寝床づくりの準備
「寝床……ウルフの寝床かあ……」
調べてみたところ、狼の寝床は地面を掘って作ったものや、樹洞や岩のスキマなどを利用するものがあるらしい。
地面を掘るならライアたちの『陥没』スキルが使えそうだな……。
ただ地面を掘るだけでなく、葉っぱを敷き詰めれば暖かさも増す……かな?
自然なもの以外でもいいなら、人の手が加わった道具でもいいかもしれないけど。
更に、竪穴式住居みたいに屋根を付ければいい感じになるだろうか。
樹洞を利用するなら『チェンジプラント』で大きな木に洞を造るのが効率がよさそうだ。
こちらの場合も家みたいに風よけもできるし、冬でも内部をある程度暖かくできるだろう。
問題はウルフたちが入れるだけの広さの樹木があるか……だよなあ。
「うーん……どちらがいいだろう。いや、両方造って決めてもらうのもいいかもしれない。どちらも造ることで実践経験も積めるだろうし……」
「コウ、村づくりのことか?」
「ええ、どんな風にウルフたちの寝床を造ろうかと思ってまして……とりあえず案が2つありますので、どちらも造って決めてもらえば満足度も上がるかなと……」
「コンペみたいで楽しそうでいいじゃねえか、おれたちの住居造りにも活かせそうだしさ」
確かにキングウルフの大きさは俺たちよりも上だし、キングウルフに合わせたサイズにすればそのまま俺たちでも使える住居になるだろう。
……そういえば、正式なキングウルフのサイズが分からないな……アテナさんがいたんだし、測ってもらえばよかったかも……。
まあ、多少アバウトなサイズでも小さくなければ問題なく使えるだろう。
「ん……? そういえば……」
「どうかしたか?」
「いえ、村ができたとして、それをどうやってキングウルフに伝えればいいのかと思いまして」
「ああ、それならこれがあるぜ」
アトラスさんはアイテムボックスから草を巻いたようなものを取り出した。
なんだろう……見たことないアイテムだけど。
「これは草笛だな。よく分からないがおれのことを気に入ったとかで、キングウルフからもらったんだ。『遊びたい時はこれを草原で吹けば駆けつける』って言ってたから、村を造った時もこれで呼んでいいんじゃないか?」
「草笛でしたか……懐かしいですね」
「ああ、おれの家は田舎で山に近いから自然豊かでな。タンポポで作ったりしてたぞ。ついでにヘビイチゴもあるから食ったりしてたなあ」
「ヘビイチゴですか、あれ食べられるんですね」
「そうだな。他の事でたまにやらかすこともあったけど、それでもこどもの好奇心は止められねえからな。レンゲソウの蜜を直接吸ったりもしてたなあ……って、昔を懐かしんでる場合じゃないな」
「俺としてはもっと聞きたいんですけど、確かに村づくりも控えてますしね」
俺もタンポポの綿毛を飛ばして遊んでたなあ……あれ、意外と楽しいんだよな……とか懐かしく思いつつも、今の課題は村づくりである。
時間がある時や、村づくりをしている時に話せばいいかな。
「で、どんな感じで進めていくんだ?」
「そうですね、まずは竪穴式住居を造りましょう。ドリアードの『陥没』スキルを使って穴を造り、中央に柱を建てて、そこから屋根を造って……みたいな感じですね。ただ、屋根を造るのが難しそうで……」
「それならテントみたいに布を使ってみるか? 柱から傘みたいに各方位に地面に伸びる木を取り付けてさ」
「なるほど、テントの生地が売っていればできそうですね。アテナさんなら自作しそうですけど……」
「そこはまずは市販品でいいんじゃねえか? どちらが選ばれるかまだ分からないんだしさ。ま、全部却下される可能性もあるが」
「確かに」
いきなり全力で造って拒否されても無駄になるしね。
自分たちで使うってこともできるといえばできるけど。
「それと、もう一つはどんなやつだ?」
「チェンジプラントで木を建物にする方法ですね。ヴァイスで教えてもらったやり方です」
「ああ、確かにそれもよさそうだな。自分たちで造るときの魔法の練習にもなる」
「そういうことです。問題としては、そう都合よく大きい木がないことですかね……」
「クイーンドリアードに相談してみるのはどうだ? ヴァイスの破壊された木を元に戻したんだろ?」
確かにクイーンさんの力を借りればできるだろうけど、できるだけそれは控えたい。
「でも、クイーンさんの力に頼りっきりになってしまうと、クイーンさんがいないと何も造れなくなってしまいますからね……」
「あー、確かにおれたちだけで造れなきゃ、クイーンドリアードがいない、この辺から遠く離れた所に村なんて造れないしなあ……」
できれば誰でもできるように、が望ましい。
一部の人にしかできないものだと、その人たちに負担がかかり過ぎるしね。
「……ということは、まずはある程度の大きさの木がある場所探しか」
「そうですね、そこがキングさんの行動範囲内であることが好ましいでしょうか」
「一応、クォルトゥス鉱山の近くに造った村は壊されたから、あの辺は行動範囲になるってことか」
「そうなると……」
**********
「コウさん、アラクネをペットモンスターにする協力をしてくれるんですか!?」
「え、ええ……本命は村づくりの視察なんですけど……」
「ああ、確かにあの名もない森の辺は結構な数の木がありそうだな」
「……あれ? コウさんたち、どこかに出かけるんですか?」
俺たちがギルド内で相談をしていると、通りかかったレックスさんが声を掛けてくる。
どうやらレックスさんはウンディーネとポーションを作り終えたところらしい。
「ええ、ちょっとアラクネをペットにできないか検証してみようと思いまして」
「なるほど、いつ出発しますか? 僕も同行します」
「そうだな、4人パーティーならターゲットも分散しやすいだろうし、糸に絡まれた時に助けやすいだろうし、おれは賛成だぜ」
「私も大丈夫です。……アトラスさん、アラクネは糸で攻撃するんですか?」
「確かヴァイスのダンジョンで戦ってた動画があるはずだが……基本的に糸で動きを封じたり、糸で首を絞めて窒息させたりと、結構いやらしい戦い方をするみたいだな」
「そうなると、糸を斬るための短剣や、糸を防ぐ盾などが欲しいですね」
「あとは、火属性で燃やすのもいいが……森で戦うとなると、森林火災が起きるよなあ……」
「それは避けたいですね……住んでる動物やモンスターたちに迷惑がかかりますし」
バンシーたちみたいに森の奥にひっそりと暮らしてる子もいるだろうし、さすがに火災は避けたい。
生態系も乱れるし、火は封印という形で相談は落ち着いた。
「あとはどういう感じに接すればペットになってくれるか……か」
「アルラウネは無力化した後にポーションを与える、ウルフは力の差を見せつける、でしたか」
「まだペットにはなってませんが、バンシーは迷子の子を助けると仲良くなれましたね」
「クイーンは……なんだろうなアレ。一応遊具の提供になるのか……?」
「うーん……まったく見当がつきませんね……」
「ま、現地でいろいろ試してみるのが早いんじゃねえか?」
「そうですね、まだペットモンスターになるとは決まったわけではないですし……」
現状、バンシーもドリアードも、他の初期ペットだけど仲間にする方法が分かっていないモンスターは数多くいる。
アルラウネは運よく見つけられたけど、本当に運がよかったとしか言いようがないしね。
「……それなら、いっそのこと『アラクネが攻撃で出した糸を持ち帰る』方針もいいかもしれませんね」
「おお、いい案じゃねえかレックス。確かに盾などでわざと受ければ糸を持ち帰れるか」
「私としてはペットモンスターにしたいんですけど、糸が持ち帰れるならそれもよさそうですね。実際に服を作るのに使えるかの検証も必要ですし……」
「……それでは、装備を整えてから出発しましょうか」
こうして、俺たちはアラクネの棲む森へと出発した。
検証時間を長く取りたいので今回はポータルでクォルトス鉱山に移動する。
ちなみに俺はライア、アテナさんはルシード、アトラスさんはフェン、レックスさんはウィンをそれぞれ戦闘要員として連れていくことにしたのだった。
**********
「お、この辺の木なんかよさそうだな」
「そうですね、それでは登録しておきましょう」
俺はマップを表示し、位置保存機能で現在の場所を登録する。
これでマップ上にマーカーが表示され、いつでも確認可能になる。
こんな感じで俺たちはチェンジプラントで加工できそうな木を探しながら、アラクネのいる森へと向かう。
道中で5か所ほどよさそうなものが見つかったので、今度加工に来てみよう。
「あ、ここですコウさん」
レックスさんが指し示す先にはアドヴィス森林ぐらいの大きさの森がある。
至って普通の森だけど、こんなところにアラクネが出現するんだな。
「入口よりも少し進んだ先……広場になっている所で見かけたので、アルラウネみたいなボス扱いかもしれませんね」
「それなら、広場に入る前に準備を整えましょうか。一応、途中で出くわす可能性も0ではないので、入る前にもある程度の準備は必要ですかね」
「それなら、私は入口から人形を出した状態で進みますね。多少MP消費が多くなりますが、アラクネちゃんのためですもの……がんばらないと!」
相変わらずアテナさんの服への情熱は凄まじい。
だからこそ、うまくいって欲しいところだが……。
「たしか、この先が広場になっているはずです……」
俺たちは森を進んでいくが、道中ではモンスターにまったく出会わなかった。
本当にアドヴィス森林と同じ感じなんだな。検証をする身としてはありがたいけども。
広場に踏み込む前に、俺たちはポジションや糸攻撃を受けた際のフォローに関しての手順などを確認し直し、広場へと歩を進める。
「くー……?」
すると、上半身が女の子、下半身が蜘蛛になっているアラクネがじっとこちらを見る。
そしてお尻をこちらに向けると、急に俺に向けて糸を放ってくる。
「くっ!」
俺はアラクネの糸を盾でガードすると、糸が盾に巻き付いていく。
そこで糸を剣で斬ろうとするが……。
「か、硬い……!」
確かにアラクネの糸は硬いとは聞いていたが……。
2回、3回と斬りつけてもびくともしない。
アトラスさんがフォローに入ってくれ、片手剣から持ち替えた大剣を思い切り振り下ろしてようやく切断できた。
アトラスさんの力と攻撃力の高い大剣でようやくとは、これは思った以上に厄介だな……。
俺は念のために糸が絡んだ盾を別の盾に入れ替えて、防御姿勢を取る。
「くーっ!」
糸での攻撃に失敗したと分かると、アラクネは糸を木の枝に飛ばす。
「撤退か!?」
アトラスさんはアラクネを追おうとするが、これは撤退ではなかった。
アラクネは糸を付けた枝を一周し、勢いをつけて蜘蛛の下半身でアトラスさんに体当たりをする。
「ぐっ!」
それをまともに受けてしまったアトラスさんが吹き飛ばされる。蜘蛛の身体はかなり頑丈なようで、体当たりをしたアラクネの方はけろっとしているようだ。
そして、再び枝に糸を飛ばして距離を取る。
「……厄介だな」
「まさかここまで機動力があるなんて……どうにかして隙を作らないと」
そうこうしているうちに、再びアラクネが別の枝に糸を飛ばし、こちらに体当たりをしようとする。
俺たちは盾を構えて防御姿勢を取るが、アラクネは俺たちの側面や背後に回り込もうと更に別の枝に糸を飛ばす。
「くそっ、かなり頭がいいなコイツ!」
「どこから攻撃を仕掛けてくるか分かりませんね……どうやって対処すれば……ん?」
俺たちは『わざと背後を取られてください』というメッセージをアテナさんとレックスさんから受け取った。
「コウ、わざと隙を作るぞ」
「はい、疲れたフリをして動きを鈍らせましょう」
俺たちはアラクネの方に盾を構えて向く時間を、徐々に長くしていった。
そして、アラクネが完全に俺たちの背後を捉え──。
「くーっ?!」
「うまくいきました! 今のうちに……!」
突然、アラクネが地面に激突する。
どうやら、アラクネが一回転をして勢いを付けようとした枝を、ウインドカッターの魔法で斬り落としたようだ。
そして、アテナさんとレックスさんがアラクネを取り押さえ、糸の出る尻尾に袋を被せる。
「ライア、念のためにバインドを!」
「きゅーっ!」
更にライアのバインドにより、万が一にも逃げられないようにする。
「く……くーっ……」
抵抗手段を完全に断たれたアラクネは、泣き出しそうな表情で俺たちを見ている。
……特にアトラスさんは身長2メートル超えてるから怖いよなあ。
「えっとね……アラクネちゃん。私たちはアラクネちゃんをやっつけたいわけじゃないの」
「くー……?」
「私、アラクネちゃんの糸でこういうもの……服を作りたいの。ほんとはあなたが欲しいの……って言いたいけど、ペットモンスターにならなくてもいいから、たまに私たちに糸を分けてくれないかな……?」
アテナさんはアラクネに服を着せてあげる。
……なんでサイズがちょうど合うんだろう……とか野暮なことはツッコまないでおこう。「そうだ、君が欲しい」みたいな告白のような説得も。
「くー……」
アラクネは着せてもらった服をじーっと観察している。
……そして。
「や、やった! やりましたー!」
アテナさんが喜びの声を上げてアラクネを抱きしめる。ということは……。
「アラクネちゃん、ペットモンスターになってくれるみたいです!」
「おめでとうございます!」
──こうして、どういう条件かはまだ分からないが、アラクネがアテナさんのペットモンスターになるのだった。
戦闘面がかなり強くて苦戦したけど、無事にペットモンスターにできて一安心だ。
まあ、一番苦戦したのは、アテナさんのアラクネへの名付けだったようだけど……ね。




