個人イベント その後
「や……やることが……やることが多い……!」
個人イベントであるウルフレースが終わった翌日、俺は色々な対応に追われていた。
アルラウネさんの足りなかった分のロックバードの魔石を島に取りに行かないといけないし、更にそれを配布しないといけない。配信を見て欲しいと言ってくれた人への対応もある。
また、当日コースに来ることができなかった人で、キングウルフさん、クイーンドリアードさん、シルフィーさん、アルラウネさんのいずれかに会って、うちの子を進化させたいという人への対応。
更に、『賞品がなくてもいいからうちの子も走らせたい! あ、参加費はちゃんと出します!』と言ってくれる人へのコース案内……まではさすがに手が回らなくてギルドメンバーにお願いしたが……。
レイの進化動画などは昨日のうちにアップしておいてよかった……。
しかし、今日は休日だからまだいいものの、コースに参加したい人は平日にもいるんだろうな……シフトの関係で土日以外が休みの人もいるだろうし。
さすがにそこまでは対応しきれない……が、希望は叶えてあげたいよなあ。
とりあえず、朝から昼過ぎまではそういった作業にずっと関わっていた。
そして、昼からは一旦トレントの島に行くことに。
アルラウネさんに魔石をもらいに行くのだが、それ以外にも目的はある。
それは……。
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「……トレントさんは、俺たち以外の人が島に来ることはどう思われます?」
「ふむ……特に問題はないな」
「大丈夫でしょうか? 中には好戦的な人もいると思いますが……」
「なに、返り討ちにするまでじゃ。儂らの力を侮るでない」
「……参考までにですが、レベルはいかほどで……」
「儂が2500、若い衆でも100から300はあったはずじゃな」
「そんなに」
うん、トップランカーのタイガさんたちですら足元に及ばないわ。そりゃ脳筋にもなる。
永い年月を生きているだけあって、それだけレベルも高いんだな……。
そして、若い衆の最低レベル100でもロックバードは不意を突かないと倒せないということは、ロックバードはそれ以上なんだろう。
「それに、擬態をしておるから気づかれることもないじゃろう」
「あ、確かに……」
それならアルラウネさんたちの方が心配……いや、そうでもないな?
アルラウネさん自体も強いし、娘さんや他の子たちもロックバードを真っ向勝負で倒せるぐらい強いしな……。下手をすればトレントの若い衆よりも格段に強いわけで。
とりあえず、魔石の回収の時に声をかけておこう。
「それでは、魔石をお持ちしましたので、お納めください」
「おお、良いのか? ……それでは儂からも枝を贈ろうかの」
エルダートレントさんは草を魔法で操り、楽々と枝を折る。
……ノコギリが刃こぼれする枝を草で……か。おそらく強化はしてあるんだろうけど、異様な光景だ。
俺は枝を受け取ると、エルダートレントさんに質問してみる。
「この枝を加工してみようと思ったんですけど、ノコギリでもチェンジプラントでも歯が立たなくて……加工のコツなどはありますか?」
「ふむ……道具に強化魔法を使うか、魔力を底上げするしかないじゃろうな。もしくは、相応の素材で作った道具を使うか……」
「なるほど、ありがとうございます。いろいろと試してみます」
「うむ、また来るがいい」
単純にレベルを上げてステータスで殴るか、強化魔法でステータスを上げるか、エルダートレントさんに負けない素材で加工道具を作るか……か。
加工できるのはまだまだどころか、とんでもなく先になりそうだなあ。
トレントの素材は簡単に加工できるので、エルダートレント補正みたいなのでもあるんだろうな……奥が深い。
とりあえず、強化魔法は道具に関しても使えると知れたので、後から習得しておこう。
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「おっ、コウじゃないか。もう取りに来てくれたのか?」
「ええ、それと相談したいことがありまして」
「ああ、何でもいいぞ」
俺は他の冒険者がこの島に来ることにどう思うかについて話した。
「あー、アタシらは別に構わないよ。元いた森に隠蔽魔法をかけてたのも、娘たちが成人するまでのものだったしね。アタシらが狩りに出ている間に襲われたらいけないと思ってさ。今は全員が成人したから、もう必要はないね。……解除してなかったのはただ単にめんどくさかっただけだな」
「分かりました、ありがとうございます」
あー、ホメオスタシス効果ってやつかな?
元は身体の維持機能のことなんだけど、ライフスタイルなんかを現状維持をしようとするやつでも言われる効果。変化ってエネルギーが必要だからね。
……そう思ったら、俺をこのゲームに引っ張ってきてくれたタケルには感謝だな。
「さて、それじゃあ足りなかった魔石は400個だったかな。ま、勢い余って1000個取ってきたから全部持って行ってくれ」
「勢い余り過ぎてませんか!?」
「ああ、ダンジョンの中にモンスターハウスが発生してたからな。で、そのロックバードを駆除してたらこうなったってわけだ」
ああ、モンスターハウスなんてあるんだ。誰かがモンスターハウスを発生させる巻物でも読んだのかな?
……さておき、他のダンジョンだと聞いたことが無い気がするけど……一定の難しさ以上のダンジョンでないと出現しないとかだろうか?
アイテムとか大量に落ちてないかなあ……罠も大量にありそうだけど。
「……しかし、ロックバードをそこまで一方的に倒せるって、アルラウネさんたちのレベルが高すぎる気がしますね……」
「ああ、アタシは2200ぐらいかな? 他もだいたい200は超えてる感じか」
「……やっぱり桁違いでしたね……」
割と最初の町付近にいたのにそんなレベルって……このゲームのレベルデザインが全く分からない……。
今でこそ仲良くしてもらってるけど、もし敵対してたらエインズの町は壊滅してそうだ。
人間は倒されてもモンスターの食材である魔石が手に入らないから、ただ単に相手にされてないだけなんだろうけど。
むしろ、イベントのジャイアントオーガみたいに積極的に潰しにかかってくるのが稀なのか……?
「さて、それじゃあ魔石は頼んだ。……しかし、これじゃあコウが損してるよなあ。何か渡せればいいんだけど……」
「まあ、好きでやってるところもありますし。……あ、それなら……」
「アタシにできることなら何でもいいぜ」
「あ、実はアルラウネさんではなく、娘さんにお聞きしたいことが……」
「娘か? 分かった、ちょっと待っててくれ」
アルラウネさんは娘さんを呼びに席を外す。
俺が聞きたいこととは……。
「お、お待たせしましたコウさん! それで、あたしに聞きたいこととは何でしょうか……?」
「はい、実はうちのレイはロックバードの魔石で進化したのですが、あなたみたいに人の言葉を話すことができなくて……それで、この島のモンスターの魔石でもう一段階進化したのではと思いまして」
「え、ええと……実はこの島、南の浜辺に時々ですが魔石が打ち上げられていることがあるんです。たぶん、海のモンスターが争って倒れた魔石だと思うのですが……それを食べたら進化したんです。レベルはたしか100を超えたころぐらいでした……す、すみません、不確定な情報で……」
「いえ、海のモンスターであることと、南の浜辺に打ち上げられること、更にレベルが分かったので充分過ぎるほどです。ありがとうございました」
この島に魔石や遊具を持ってくる時に確認すればいいし、水棲系モンスターという魔石の種類が絞り込めたのも大きい。レベルも分かったから、無駄に消費せずに済むしね。
しかし、クイーンドリアードさんやキングウルフさんたちの時もだけど、このゲーム、人間以外から得られる情報って大きいよなあ。
もしかして、このゲームは『ものづくり』がコンセプトだから、信頼関係は見えない『もの』という解釈で、これもひとつの『ものづくり』扱いなのだろうか。……まさかね。
「あ、あの……よろしければ、あたしが毎日浜辺をチェックしておきましょうか……?」
「えっ、よろしいのですか?」
「はい、あたしがお母さんに再会できたのはコウさんのおかげですし……受けた恩を返し切れてないと思いますので……」
「……分かりました、それではよろしくお願いします」
「は、はい!」
こうして、レイの更なる進化の足がかりができたのだった。
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「つ、疲れたぁ……」
14時過ぎにトレントの島から本土に帰ってすぐに配信をして、ロックバードの魔石の交換について知らせ、交換が終わったのが夕暮れ。
今日はイベントの後処理にほぼ1日かかりっきりだったな……。
「きゅー?」
「るー……」
「がうがう」
そんな俺を心配してくれたのか、スコールは地面に丸くなって寝転がり、俺にその上に寝転がるようにジェスチャーで伝えてくる。
その優しさに甘えて、もふもふの毛皮にダイブ。……はぁ、癒される……。
そして、ライアとレイの2人は俺の身体をマッサージしてくれる。
どうやら、アテナさんと交流している時に教えてもらったらしく、意外と慣れた手つきだ。
……なんだか、凄い贅沢をしてるなあ…………と、気持ちよさに意識が飛びそうになった時に、メッセージを受信する。
「誰だろう……? ……ええっ!?」
メッセージの発信者の名前を見ると『ワールドクリエイターズ運営』となっている。
更に件名は『個人イベントについて』。一気に眠気が吹っ飛んだ。
「一応許可は取ってるし、怒られる内容ではない。……と思いたいんだけど……」
と、恐る恐るメッセージを開封してみると、俺の悩みを解決してくれるものだった。
どうやら、個人イベントが盛況過ぎて俺やギルドメンバーが疲弊していないか心配してくれているようで、ウルフレースの開催を運営に移管しませんか、という内容だ。
もちろん、俺たちに余裕があって開催できる時は俺たちでやることも可能で、コースも自由に追加や変更してもいいらしい。
また、運営が開催したウルフレースの参加費用のうち、20%が俺たちのギルドに入ってくるようだ。
……完全なる不労所得である。
さすがに俺1人では決められないので、急遽ギルドに召集をかけて話し合った。
その結果、平日でも継続的にウルフレースを開催するのは困難である、という結論に至り、ウルフレースに関しては運営への移管をすることに決定した。
会議に参加したメンバーたちも疲れているように見えたので、やはり個人……いや、ギルドイベントにしては規模が大きすぎたかな……と感じた。
ただ、自分たちの考えたイベントが盛況だったのはとても嬉しかったので、アイデアが出てきたらまた個人イベントをしよう、次はもう少し規模が小さいもので……そう思ったのだった。
その後、ホームに戻ってからスコール、ライア、レイの作ってくれる癒し空間にしばし浸って、俺は1日の活動を終えた。




