを終え、言葉が分からないアルラウネやドリアードたちの意見はそれぞれアルラウネさんとクイーンドリアードさんに翻訳してもらう。
どうやら概ね好評で、毎日でも遊びたいという子もいるようだ。造った側としてはとてもありがたい。
ちなみに結果としては、クイーンドリアードさんとアルラウネさんは余裕の全弾命中。ほかの子たちも7割~9割ぐらいの命中率を誇った。普段から使っているシードバレットというのも大きいのだろう。
プレイヤー側は少し命中率が劣るものの、それでも6割は当てているので、慣れたらもっと命中率が上がるだろう。
……中には弓や石を使わず、ウルフと遊ぶ時のフリスビーを使った人もいた。その発想はなかった。
まあ、最終的に命中すればいいので、制限はあまりかけない方向で行こう。
こうして、テストプレイは盛況のうちに幕を閉じたのだった。
**********
「……そろそろクイーンドリアードさんのところの遊具が壊れる頃かな……」
数日後、俺は遊具の補充のために、レイを連れてヴァノリモ大森林を訪れていた。
すると、いつものようにビーが俺たちから一定の距離を取ってこちらを見ている。
俺はアイテムボックスからレイの蜜が入ったビンを取り出すと、ビーはいつも通りに巣まで案内してくれた。
今日も蜜を提供してからクイーンドリアードさんの所に行こうと思ったのだが……。
「ああ、おねえさま! お会いできてワタクシ感激ですの!」
突然、巣のところでレイをおねえさまと呼ぶ不思議な子に出くわしてしまう。
……しかし、目は複眼のようになっており、お尻には針のようなものがある。
もしかしてこの子は……。
「あの……もしかしてあなたはビーの……」
「あっ……申し訳ありませんの。ワタクシはビーたちの女王である、クイーンビーと申しますの。おねえさまのおかげでこの姿になれましたの!」
「レイのおかげ……?」
……でも、レイがこの子にしたことと言えば、蜜を提供したぐらいだけど……。
もしかして、魔石だけが進化の条件じゃない……?
「つまり、レイの蜜で進化したということですか?」
「その通りですの! おねえさまの愛でワタクシは……」
「るーっ……」
あ、レイがちょっと引いてる。
そっと俺の後ろに回り、陰から様子をみている。
「……ということで、ワタクシもおねえさまについて行きますの!」
「るー……」
「えっ……どうして嫌なんですの……? おねえさまぁ……。お義父さま、おねえさまを説得してくださいの……」
えっ、お義父さま? 俺が?
俺はちらっとレイの方を見ると、イヤイヤと首を振っている。
……あー、これは説得は無理だな。
「うーん、今は俺には無理だと思います。ただ、時々はここに蜜を届けに来ますので、徐々に交流をしていけばレイも分かってくれるかもしれませんよ」
「うー……今すぐおねえさまの所に行きたいですのに……。……でも、分かりましたの! ワタクシもビーのみんながいますし、しばらくはここにいますの。……本当に、時々おねえさまと一緒に来てくれますの?」
「もちろんです。……レイもそれならいいかな?」
「るー……るっ」
ちょっと悩んだものの、首を縦に振ってくれたレイ。
さすがにここまで慕ってくれる子をないがしろにできないのだろう。レイも優しい子だしね。
「……それでは俺たちは用事がありますので、蜜をお渡ししておきますね」
「ありがとうございますの! はぁ……おねえさまのキレイな蜜……とってもおいしいですの……」
クイーンビーは蜜を見てうっとりとしている。
……うーん、少し癖の強い子だなあ。
しかし、魔石以外でも進化する方法があるんだな。
しかも、この子は上位種と会ってない可能性もあるし、今知られている「上位種に会っていて」「レベルが一定以上で」「魔石を使う」以外の進化条件のモンスターもクイーンビー以外にもいるかもしれない。
そのことを知れただけでもかなりの収穫だろう。
そう思いながら俺たちはクイーンビーたちと別れ、クイーンドリアードさんのところへ納品に向かうのだった。




