ペンギンのダンジョン
「ギー!」
今日もペンギンたちは元気だ。
浜辺に設置されたウォータースライダーで相変わらず楽しんでいるんだけど……。
「何か設置されていると思い来てみたら……やはりコウか」
「マーメイドクイーンさん。ええ、少々事情がありまして……」
俺はマーメイドクイーンさんにこうなった経緯を説明する。
「……ふむ、疑似的にだが空を飛ばせたい、と」
「それで、射出角度が少し急になっていて、滞空時間を伸ばしているんです」
「なるほどな。……それは楽しそうだ」
あっ、やっぱりそういう流れになるんだ。
クイーンと言えども順番はちゃんと守るようで、ペンギンたちの最後尾へと並ぶ。
……いや、クイーンだからこそ規律はちゃんと守るんだな。見られてなくても他のマーメイドたちの模範となるように。
そして、しばらくしてマーメイドクイーンさんがウォータースライダーから飛び出し、しばしの空の旅を楽しむことに。
着水してすぐに帰還し、「次はこれを余たちの方にも設置してくれ」と言われる。……相当気に入ったんだな……。
一応、素材さえあれば自動作製機能で造れるわけだし、すぐに作製してマーメイドクイーンさんたちがいつも使う浜辺へと設置してから、ペンギンたちの方へと戻る。
「ギー……」
そして、やはり外が暑いのか、ペンギンたちはしばらく遊んだ後に名残惜しそうにダンジョンへと戻っていく。ダンジョンの中にも設置できればいいんだけどなあ……天井が高いとはいえ、設置できそうな池や湖はないし……。
とりあえず、俺もライアとフィーリアを連れてダンジョンへと入っていく。
「ギー」
「ふんふん、中にもあれを造って欲しいにゃ?」
「やっぱりそうなるかあ……でも、水がないと着地の衝撃がダイレクトにくるから、危ないんだよね」
「確かにそうにゃー。……ん? どうかしたにゃ?」
「ギーギー」
「えーっと、もっと地下に湖があるにゃ?」
……湖?
こんな浅い階層ですら凍っているのに、凍らない湖があるのか……なんだか神秘的だ。
ただ、この階層のペンギンたちは友好的だけど、他の階層のペンギンたちとは交流がないんだよなあ。湖を見に行くとしても、道中が危険すぎる。……という旨をフィーリアに伝えてもらう。
「コウ、この子たちが話をつけてくれるらしいにゃ」
「そんなことができるの?」
「ほかの子たちも飛びたいから、きっと通してくれる……って言ってるにゃ」
「あー……確かに同じ飛びたいという想いを持ってるならそうかも」
……ただ、それって湖に到着するまでずーっとペンギンの数が増えるってことだよね。
更に、外に設置するときにもそのペンギンたちも来ることになるだろうし……。
……持つかなあ、素材の在庫。あと俺の時間。
などと考えながらも2層、3層と順に降りていく。
「ふわぁ……綺麗なダンジョンにゃあ……キラキラにゃあ……」
「きゅー♪」
ライアたちは観光だからあちらこちらをキョロキョロしている。
他では見られない珍しい氷のダンジョンだからか、フィーリアも尻尾をぶんぶんして喜んでいる。寒いから行きたくないと言っていたフィーリアはどこへやら。厚手の服を作ってくれたアテナさんには感謝しなきゃね。
さて、道中ついてくるペンギンは1層ごとに約8羽。最初の1層で15羽いたのに比べれば少ないな。深くなるとモンスターのレベルが高い分、数が抑えられているとかだろうか。
そして5層に到着すると、そこには地底湖が広がっていた。
氷もなく、比較的温度も安定しているようだ。一面氷のダンジョンにこんなところがあったなんて……。
更にやはり天井が高く、ありがたいことに地面も平坦な場所がある。これならウォータースライダーも楽に設置できるな。
俺は設置を終えるとタンクを水で満たし、次々とペンギンたちを湖へと送り込んでいく。
途中でEXマジックポーションを使いながら、そろそろ一周したかなと思った時……。
「……誰だ? ここにこんなものを置いたのは……」
ドスの効いた声がウォータースライダーの後ろから響いてくる。
まさか、このダンジョンのボスか何かだろうか?
慌てて振り向くと、そこには人間よりも少し大きいサイズのペンギンがいた。
髪? は逆立っており、こちらを睨むような目つきをしている。……あのう、むかーし整髪料のCMに出てませんでした?
……さておき、俺は地上に降りると、そのペンギンは俺のことを睨みつけてくる。ただ、すぐに手を出してこないあたり、会話はできるようだ。
「……人間か。ここに何の用だ?」
「ええと……このウォータースライダーを設置するために彼らと一緒に潜ってきました」
「お前ら、それは本当か?」
「ギー!」
「……そうか、なるほどな。よし、戻っていいぞ」
大きなペンギンがそう言うと、他のペンギンたちはウォータースライダーを遊びに戻っていった。
このペンギンも人の言葉を話せるあたり、ペンギンの上位種なんだろう。大きさ的にコウテイペンギンかな?
「あー……さっきは悪かったな。敵かと思って敵意剥き出しの対応をしちまってよ」
「いえ、こんなところに人間がいる方がおかしいですし、当たり前の対応だと思いますよ」
「そう言ってくれると助かる。……で、お前……えーっと……」
「コウと申します」
「そうか。コウはあいつらのためにここまで来てくれたのか。ここは人間にゃ寒くて大変だっただろう?」
「え、ええ……ですが、できるだけ要望は聞いてあげたくてですね……」
……俺たちプレイヤーは暑さ寒さを感じないんだよなあ……とりあえず、話は合わせておくけど。
フィーリアやライアたちは厚着をしてもらっているから、寒くはあるけど大丈夫なようだ。
「はっはっは、ここに来るやつは腕試しだのレベル上げだのが目的なやつが多いが、あいつらのために来るってのは初めてだ。気に入ったぞ」
「あ、ありがとうございます」
「……で、あいつらが空を飛ぶためのものか、あのウォータースライダーってやつは」
「鳥が飛ぶという意味での飛ぶとは違いますが、少しの時間ですが空中を飛べるものですね」
……本当はそういうためのものではなく、ただの遊具ではあるんだけど。
まあ、使い方は人それぞれだし、そういうことにしておこう。
「なるほどな。あいつら、ロックバードに飛べないことをバカにされて、それで飛べないことを気にしてたんだよな。得手不得手なんて人それぞれだってのによ」
「分かります。ですが、どうしても他人と比べてしまうんですよね」
「そういうことだ。ま、あいつらも楽しそうだし、ありがとな」
「どういたしまして。……ところで、あなたは……」
俺がそう聞くと、大きなペンギンはハッとした表情になる。
「あー、名乗るのが遅れてすまねえな。俺様はカイザーペンギンだ。ま、好きに呼んでくれ」
「ええと……それではカイザーさんでよろしいですか?」
「おう」
……コウテイペンギンでもなく、エンペラーペンギンでもなく、カイザーなんだ……。戦闘するときに曲が流れたら、後ろでズババンズババン言ってそうだが……。
「しかしまあ、あれだけのものを造るのは大変だっただろう? さすがにタダでとはいかないな……。そうだな、まずはこれをもらってくれ」
「これは……」
カイザーさんは羽をむしり取ると、それを俺に手渡してくれる。
結構大きい羽だ。いや、もう身体から離れてるから羽根か……?
「俺様の羽だ。それを付ければペンギンたちに邪魔されず、ここのダンジョンを自由に歩けるようにしておく。宝箱を取ったり、探索したり好きなようにしてくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ、それにあいつらの頼み事を聞くぐらいお人好しなコウのことだ。アレが壊れたらまた持ってくるんだろ? その時にやりやすいようにと思ってな」
「……お見通しですか」
カイザーさんはウォータースライダーを指差す。……指差す? 羽差す?
確かに無限に使えるものではないし、定期的に補充は必要だろう。
……なんなら、この羽数で遊ぶのであれば、即日壊しそうな気がしなくもない。
「……今は他に手持ちがないからな。また来てくれた時にいろいろやるよ」
「何から何までありがとうございます」
「いいってことよ。ただ、ボスだけはどうしても敵対することになるから、そこは気を付けてくれよ。ちなみに最下層は10層だ」
「分かりました。それでは俺はダンジョンを探索させて頂きます」
「ああ、それじゃまたな」
俺たちはカイザーさんに手を振ると、4層へと戻ることにした。
……その際に、カイザーさんの嬉しそうな声が聞こえたが……なんだかんだでカイザーさんも飛びたかったんだろうなあ……。
**********
「ええっ! コウさん、大きいペンギンさんと会ったんですか?!」
「はい、ちょっとした成り行きで……」
「……コウ、お前ほんと無自覚に誑してるな……」
「まあ、コウさんですしねえ」
「違いねえ」
レックスさんの言葉にアトラスさんが同意する。俺、まったくそんな気はないんですけど!
さておき、俺が話したことによって、みんなもカイザーさんに会いたくなったらしい。
そのため、次の休みに全員でダンジョンに潜ることにした。お土産は各自で持っていく形で。
「よーし、カイザーさんに気に入ってもらえるものを作りますよー!」
「さて、おれは何を造るかな……ペンギンだと武器は持てそうにないしな……遊べるものがいいか……? それとも……」
レックスさんとアトラスさんはやる気満々でそれぞれのホームへと帰っていった。
そしてアテナさんはというと……。
「コウさん、少し相談したいことがあるのですが……」
「俺にできることでしたら」
「実は──」
「……なるほど、それは喜ばれそうですね。では早速やってみましょう」
──そして、カイザーさんに会う当日。
「おう、コウじゃねーか。で、そっちのはお仲間か」
「はい。こちらからアテナさん、アトラスさん、レックスさんになります。どうぞよろしくお願いします」
「ははっ、そんな堅苦しいのはなしでいいぜ。で、今日は挨拶のためにわざわざここまで来たのか?」
「いえ、それぞれプレゼントがありまして……」
「ほう……」
アトラスさんからはペンギンの形をした氷が造れるキット。
レックスさんからはカイザーさんの肖像画を額縁付きで。
そして俺とアテナさんからは……。
「……これを背負えばいいのか?」
「はい、きっと驚いて頂けるかと思います」
それは一見、リュックサックのような背負う小物。
しかし、これは……。
「ほうほう、期待させてくれるじゃねーか」
「それでは……いきます!」
「うおっ?!」
突然カイザーさんの身体が宙に浮きあがる。
そして、地底湖を飛び回り始める。
「な、なんだこりゃあ?!」
驚きを隠せないカイザーさんにしばし空中散歩をしてもらうことに。
周りのペンギンたちはそれを憧れの目で見ている。
そして、しばらくして着陸してもらい……。
「……まさか俺様が鳥みたいに空を飛べるなんてよ……夢のようだぜ」
「ふふふ、気に入って頂けたならよかったです」
「操ってたのは嬢ちゃん……じゃなくて、アテナだったか」
「はい。種明かしをしますと、この中にうすーく加工した地属性の鉱石が入っているんです」
「そして、それを地属性の無機物操作のスキルを使って動かしていたんですね」
「なるほどな……人間はおもしれえことを考えるもんだぜ。……ただ、やっぱり自力で飛びたいもんだな」
確かに、アテナさんがいないと空を飛べないから、いつでも飛びたいという想いはなくならないだろう。
「水属性の無機物操作のスキルはどうにかして習得できないですか?」
「そうだな……そういうスキルを持ってるやつがいねえか探してみるか。もし使えるようになったら……」
「もちろん、水属性の鉱石で同じものを作らせて頂きます」
「……ありがとよ。そんときゃこいつらの分も頼むぜ」
「はい!」
贈り物を気に入ってもらえたのか、俺以外の3人もカイザーさんの羽根をもらうことができた。
更に、大量の水属性のモンスターの魔石をおまけで付けてくれた。見慣れない名前のモンスターの魔石があるが……いったいどこで調達してきたんだろうか?
とにかく、今回のプレゼントは大成功……といったところだろうか。
その後、キヴァナ峡谷でもこの手法を真似た空中戦、そして風起こしのスキルでのダウンバーストの発生での墜落狙い……といった戦術が編み出され、キヴァナ峡谷も徐々に攻略法が確立されていくのだった。
……なお、服や装備の中に属性鉱石を入れる手法を公開したため、俺を含むチェンジオーアを使える数少ない人の労働時間が増えたのは言うまでもない……。




