VSストームドラゴン
「──ふぅん、今回はランと戦ってくれるんだぁ?」
「ええ、ダメ元ではありますが……胸を借りるつもりで挑ませて頂きます」
「えー……胸を借りる……? コウって実はえっちなの……?」
「そういう意味じゃないですからね?!」
しまった、慣用句って分からないのか。そりゃ人間じゃなくてモンスターだからしょうがないかもしれないが……。今後、モンスターとの会話の際には気を付けないといけないな……。
俺はどういう意味かをランさんに説明することになったのだが。
「……という意味なんです」
「……ふふっ、コウって真面目すぎー。実は知ってるよー」
「えっ……???」
「やっぱりコウっておもしろーい。弄り甲斐があるー♡」
こんな時までメスガキムーブしなくても……とは思うのだが、そういうキャラなので仕方がないか。恨むのはこういう性格にした運営を恨むことにしよう。おのれ邪運営!
「それじゃ、そっちはコウとアテナとアトラスとレックスの4人なの? モンスターはいないの?」
「そうです、これがいつものメンバーですので」
「……ふーん、今まで戦った人間よりも弱そうな感じだけど……まぁいいや、かわいがってあげるー♡」
ランさんはその言葉と同時に、翼を開いて空へと飛翔する。戦闘開始の合図だ。
装備・アイテムの作製、動画での行動パターン研究、イメージトレーニングなど、できるだけの準備はしてきた。あとはそれがどこまで実践できるかだ。
まず最初は空中にいるランさんをどうにかして地上へ引き摺り下ろすか、攻撃を耐え忍んで地上に降りてくるのを待つかだが……。
「バインド!」
「!」
攻撃を耐え忍ぶなんてのは俺たちには土台無理なので、強制的に地上にお招きするしかない。
ライアのバインドを使い、飛んでいるランさんをツタでからめとる。
「……と思った? ざぁんねん……!」
しかし、ランさんは地上一歩手前でツタを引き千切り、再度翼を羽ばたかせようとする。
……が。
「ええいっ!」
上空からアテナさんの無機物操作で操作された大剣が襲い掛かる。地属性の籠手に持たせた火属性の大剣は、ランさんの胴体にクリーンヒットする。
「きゃっ?!」
その反動で、ランさんは地上に叩き落された。しかし、すぐに態勢を立て直し……。
「もぉ、いったぁぁい……ウィンドストーム!」
ランさんは自分の周りに暴風を発生させ、俺たちを近づけないようにしつつ、その風に乗って上空へと舞い戻る。
「……ふぅん、意外とやるじゃん。でもぉ……これは避けられないでしょ!」
ランさんは口に魔力を集め、それを解き放って衝撃波を伴う烈風を引き起こす。これはいわゆるドラゴンのブレス攻撃らしく、ランさんはストームドラゴンだから風のブレスになる。
それは一直線に俺たちの方へと飛んでくる。まともに当たればひとたまりもない……だが。
「隆起! ……からの陥没!」
俺は目の前の地面を隆起させて土の防壁を造りだすと共に、防壁が突破された場合でも烈風が直撃しないように、自分たちの足元を陥没させる。ジャイアントオーガ戦でライアが使ってくれた時のように。
「保険をかけておきます。ウォーターカーテン!」
更にレックスさんが魔法を重ねる。防壁が勢いよく崩された時に備えて水の壁を張り、俺たちが土砂に巻き込まれないようにしたのだ。
……どうやらこの判断は正解だったようで、防壁は完全に破壊しつくされて土砂が押し寄せ、威力が減衰したブレスが俺たちの後ろの土壁に直撃する。
「……おいおい、マジかよ」
アトラスさんが驚くのも無理はない。減衰したにも関わらず、土壁がかなり抉られていたからだ。
もし俺たちに直撃していたら、即死、もしくは大ダメージを負っていたはず。たとえ、風属性<防御>の補正値を上げていたとしても……。
「……ふーん、なかなかやるじゃん。でも、防御だけじゃ勝てないよぉ……?」
ランさんが煽りに煽ってくる。それに応えて俺は武器を投擲する。
それは弧の軌道を描き、ランさんに直撃する……が。
「……何これ? 攻撃のつもりなのぉ? くすくす……」
ランさんは俺が投げて弾かれた武器……ブーメランを手……というか前脚に取ると、これ見よがしに握り潰してみせる。
一応火属性のブーメランなんだけどな……まったくと言っていいほど、ダメージは通っていないようだ。
やはり大剣のような重量武器でないと、硬い鱗に阻まれてしまうのか。
俺は破壊されたものの代わりに、新しいブーメランを装備し直すが……。
「あははっ! 効かないって分かってるのにまた使うのぉ? ざぁこ♡」
一応弓矢という方法もあるが、俺はまだ使いこなせないんだよな……だから、ブーメランで翼などの柔らかそうな部位を狙うのが得策だろう……と、ランさんに思い込ませておこう。
「ザコにはザコなりの戦い方があるんですよ!」
今度は翼をめがけてブーメランを投げる。それと同時にアテナさんも反対方向から無機物操作で大剣を振り下ろす。アトラスさんは矢を首に射かけ、レックスさんはウォーターボールで胴体を狙う。
しかし、ランさんは素早い動きで大剣を避ける。ブーメランは翼に命中するも弾かれ、矢は避けた拍子に翼に当たるがダメージは無く、ウォーターボールも胴体に命中はするがランさんの身体を少しだけ綺麗にしたに過ぎないようだ。
「あの大剣以外は効かないから、アテナだけ潰しちゃえば良さそうねぇ……ふふっ」
ランさんは俺たちと距離を取ってこちらに向き直る。動画を見た限り、これは突進攻撃の予備動作だ。
……だから、ここがチャンスになる!
全滅を避けるためにレックスさんとアトラスさんは左右に退避、アテナさんは風属性の大盾を構えて突進へ備える。そして俺は……ブラウンのスキル、威力増幅を最大の3回重ね掛けする。
「ふふーん、抵抗なんて意味ないのにぃ……」
そして、ランさんはアテナさん目掛けて凄まじい速さで突進をしてくる。それと同時に俺は助走をつけてブーメランを投げ──ると同時に、チェンジウェポンでハンマーに武器を変更する。
ブーメランを投げた時の慣性と勢いはそのままハンマーに受け継がれ、突進してくるランさん目掛けて大重量のハンマーが飛んで行く。
「ちょっ、嘘っ……?!」
今更気付いてもランさんは止まれない。ハンマーの勢いと自身の勢いが合算されて衝突し……。
ガン!!! と大きく鈍い音を立てて、ランさんの頭部に直撃する!
そして、脳震盪を起こしたのか、ランさんは勢いよく地面に墜落した。
「みなさん、今です!」
「おう!」
俺は武器変更した全員に威力増幅を3掛けすると、ちょっと気は引けるが前後不覚になったランさんを囲んでタコ殴りを始める。
機動力を削ぐために翼、攻撃力を削ぐために脚、そしておそらく一番ダメージが大きい頭をそれぞれハンマーや大剣で攻撃していく。
これでやったか?! と思ったが……。
「……もぉ、信じらんない……コウたちにここまでいいようにされちゃうなんて……!」
ランさんはすぐに立ち直り、ウィンドストームを使って俺たちとの距離を離す。
「これはかわいくないから使いたくなかったけど……!」
ランさんは痛めた翼をかばうようにウィンドストームで空を飛びながら、ウィンドストームの暴風のエネルギーを口に集め始める。
俺たちは矢やブーメランなどで攻撃を止めようとするが、暴風に阻まれてランさんには一切の攻撃が届かない。正に攻防一体の技となっている。
「これで終わり……! ストームバースト!」
俺はランさんの攻撃に合わせて陥没を使い、攻撃を避けようと試みた。
しかし、凄まじいまでの勢いで叩きつけられた風は陥没で作った穴にまで入り込み、穴の中で反射した風は俺と共に上空へと向かう。
そして、そこに待っていたのは、ランさんの爪による強烈な一撃だった──。
**********
「……あー……負けちゃったか……」
次の瞬間、俺が目覚めたのはホームのベッドの上。どうやらランさんの攻撃でパーティーは全滅してしまい、強制的に送還されてしまったようだ。誰か一人でも生き残っていたら、あそこで倒れて動けなくなってるはずだからね。
「コウ、大丈夫……?」
「これ、ポーションです。飲んでください」
「ありがとうライア、レイ」
心配そうに俺を見るライアとレイ。
俺はポーションをレイから受け取ると、飲み干して体力を回復させる。
「コウ、はいこれ。ボク特製のだから……舐めて元気だしてね」
「ら!」
「エファ、ありがとう。それじゃ早速……」
俺はエファからフェアリーシロップを受け取ると、舐めてMPを回復させる。そして、その甘さに心が落ち着いてきた。
「……ふぅ。やっぱりランさんは強かったなぁ……」
作戦はうまく行ったと思ったんだけどなあ……まさかあんな大技を隠し持っていたなんて。
まあ、ドラゴンという大ボスなんだから、下位種といえど必殺の一撃は持っていてもおかしくないよね。
「でもコウはかっこよかったよ! ライアはコウのこともっと好きになったもん!」
「ふぇー!」
「がう!」
みんなから励ましの言葉をもらう。……いい子たちだなあ。
……よし、ちょっとみんなと遊んで気持ちを完全に落ち着けたら、ランさんの所に行ってみよう。
「ありがとうみんな。それじゃちょっと疲れちゃったから、みんなで遊ばない?」
「はーい! ライアは七並べやりたーい!」
「ライアちゃん、こういう時はコウさんがやりたいものを聞くのができる女の子って、アテナさんが言ってたよ」
「そうなの? それじゃ、コウのやりたいものやろ!」
アテナさん、いつの間にそんな入れ知恵を……と思いつつ、俺はしばらくの間みんなとトランプをしてゆっくりと過ごすのだった。
**********
「あっ、コウじゃん! さっきは楽しかったよー」
「ランさん、ケガの方は大丈夫ですか?」
「……ぷっ、戦った相手のケガを心配するとか……コウっていい人すぎー」
「だよねー、ライアもそう思うー。でも、そこがコウのいい所だもん」
「うんうん、そういうことにしといてあ・げ・る♡」
そんな会話をしつつも、俺たちが攻撃した箇所を見るが、損傷したような跡はない。効いていなかったのだろうか?
「あ、もしかして攻撃が効かなかったって思ってる? ちゃーんと効いてたよ?」
「ランさんは相当、傷の治りが早いんですね」
「ううん、ランは回復魔法も使えるよ?」
「えっ」
なん……だと……?
攻守共に隙が無くて、更に回復まで使えるとかチートじゃない?
あの攻撃同様に、今まで見せてなかったということは……完全に手加減されてたんじゃ……。
「知らなかったです……」
「だって、今までの人間じゃそこまでダメージ受けなかったもん。コウたちに初めて奪われちゃったぁ♡」
「言い方!」
「くすくす……。でも、今回でコウたちのこと見直しちゃったかも」
「コウはあげないからね!」
「それじゃ側室なら大丈夫ー?」
「そくしつ……? ねーねーコウ、そくしつってなーにー?」
「え、ええと……」
俺は簡単にライアに説明をすると、ライアはなるほどと頷いた。
「んー……ライアはランちゃんのこと優しい人って思ってるから、側室ならいいよー」
「ちょ、ちょっとライア……」
「……あははっ、ライアちゃんってばコウに似て素直過ぎー。冗談だよー」
「そーなの? ライアはそんなこと思わなかったんだけどなあ……」
「ライア、その辺にしておこう。ランさんはこんな人だから……」
「そうそう、ランはそういう竜だから。……で、あの武器ってどうやって手に入れたのー? ランがあそこまでダメージ受けるとは思わなかったし、気になるー」
「ええと、それはですね……」
俺はハンマーを取り出して、ランさんにも見えるようにステータスを表示させる。
そして、とある人に手伝ってもらって造りだしたこと、戦った感じでは風属性による軽減よりも竜特効と火属性によるダメージ増加が上回ったことなどを話した。
「ふーん、そんなことができる人がいるなんてねー。世界ひろしってことかぁ」
「そうですね」
「ま、そういう人が協力してくれるのもコウの人徳ってことなんだろうねー。あ、戦闘は楽しめたから、また4人揃ってきてくれたらいろいろあげちゃおっかな」
「ありがとうございます、それではそうさせて頂きます。……あ、せっかくなのでこちらのEXマジックポーションなどをどうぞ」
「へー、やっぱりコウは気が利くねー。ちょっとご褒美を増やしてあげよっかなぁ♡」
……そんな、さっきまで敵同士だったとは思えない会話をしながら、時は流れていくのだった。




