お礼
「こうかな……? ……うわっ!?」
シルフィーさんに飛び方を教えてもらった翌日、早速スキルを習得して飛べないかを試行錯誤している。
使用しているスキルは『風起こし』という、まんまなネーミングのスキルだ。
だいたいの位置と風の強さや範囲、方向を設定して発動させるスキルで、もしかしたらタイガさんがセクメトさん戦で使っていたスキルと同じものかな?
ただ、強さと範囲の設定がかなり難しく、片足だけ浮いてバランスを崩して転ぶばかりしている。
「うう……やっぱりそう簡単にはいかないか。でも、練習を続けて行けばいつかは飛べるはず……」
どんな行動でも最初はトライアンドエラーで上手くなっていくもの。タケルに紹介されたダンスゲームだって、最初はまったく踊れなかったもんなあ……今じゃランニングマンやTステップもそこそこできている……はず。
この風魔法だって、練習していけば自分の手足みたいに扱えるようになるはず。今はまだ耐える時だ。
……ただ、使用MPが範囲や強さによって変動するけど1回で20以上と結構高く、練習ばかりしているとすぐにMPが切れてしまうのが欠点だ。練習のためにEXマジックポーションをがぶ飲みするのもね……。アイテムの作製にもMPは使うし、1日にそんなに練習できないのが難点か。
タイガさんが使ったように敵の足元に出して転ばせることもできるなど、補助魔法としてもかなり有用だから、もし練習したけど飛べなかった……ということになっても潰しは効くんだよね。
タイガさんみたいに盾を使えば転ばせやすくなるだろうし……ん? もし盾というより板の上に乗って、板全体に風を当てるようにしたらやりやすいか……? サーフボードみたいに……。
試しにチェンジプラントで木材をサーフボード状に加工し、それに乗って風で浮かせてみる。
……うん、どうやら自分の足に直接当てるよりも飛びやすいな……ただし、バランス感覚は必要か。ダンスゲームをやっていたおかげでバランス感覚が養われたから、俺としてはこの形が一番かもしれない。
ただ、戦闘にも使おうとすると、いちいちサーフボードを用意していると隙ができるしなあ……まだまだ調整は必要か。
そんなこんなで空を飛ぶ練習と生産を繰り返しながら、バイスさんに依頼した武器の納品日とバンシーさんからアイテムを頂く日を待つのだった。
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「おう、コウか。武器はできてるぜ」
5日後以降とのことだったので、バンシーさんの一週間後と合わせて、まずはバイスさんの方から訪問する。
依頼した武器は12個。俺のハンマーを含め、うちのギルド全員分の武器となる。
「ありがとうございます、これで水属性のモンスターが倒しやすくなります」
「レベル上げか? 暇があればオレもついていきたいんだけどなあ」
「あー……今は盛況ですもんね」
トレントの島のダンジョンの中層でのレベル上げが人気になったおかげで、地属性の武器の需要が爆上がりしてるもんなあ。俺もその1人なんだけど……。
地属性補正値もステータス補正値も高い武器って、バイスさんぐらいしか造れないし……補正値で言えばマーメイドクイーンさんたちの加護武器も高いけど、今のところ他の人が加護武器を造ってもらったという話は聞かない。
ちなみにクヴァーナ砂漠で採掘できるちょっと補正が強い属性鉱石……熱砂の鉱石は、火属性が+60される。トレントの島で採れる深水の鉱石と同じ補正値だから、これが属性ごとにありそうだな。キヴァナ峡谷には洞窟があるようだし、風の鉱石が採れそうだ。
それなら、どこかで地属性が+60される鉱石も採れそうなものだが……今はまだ発見されていない。
「……つーことで、暇になったらオレも連れて行ってくれよ、礼はちゃんとするからさ」
「分かりました、その時はよろしくお願いします」
……よし、次はバンシーさんのところだな。
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「あらあらコウさん、ちょうどいい所に」
「バンシーさん、帰られていたんですね」
「ええ、昨日の夜にね。あの2人も進化できるレベルになったのよ」
「「ふぇー!」」
「きゅ……」
俺が来たのが分かった途端に、進化できなかった2人が駆け寄ってくる。
前回突然抱き着いて来たから、ライアは警戒気味だけど。
俺は2人に鉱石喰らいの魔石を手渡すと、早速魔石を使って進化を始める。
「「ふぇ!」」
無事に進化を終え、2人は喜んでぴょんぴょん飛び跳ねる。かわいい。
そして俺の方を向いて頭を下げると、みんなの方に戻っていった。何か作ってるみたいだけど……?
「うふふ、あの2人も無事に進化できて嬉しいみたいね。……そうそう、お礼のアイテムを渡さなくっちゃ。ちょっと待っててね」
バンシーさんは木の根元に置いてある袋を持ってくると、俺に手渡す。
……なんか、結構重いんだけど。いったいどれだけのアイテムがこの中に……。
「ありがとうございます。……頂いたものの方が多くて逆に申し訳ないと言いますか……」
「ふふ、実は私だけでなくてみんなも頑張ってくれたのよ」
バンシーさんは少し向こうにいるバンシーたちをちらりと見る。……そっか、あの子たちも集めてくれたんだな。だからこんなに多いのか。
「コウはモテモテにゃー。ライアが嫉妬するのも分かるにゃ」
「きゅ!」
フィーリアの言葉に反応して、ライアが俺の腕に抱き着いてくる。
あのう、そんなに焚きつけないでくださいます?
「うふふ、あの子たちはみーんなコウさん好きですからね。……ところで」
「ところで……何でしょうか?」
「そちらの猫ちゃん……触りたいのだけど……」
「にゃっ?!」
「フィーリアさえよければ触らせてあげることはできる?」
「にゃ……にゃーはかわいいから触りたくなるのも分かるにゃ。しょうがないにゃあ……いいにゃ」
「ふふ、それでは遠慮なく……」
バンシーさんはフィーリアの毛並みを堪能するように優しく撫でまわしていく。
当のフィーリアは……撫でられて気持ちいいのか少し表情が緩んでいる。バンシーさん恐るべし。
「「「ふぇーっっ!!」」」
突然、作業をしていたバンシーたちがこちらにやってくる。手には……花の首飾りを持っている。
「みんなで作った首飾りをコウさんにもらって欲しいみたい。どうかしら?」
「もちろん頂きます。みんな、ありがとう」
「「「ふぇーっ!」」」
俺が首飾りを受け取り、すぐに首にかけるとバンシーたちは飛び跳ねて喜んでくれる。魔石を持ってきた甲斐があったなあ……。
「ふぇ!」
そして、1人のバンシーがフィーリアに歩み寄り……。
「この子たちもフィーリアちゃんを触りたいみたい。フィーリアちゃん、いいかしら?」
「も、もちろんにゃ。でも、お手柔らかにお願いしたいにゃあ……」
さすがに10人以上いるバンシーたちに一斉に触られたらね……。がんばれフィーリア。
**********
「よし、それじゃ頂いたアイテムの確認をしようかな……ん?」
【INFO:属性装備の変更について(予告)】
ギルドに寄ってギルドメンバーに武器を渡した後、ホームに戻ってアイテムの確認をしようとしていた所に、運営からのお知らせが入ってくる。属性装備の変更ってことは……。
「……あー、やっぱりアレのことか」
そう、更新予告はこの前掲示板で話題になっていた属性装備の不便な件についてだ。
簡単にまとめると以下の通りである。
・属性補正は【属性補正<攻撃>】と【属性補正<防御>】に分かれる
・武器は属性補正<攻撃>が、防具は属性補正<防御>が付与される
・アクセサリーにはランダムに<攻撃>か<防御>のどちらかが付与される。ただし、+と-の補正は同じ系統……例えば、火属性補正<攻撃>の+が付いたら、水属性補正<攻撃>の-が付くといった感じになる
なるほど、これなら水属性のモンスター相手に地属性<攻撃>と水属性<防御>の両立ができるようになって楽になるな。
ただ、全身を同じ属性で固めてのロマン砲が撃てなくなったのは残念なところかな……。まあ、とっつきやすいシステムの方がいいとは思うけども。
掲示板を見ると概ねシステム変更に賛成しているようだ。しかし、一部はやはりロマン砲を捨てきれないみたいだな。
なお、今まで作製されたアクセサリーについては、アップデート後に<攻撃>か<防御>のどちらかを選べるらしい。ただし、アップデート後一か月が経過しても選んでいない場合は、ランダムでどちらかに変更されるようだ。
これは悩むな……同じものを複数造っておいて、アップデート後にどちらも同じ数ぐらいに振り分けるのがよさそうか……?
「まあ、そのうちもっと補正値の高いアクセサリーを造れるようになって、今から造り過ぎると在庫になっちゃうんだろうなあ……。ほどほどにしておくか」
今のアクセサリー数でも不便はしてないしね。とりあえず、アイテムの確認に戻ろうか。
「ええと……まずは首飾りから……」
俺は進化したバンシーたちが作ってくれた花の首飾りのステータスウィンドウを開く。
【バンシーの花の首飾り:ランクA、地属性+150、風属性-150、防御+38、魔防+161、運+77、混乱・即死無効。バンシーたちが感謝の気持ちと魔力を花に籠めて作った首飾り。渡された者には幸運が訪れると言われている。多くのバンシーたちが作製に関わっているため、これを作ってもらえた人はよほどのたらs……もとい、バンシーのお気に入りなのだろう。バンシーたちの想いが籠められているため、渡された者以外は装備できない。装備制限『コウ専用』】
…………? 専用装備……?
っていうか、運営までたらし言うなや!!!!! 若干ぼかしてはいるけど!!!!!
……つ……ツッコミで疲れた……。
さておき、アクセサリーとしては破格のステータス補正値と属性補正値だし、装備するのに必要なステータスもない。装備制限はあるけど、俺としても自分で使いたいから問題はない。
……しかし、今までのアクセサリーではランクCまでしか作ったことはない中で、いきなりランクAが来るなんてなあ……ここぞという時に使うようにしよう。
……さて、次はバンシーさんたちが集めたアイテムを……と。
俺はアイテムボックスからバンシーさんがくれた袋を取り出して、中身を確認していく。
何が育つか分からない「謎の種」、ランクAの薬草、いろいろなモンスターの魔石……などなど、出てくるわ出てくるわ。その数およそ50。そりゃ袋も重くなる。
そして、袋の中で一番目を引かれたのは巻物。これってもしや……。
【陥没のスクロール:ランクS、読むと陥没のスキルを覚えることができる。とても貴重】
……やっぱり、スキルを覚えられるアイテムだ。
以前バンシーさんからバインドのスクロールをもらったことがあるけど、いったいどこで仕入れてきているんだろうか……?
まあ、あんまり詮索するのはよくないし、根掘り葉掘り聞くのは止めておこう。バンシーさんが秘密にしておきたいことかもしれないしね。
……しかし、プレゼントしたものに比べて、お礼で頂いたものの方が価値が遥かに高いというのは……ありがたいけど、申し訳なさも感じている。
また今度新しい遊具を造って持って行ってあげよう、そう思いながら飛行の練習とアイテムの作製に戻るのだった。
……なお、専用装備の項目がいつの間にかヘルプに作られていて、属性装備の変更の陰で小規模ながらも話題になっていたのを知ったのはしばらくしてからのことである……。




