ペンギン
「……で、今回はボクが一緒に行くことになったのね」
「フィーリアは『寒いところイヤにゃ!』って言ってたから……ごめんねエファ」
「別にいーよ! ただし、的当てや水切りをやるお金が欲しいなー……なんて」
「それはもちろん払うから、帰ったら存分に遊んで欲しいかな」
「やったー!」
……ということで、ペンギンのダンジョンに行くことになったのは俺と俺のペットモンスター(随時交代)とエファとアテナさん。
アトラスさんやレックスさんは他のダンジョンに稼ぎにいくらしいので、今回は俺たちだけだ。
「それじゃあエファ、アテナさんから厚手の服をもらって、それを着てくれる? かなり寒いから、風邪をひかないようにね」
「りょーかい! それじゃ早速もらってくる!」
エファはアテナさんのところへと飛んで行った。
さて、俺は籠の調整をしておくかな……いや、アテナさんが来るなら地属性の無機物操作で操れるように、地属性の鉱石を中に仕込むのもアリか……?
風起こしで飛ばすには調整がなかなか難しいから、無機物操作で飛ばせるならそちらの方が安全な気がする。チェンジオーアで鉱石を変形させられるようになったところだし、ちょうどいいな。
「よし、ちょっとやってみるか」
俺は籠の底を二重底にして、その部分に薄く平べったくした地属性の鉱石を入れる。
重量と原価は嵩むが、これで安全に飛行できるなら安いものだ。あとでアテナさんに試してもらおう。
「コウー! 服もらったー! ……でもあっつーい」
「そりゃあここで着たら暑いでしょ……まあ、氷の洞窟に行くならそれぐらいがいいかな」
「コウはそんな厚着じゃなくても大丈夫なんだね。鍛えてるから?」
「う、うん。そんな感じ」
……プレイヤーはゲーム内の暑さや寒さを感じないんだよね。今いる部屋の温度を感じている。……でないと、急な温度変化があったら風邪をひいたりするからね……。
一応、ゲーム内の暑さや寒さを感じられる機能はあるけど有料だし、『※自己責任でお使いください』という注意書きもあるから、流石に俺は買っていない。
おかげで厚着をしなくても大丈夫なんだけど、こういう風にNPCから見たら不思議な光景になるんだよなあ……。
「よし、それじゃあ出発しようか」
「おーっ!」
**********
「へー、トレントの島にこんなダンジョンがあったんだ……って、寒っ!」
「そうだよね、外は暑いのに中は極寒だし」
「それに、入ってきた階段の高さよりも天井が高い……」
「……ダンジョンって不思議だよねえ」
明らかに天井が高いんだよなあ……ここだけ異空間みたいな感じだ。
他のダンジョンでもそういうところはあるが、ここの天井だけやたら高いから印象に残る。
シルフィーさんのいたダンジョンの、洞窟内に草原があるのもアレだけど。
「ギー!」
そして、俺たちが入口で話をしていると、おそらく昨日会ったと思われるペンギンが氷の上を滑って現れる。
「か、かわいい……!」
その挙動にアテナさんはメロメロだ。ペンギンはチャームも使えるのか……。
……という冗談は置いといて。
「エファ、ペンギンから要望を聞いてもらえる?」
「分かったー!」
エファがペンギンから要望を聞き取っている間に、俺たちは準備をしよう。
アイテムボックスから籠を取り出し、いつでもペンギンを乗せられるように準備する。
また、EXマジックポーションをアテナさんに渡し、無機物操作で籠が浮き続けられるようにしないとね。墜落したら大変だし。
「なるほどなるほど。コウー、要望聞けたよー」
「ありがとうエファ。それで、ペンギンの要望はどんな感じ?」
「えーっとねー……他に仲間もいるから、その子たちも一緒に飛んでみたいんだって」
「ほかの子たちもかぁ……さすがに一度に乗れるのは2羽ぐらいまでだし、交代交代でよければいいかな?」
「ギー!」
「大丈夫だって。それじゃあほかの子を呼んでくるらしいよー」
ペンギンは手を振ると氷の上を滑りながら仲間を呼びに行った。
その光景にアテナさんは目を輝かせている。……なんか、若干アルテミスさん化してきているような……。
「コウさん、籠に乗って試運転しても大丈夫ですか? ペンギンさんの体重なら人より軽いから大丈夫でしょうけど、念のために……」
「そうですね、確かにしておいた方が安全ですので、お願いできますか?」
「はい!」
……おそらく、アテナさんも上空からの眺めを楽しみたいんだろうな。ここに入ってきた時に、嬉しそうに周囲を見渡していたし。
こういう、日本ではなかなか見られない光景だから、楽しんでおきたいのは分かる。俺も先日飛んだ時に結構楽しんだし……。ということで、アテナさんに試運転という形で飛んでもらうことに。
「それでは行ってきます!」
「ではお気をつけて」
アテナさんは籠に乗ると、無機物操作で籠の底にある地属性の鉱石を操作する。
すると、籠がそれに合わせて浮かび上がっていく。
それはどんどん高度が高くなり、俺が飛んだ時よりも更に上がっていく。それにも拘わらず、籠のバランスは安定している。これが無機物操作の力か……俺もノームをペットにしたくなるなあ……。
アテナさんはしばらく飛行した後、ゆっくりと地上へと降りてくる。
それとほぼ同時に、仲間を呼びに行ったペンギンが、仲間を引き連れて戻ってくる。
「凄い光景でした……一面の氷の世界、初めて見ました」
「ですよね、分かります。ちなみにMPの減り具合はどうですか?」
「ええと……ほぼ尽きかけですね。高度を上げ過ぎたのもあるかもしれませんが……」
「なるほど、それだとこの人数は……」
俺はペンギンたちの方を見て人数を数えると、15羽もいる。
1回の飛行で2羽までだから、今から回復する分を除いて8個のEXマジックポーションを使うことになるな。一応、充分に足りてはいるけども。
「それではアテナさん、MPを回復したら順次ペンギンたちを空への旅にご招待しましょう」
「はいっ!」
こうして俺たちはペンギンたちを次々と籠で空の旅へと案内する。
空中散歩が終わって籠から降りたペンギンたちは嬉しそうな表情をして、俺たちに頭を下げてから自分のいたところへと戻っていく。
そして、最後のペンギンが空から戻ってくると、俺たちは撤収の準備を始めたのだが……。
「ギー!」
「コウ、ちょっと待ってて欲しいって言ってるよ」
「そうなの? それじゃあ、周りを探索してみようかな。スパイクが有効かどうか確かめたいし」
実は籠の他にもスパイクを作っていたのだ。
俺は靴を履き替えて氷の上を歩き始めたが、靴装備として効果を発揮してくれるか……。
「……あ、大丈夫だ」
さすがにプロの作るものに比べたら劣るだろうけど、なんとか滑りを抑制することができた。
これをタケルやタイガさんたちに使ってもらったら、このダンジョンの攻略の取っ掛かりになるかな?
そうなると、足のサイズの採寸とかが必要になるよな……。それに、あえてこの難易度のダンジョンを攻略する意味があるかとなると……どうだろう?
「コウさん、いいですねそれ。私もこのダンジョンを探検してみたいです!」
「確かに氷は綺麗ですし、ペンギンたちとも戦闘にならないなら観光に良さそうですよね」
「ですです。うちの子たちにも見せてあげたいですし」
そう、アテナさんは無機物操作を使う必要があるため、ペットモンスターを連れていないのだ。
だから、アテナさんのペットモンスターたちはこの光景を見ることができないわけで……。うちの子たちは堪能しているから、申し訳ないところだ。
「ギーッ!」
俺たちが話をしていると、ペンギンたちが続々と集まってくる。
そして、いろいろなものを担いでいるけど……?
「コウ、お礼に持ってきたものをくれるって」
「え? いいんですか?」
「ギ!」
「なるほど、それではありがたく頂きます。アテナさん、今回はアテナさんのおかげですので、全部お持ち帰りください」
「いえいえ、コウさんのチェンジオーアがなければ籠を飛ばせなかったですし……半々にしましょう」
「むう……それでは半分ずつにしましょう。それでは見ていきますか」
ペンギンたちが持ってきてくれたものは、宝箱が4つ、凍った石のような鉱石が3つ、透き通った水晶のような石が1つだ。複数人がかりで持ってきてくれたものもあるので、これで全部だ。
相談の結果、俺は宝箱×2、凍った鉱石1、水晶のような石が俺……で、残りをアテナさんという形になる。
「それじゃ、今回はありがとう。また来るね」
「「「ギーッ!」」」
ペンギンたちは嬉しそうに手を振り、自分の棲み処へと戻っていった。
「……さて、それじゃ宝箱を開けてみましょうか」
「そうですね、流石にこのままは持ち帰れませんし……」
……ということでお楽しみの開封作業だ!
「ええと……私の方はEXポーションとペンギンモチーフのフードですね」
「俺の方は……凍った鉱石と……水属性の剣ですね。名前は氷の剣なんですけど、氷属性が無いから水属性なんですかね」
「もしかして、補正値が高めなんですか?」
「かもしれません。説明文を開いてみましょう」
【氷の剣:ランクB、水属性<攻撃>+90、火属性<攻撃>-90、攻撃+161、氷の剣だが水属性なのは氷属性がないからである。属性が多すぎると弱点を突くのが難しくなるし、何よりゲームバランス調整が……ごほんごほん。……ところで、氷の剣って聞いたらアレを言ってみたくなりません? それでは皆さん、ご一緒に!】
「ねんがんの こおりのけんを……って危ない危ない、釣られるとこだった」
「コウー、急にどうしたのー?」
俺を見て不思議がるエファと、若干笑いを堪えているアテナさん。
どうやらアテナさんは理解かっているようだ。
「いや、ちょっとこっちの話で……と、とりあえず強そうな武器が手に入ってよかったよかった」
「確かに属性補正値が+90というのは、普通の装備では見たことが無いですね。このダンジョンが難しいから、宝箱から出てくるアイテムも少し強めに設定されているのかもしれませんね」
「それならペンギンたちと交渉して、ここの中を自由に歩き回れるようにしてもらえれば、いいアイテムが回収できるかもしれませんね。実は、上空から周辺を見渡した際に、隠し宝箱もあったんですよ」
「そうなんですか?! 鉱石喰らいのいた特殊ダンジョンでも隠し部屋がありましたし、結構そういうのがあるんですね。どんどん探索してみたくなります」
実際に隠し部屋を探すのって楽しいんだよね。
壊れる壁があって、そこを攻撃するなり爆破するなりで隠し部屋につながるとか、隠し部屋にいいアイテムが落ちてるとか。
そして隠し部屋の中に更に隠し部屋があるパターンも……。
今は天井が高ければ空から見渡すことができるようになったし、隠し部屋はともかく、隠し宝箱は見つけやすくなったはず。
「それでは今度、ペンギンたちにお願いしてみましょうか」
「そうですね。ただ、毎回あの人数……というか羽数? を空に飛ばしてあげるのは消費が激しいですよね」
「うーん……あまりこちらがアイテムを消費せず、空を飛ぶ経験ができるもの……」
「……あ! それならアレはどうですか?」
「アレ……ですか?」
「はい、実は──」
**********
「ギー!」
今日もペンギンのダンジョンに入るとペンギンたちが待っていてくれた。
そこで俺は交渉を持ちかけることに。
でも、まずは……。
「ええと、君たちはこのダンジョンの外に出ても大丈夫?」
「ギ!」
「長いこと外に出ると体調が悪くなるけど、数時間なら大丈夫みたいにゃ」
「ありがとうフィーリア。それじゃあ……」
あ、今回フィーリアがついて来たのは、ここのダンジョンの動画を見せたから。
『寒いのはイヤだけど……ここ、綺麗にゃあ……きらきらしてるにゃ……』と、動画に見入っていたものだから、連れてきてあげないとね。
さておき、ペンギンたちからの了承が得られたので、俺たちはペンギンを連れて外に出ることに。
その後、近くの砂浜に移動して、ウォータースライダーを設置する。
今回のウォータースライダーは今までのとは少し違っている。これならペンギンたちを楽しませることができるはず。
ペンギンたちの足だと頂上まで登るのに苦労しそうなので、スロープを設置して登りやすいようにしている。
そして、頂上についたのを確認して、俺も頂上へ登る。次にタンクに水を貯めて放出し……。
「それじゃあここを滑ってくれる?」
「ギー!」
ペンギンは勢いよく直線コースを滑り降りていく。
そして、今回のコースの最後は角度を少し上に調整して……。
「ギーッ!!!」
上空へ勢いよく飛び出すように設計している。これで滞空時間が延び、疑似的に自分で飛んでいると思ってくれる……はず。
飛び出したペンギンが着水すると、すごく上手い泳ぎで浜辺へと戻ってくる。
フィーリアの通訳いわく『籠で飛ぶよりもずっと気持ちいい』とのことだ。
「よし、それじゃあ次々飛んで行こうか」
「「「ギー!」」」
こうして、その日は延々とペンギンたちと遊ぶことにしたのだった。




