交流
「ふぅ、昨日は村づくりをがんばったし、今日はゆっくりしようかな」
村づくりとキングウルフさんたちの寝床づくりを終えた翌日。
俺はログインをしてライア、レイ、スコールの3人に魔石を与えていた。
ペットになってだいぶ経つし、3人の魔石の好みの把握は完璧だ。
……この周辺のモンスターの魔石なら、だけどね。
エルフの集落の近くにあるダンジョンには、また別のモンスターが生息しているらしい。
そちらの魔石も気になるけど、まだ探索が始まってそれほど経ってないから、魔石の値段がこの辺のモンスターよりも高めなので、いまだ手を出せずにいる。
そういえば、イベントで手に入れたジャイアントオーガの魔石どうしようかなあ……。
まだこれをどうするか決められずにいる。1つしかないからね……これがエリクサー症候群か。
ジャイアントオーガが出てくるダンジョンでもあれば使っちゃうんだけど。
「きゅー♪」
そんなことを考えていると、ライアがスコールに乗って庭を駆け回っている。
相変わらずライアはあれが好きだなあ。スコールも楽しんでいるし、2人にとってはいいんだけど……。
「るー……」
それを羨ましそうに見るレイ。
スコールの引くソリに乗って、同じような感じで駆け回ることはできるんだけど、やっぱり直接乗ってみたいのだろう。
でも、やはり大きさがなあ……。
「あ」
ふと、ある顔が浮かんだが……。
……うーん、それは失礼な気がするんだよなあ。
でも、レイの夢を叶えてあげたいという想いはある。
「ダメ元で……交渉してみようか」
俺はレイを連れてホームを出ることにするのだった。
**********
「それで、我に用事とは?」
「ええと……この子、レイを背中に乗せて草原を走って頂きたいのですが……やっぱり失礼ですよね、背中に乗るのは……」
俺は、キングウルフさんたちの集まる寝床に来ていた。
そう、レイの夢を叶えるなら、キングウルフさんぐらいのサイズが必要だ。
「……ふむ、どうしてそのような事を我に頼むのだ?」
「それはですね……」
俺はライアがスコールの背中に乗ってはしゃいでいる動画を、キングウルフさんに見せる。
それを見てなるほどと言わんばかりに頷く。
「このように、ライアはスコールに乗るのにちょうどいい身長なのですが、レイだと乗れなくてですね……」
「それで、我にということか。……よかろう」
「……やっぱりダメですよ……え? いいのですか?」
「うむ。ただし条件がある」
「俺にできることであればなんなりと」
「それではだな……」
キングウルフさんが要求したのは、ウルフたちとキングウルフさんの1日分の魔石。
どうやら、このゲームではモンスターもペットモンスターと同じように、魔石を食料としているようだ。
「キングウルフさんたちも魔石が食事なんですね。ということは、別種のモンスターを狩っているわけですか?」
「そうだ。……まあ、ウルフは弱いモンスターだから、基本的には我が狩って得た魔石を分け与えているのだがな」
確かにグラティス草原に出てくるウルフはレベルが2。いわゆるゲームの最初の町付近に出てくるスライムぐらい弱い。
他の地域だともう少し高いレベルなのだが、グラティス草原のウルフは他のモンスターを狩れないためかレベルは控えめだ。
それにしても、魔石のためにモンスター同士で戦うこともあるんだなあ……違う種類のモンスターが徒党を組んで人間と戦うこともあるけど、これは同盟的なものを結んでいるのだろうか。敵の敵は味方、みたいな。
あと、それだけモンスター同士で戦っていても、種が絶滅することはないのも不思議だ。
その辺も聞いてみたいが、まずはレイの夢を叶えてあげるのが先だ。
「それではキングウルフさん、レイのことをお願いします。……あ、さすがに『神速』などを使ってレイを振り落とさないようにお願いします……」
「うむ、そんなことをしたらお前から恨まれてしまうからな。そうなっては寝床も魔石も今後もらえなくなってしまうだろう?」
「そ、そうですね……。それじゃレイ、早速キングウルフさんの背中に……」
「乗った後は振り落とされないように、そのツタで身体を固定するといい。さすがにつかまっておかねば振り落としてしまうからな」
「るーっ……」
レイは俺の服の裾を引っ張り、その後キングウルフさんの背中を指し示す。
ええと、これは……。
「ふむ、一緒に乗りたいと申すか」
「ええと……さすがに俺も一緒だと重そうと言うか、失礼と言うか……」
「なに、気にするな。魔石を1日分追加してもらえばよい」
「そ、それでよろしければ……」
……実は俺も乗ってみたいという気持ちはあった。
狼に乗って草原を駆けるなんて、ファンタジーな世界じゃないとあり得ないし。
とりあえず、俺が乗ってからレイに俺の後ろに乗ってもらい、ツタで身体を固定してもらって……。
ん?
「るー……」
レイは俺にぴったりくっついて手を胸の方に回す。
「いや、さすがにそれだと危ないと思うんだけど……」
「るーぅ」
「これがいい、だそうだぞ。それほど早くは走らないからよいのではないか?」
「そ、そうかもしれませんが……」
……危ない、って言うのは俺の背中にレイの胸が当たって落ち着かない、ってのもあるんだけど!
さすがにそんな事は言えないので、このまま出発してもらうことにした。
……草原を駆けている間、ずっと背中が気になって景色に集中できませんでしたとも。ええ。
**********
「るーっ!」
「ほう、楽しかったか。それはよかった」
「レイの夢を叶えていただき、ありがとうございます。それで、お礼の魔石なのですが……どのモンスターの魔石がいいのでしょうか? この辺りのモンスターのであればありがたいのですが」
「そうだな……ん?」
「るーっ」
レイが、ツタで蜜を掬ってキングウルフさんの口元に運ぶ。どうやらレイなりのお礼のようだ。
「ふむ、ありがたく頂こうか…………こ、これは……」
キングウルフさんが目を見開く。
そして天に向かって「うーまーいーぞー!」と声を張り上げて吼える。なおビームらしきものは出ていない。
とりあえず、気に入って頂けたようで何よりだ。
……そういえば、食事は魔石でもいいのに、蜜とかも食べられるんだな。
ライアもレイの蜜を食べてたけど……公式が『ペットモンスターは魔石が食事』とヘルプにも表示しているのは、魔石の方が栄養素があるし手軽に手に入るからだろうか?
「るーっ!?」
そしていつの間にかレイがウルフたちに囲まれている。
どうやら、キングウルフさんがレイの蜜を食べていたのを目撃して、自分も欲しいとお座りしている。
……こうして、レイはウルフたちのアイドルっぽいものになってしまうことに。
あ、ちなみにキングウルフさんに要求されたのはビーとキラーラビットの魔石でした。
**********
「コウ、ちょっといいか?」
「タケシか。どうしたんだ?」
「いや、この掲示板で盛り上がってる話題なんだけどさ……」
「ええと……『恐怖!? グラティス草原の雄たけび!』……?」
…………まさか、ね。
「草原中に響く大きさで『うーまーいーぞー』という声が聞こえたらしいんだけど、何か知らないか? 更に前日にはキングウルフらしき狼の遠吠えもあったみたいだし、最近グラティス草原で何かあったのかなと思ってさ」
……確実にアレだ。
「……いや、知らないアルよ?」
「そんな語尾付けてるやつ久しぶりに見た。……っていうか、その反応だと知ってるってことになるが」
「あー……実はだな」
俺はキングウルフさんたちの寝床づくりをしたこと、更にその見返りで村が襲われないようにしてもらったことをタケシに話す。
「……お前さあ、相当なモンスターたらしだよなあ」
「たらしってなんだよたらしって」
「だってさあ、アルラウネをペットモンスターにする方法を発見して、バンシーに好かれて、クイーンドリアードを連れてヴァイスを復興させて、今度はキングウルフと隣人だぜ? たらし以外に形容する方法がないだろ?」
言われてみればそうである。
俺としては、ただ仲良くしたいだけなんだけどさ。
「……ん? クイーンドリアードさんのことタケシに話したことあったか?」
「ヴァイスの家を復興させるときに動画に撮られてたぜ? さすがに顔は隠されてたけど、俺はすぐにコウって分かったな」
「えっ……知らなかったそんなの……」
「掲示板でも一時期話題になってたぞ。本人が降臨したら更に盛り上がってただろうに」
「クイーンドリアードさん自体はタイガさんたちの戦闘動画でも出てるだろ?」
「いや、そのクイーンドリアードを連れてた……つまりはどうにかしてペットにした? って思われてたってことだ」
「ああ、そっか。確かにそれは騒ぎになるか」
クイーンドリアードというタイガさんたちでも敵わないボスモンスターをペットにした、って思われてたらな……。
実際は同行してもらってただけなのだが。
「……さて、それじゃ昼飯の時にじーっくりとクイーンドリアードとキングウルフに関して聞かせてもらおうか」
「ひえっ」
……こうして、俺はタケシに根掘り葉掘り聞かれることになってしまった。
そして、その情報は動画にまとめてアップした方がいいと言われたので、平日の業後にチマチマと動画を作ることにするのだった。
**********
「ふむ、やはりコウに頼むと皆の魔石を集めるのが楽だな」
「お役に立てるのであれば幸いです」
あの一件以降、俺もたびたびキングウルフさんの背中に乗って、草原を駆けてもらっている。
レイと一緒の時は気付かなかったが、走っている間の風を切る感覚、草の匂い、日の暖かさ……これらの調和がとても良い。
この体験が魔石10個でできるのだ、お安いものだろう。
「……そういえば、気になっていたことがあるのですが」
「何だ?」
「モンスター同士でも魔石を得るために戦っている、とのことなのですが……それで種が絶滅したりはしないのですか?」
「ああ、そのことか。我らは戦いに敗れて死んでも、しばらく時間をおいて復活するのだ。寿命以外では死なないのだよ。我に同じ人間が何度も戦いを仕掛けてきたことがあるので、人間も同じなのだろう?」
なるほど、モンスターも俺たちと同様にリスポーンするのか。
倒した時に魔石とG、レアドロップを残して消えるのはそういう仕組みのためだったのかな。
プレイヤーと違って即座に復活しないのは、HPやMPがMAXの状態でリスポーンするためだろう。そうでないと、リスポーン地点が分かってしまったら、楽に倒し放題になってしまいかねないし。
「ありがとうございます。おかげさまで疑問が解消できました」
「うむ。……それでは、フリスビーの方も頼むぞ」
「分かりました」
しかし、キングウルフさんやクイーンドリアードさんに聞かないと分からない情報も結構多いなあ。
ペットモンスターもだけど、モンスターがお気に入りの開発者がいるのかな。
俺もモンスターが起き上って仲間になる昔のゲームで、主人公とモンスターだけでパーティーを組むのが好きだったから気持ちは分かる。
ほかにもまだまだ公開されていない仕様や情報っていろいろあるんだろうな。
そう思いながら、キングウルフさんたちと今日も交流をするのだった。




