キヴァナ峡谷
「……あれ? 意外とキヴァナ峡谷の探索が進んでないな……?」
キヴァナ峡谷はヴァノリモ大森林の西にある峡谷で、険しい地形に囲まれた難所である。
クヴァーナ砂漠よりも前に発見されていたけど、モンスターのレベルが高すぎて調査不可能だった地域だ。
風属性の木……風樹があることから分かるようにモンスターは風属性が多いため、クヴァーナ砂漠でペットモンスターにできた火属性の子たちが活躍できるから、攻略が進むものと思っていたのだが……。
『地形が険し過ぎる……』
『そのせいでうまく戦えないんだよな。その上で、モンスターたちはクロウみたいに自由に飛べるヤツが多いから一方的に攻撃されるし、後衛も狙われやすい。しかも鳥じゃないモンスターまで飛んでるし……』
あー、確かに俺が風樹の枝を採りに行った時に熊のモンスター以外に出会わなかったのはシルフィーさんのおかげだったんだよね。
まさか鳥系のモンスターが多いとは……そりゃあ難所にもなるか。そして、鳥じゃないのに飛んでるモンスターとは……? フライングヒューマノイドか何かか……?
『更に、比較的歩きやすい川の方は水棲系のモンスターがいるんだよな』
『鳥系などの風属性モンスター対策に火属性のペットを出してたら、水属性のモンスターで弱点を突かれるのがつらい』
『更に水属性モンスター対策に地属性のペットを出してたら、今度は風属性のモンスターで弱点を突かれるんだよなあ……』
『そもそも推奨レベルに到達していない気がするんだよな……砂漠でレベル上げするか、それともトレントの島のダンジョンの中層でレベル上げするか……』
『トレントの島のダンジョン、中層だと砂漠よりレベルが高いモンスターが出るのか?』
『ああ、ただし強さはキヴァナ峡谷と同じか少し弱いぐらいらしい。バイスのおかげで強力な地属性の武器が造りやすい分、トレントの島のダンジョンの方がレベル上げしやすいって聞くな』
『なるほど……』
バイスさんも有名になったなあ。
クールポーションのおかげで作製される装備品の質も高くなるし、現状はトレントの島のダンジョンがレベル上げに適しているかもしれない。
火属性のモンスターをペットにして、トレントの島のダンジョンで自分とペットのレベルを上げて、それからキヴァナ峡谷……というルートが最短かな。
『……ところで、属性装備について見直しをして欲しいんだよなあ』
『どした?』
『いや、例えば水属性のモンスターの相手をするじゃん? 相手の弱点である地属性の武器は使いたいだろ?』
『うんうん』
『そして、相手の攻撃は水属性で軽減したいじゃん?』
『分かる』
『でも、水属性の補正値を上げると、地属性の補正値が下がるから、地属性の武器で上がった補正値が無駄になるんだよな』
『ああ、そういえばワールドクリエイターズでは攻撃属性と防御属性で別々になってなかったな。ちょっと運営に修正キボンティーヌしてみるか』
『修正となると今まで造られた装備の修正もしないとだし、大掛かりなアップデートになるから希望は薄そうだが……』
『加護武器みたいな大幅な属性補正がある装備が増えればまた違ってくるんだけどな。オレも意見お出ししてくる』
確かにその辺は不便だなあ。俺は造る側で戦闘はあまりしないから気にしたことはなかったが……俺も意見を出してくるかな。一人でも多い方が運営を動かせるだろうし。
「……さて、俺も今はトレントの島を中心に活動してるし、中層でレベル上げをするために地属性の武器をバイスさんに造ってもらおうかな。レベル上げはしておいて損はないし」
……ということで、俺は本土に戻ってバイスさんのいるドワーフの集落、ルァイドに向かうのだった。
**********
「おう、コウか。武器作製ならちょっとばかり混んでてな、かなり待つことになるがいいか?」
「大丈夫です、そんなに急ぎませんので」
砂漠での探索が終わったから冒険の方はちょっとまったりしたいのはあるんだよね。
砂漠の素材でいろいろ試したいこともあるし、それほど急がないのは事実だ。
「そうか、それなら5日後……以降にまた来てくれ」
「了解です。……バイスさんもやりたいことがあるでしょうし、少し作業が早く進むようにこれを置いていきますね」
「ハイポーションか……いいのか?」
「はい。それと、それはブラウンが一緒に作ってくれたので、効果は保証しますよ」
「ほう……ありがたくもらっておくぜ。それなら……そうだな、そこの鉱石喰らいの魔石を持って行ってくれ。オレたちが鉱石を掘る時に邪魔だからと倒してたら、結構な量が貯まっちまってよ。コウなら何かに使えるだろ?」
俺は近くにある箱に目をやると、溢れんばかりの魔石が詰め込まれていた。
これが全部鉱石喰らいの魔石なのか……。
「ありがとうございます。それでは追加でハイポーションをもう少し置いておきますね」
「おいおい、結構な値段するんだけどいいのか……ま、コウがいいならいいんだがよ」
「ちょうどこれが欲しかったので、そのお礼ですよ」
そう、鉱石喰らいの魔石はバンシーの進化に必要なもの。
もうニアは進化しているけど、これを必要としてる人はいるからね。
**********
「あらあら、コウさんじゃない。今日も遊具を持ってきてくれたのかしら?」
俺が来たのはアラクネとバンシーが棲む森だ。
そう、鉱石喰らいの魔石を必要としている人は……。
「いえ、今日はこちらをお持ちしました」
「これは……」
「鉱石喰らいの魔石です。バンシーの進化に必要な……」
「「「ふぇ?!」」」
俺が進化という言葉を口にした途端、遊具で遊んでいたバンシーたちが一斉に近くに寄ってくる。
そして、キラキラと目を輝かせながら俺の方を見る。
「えっと……嬉しいのだけど、いいのかしら? 貴重なものでしょう?」
「いえ、魔石を手に入れる伝手がありまして。それで、大量に仕入れられたので皆さんに使って頂こうと思いまして……」
「あらあら、嬉しいわねえ。でも、魔石の対価を払えるかしら。そうねえ……身体で払ってもいいかしら?」
「きゅーっ!」
バンシーさんが身体で払うと言った瞬間、ライアがバンシーさんの前に立ち塞がる。
いや、たぶんそういう意味で言ったわけじゃないと思うんだけど。
「ふふ、大丈夫よライアちゃん。前みたいにコウさんにアイテムをあげるために、ちょっと旅に出てくるってことよ」
「きゅー……」
「安心してくれた? ……それじゃコウさん、また一週間後に来て頂けるかしら?」
「もちろん大丈夫です。それでは全員分の魔石をお渡ししますね」
俺は一人ずつ魔石を手渡ししていく。バンシーは渡されると同時に魔石を使い、どんどん進化を始めていく。
……だが、レベルが足りていないのか、進化できなかったバンシーが2人出てきてしまう。
「「ふぇー……」」
「大丈夫、今度旅をするときに一緒に行ってレベルを上げましょうね。コウさん、その時はもう一度魔石を頂けるかしら?」
「もちろんです。まだ余ってますし、いつでもどうぞ」
「「ふぇーっ!」」
バンシーの2人が嬉しさのあまりに抱き着いてくる。
ライアは一瞬対応が遅れて2人を止めることはできなかったが……小さい2人を怒ることができないのか、仕方がないなあ……という目をしている。
「はいはい、その辺にしておいてね、ライアちゃんが嫉妬しちゃうから。それじゃコウさん、がんばってアイテムを集めてくるわね」
「ありがとうございます、楽しみにしておきます」
行き先を聞いてみたいけど、あえて聞かないことで何のアイテムが来るか分からないのを楽しみにできるし、聞かないことにしておこう。
さすがにバインドのスクロールみたいに超レアなアイテムはもう来ないだろう。……たぶん。
「それではまた一週間後にお伺いします。お気をつけて」
こうして、俺は本土での用件を済ませてトレントの島に戻ろうとした……のだが。
「あ、コウじゃーん。やほやほー」
「シルフィーさん、今日も気ままな風の旅ですか?」
「そういうことー。今日はウォータースライダーに行っちゃおっかなー」
シルフィーさんも結構気に入ってるよなあ、ウォータースライダー。
……そういえば、シルフィーさんも風属性だし、キヴァナ峡谷の風属性のモンスター……特に飛んでいるモンスターの良い対処方法を知らないかな?
「ところでシルフィーさん、お聞きしたいことがあるのですが」
「なになにー? 答えられないこと以外なら答えるよー」
「実は……」
俺はキヴァナ峡谷のモンスターに冒険者が苦戦していることをシルフィーさんに伝える。
これで手掛かりがつかめればいいのだが……。
「ふーん、それならコウも飛べばいいんじゃない?」
「飛ぶ? 俺が……魔法で、ですか?」
「そうそう、この前飛んだよねー?」
「確かにシルフィーさんに連れられて飛びましたが……あれ、俺にもできるんです?」
「たぶんできるよー。ただしー、魔力の消耗が激しいけどー」
なるほど、コツを掴めば風魔法で飛ぶこともできるのか。
ただ、人間の重量ともなるとかなりのものだし、MP消費も激しいんだろうな……魔女もホウキで飛べるけど、かなりMPを消費するみたいだし。
しかし、今後の移動手段や攻略に使えると思うと、練習して損はないだろうな。
「あとはー……風の動きを変えちゃって落としちゃうとかー?」
「そんなこともできるんですか……風魔法は奥が深いですね」
「すごいでしょー。えっへん」
例えば強い下降気流を発生させることができれば、空中にいるモンスターを引きずりおろせるかもしれない。結構応用が効きそうだ。
「それじゃあ今日はサービスサービスー。島まで飛んで行くよー」
「えっ?」
瞬間、身体がフワリと浮かぶ。
そして、島の方向へ一直線に飛んで行き……。
「どうー? 感覚はわかったー?」
「はい、なんとなくですけど」
以前の飛行の時は違って、今回はかなりゆっくり飛行してくれている。
更に、風の動きが分かるようにもしてくれているようだ。これはかなり感覚的にではあるけどかなり分かりやすい。
あとでスキルポイントを使って習得できるスキル一覧に、同じような風魔法がないかチェックしておこう。
「とうちゃーく。よーし、出して出して、ウォータースライダー出してー」
「分かりました、それでは……」
俺がウォータースライダーを浜辺に設置している間にシルフィーさんは水着に着替える。……どこに持っていたんだろう。ワンピースにはポケットがないし……。
とりあえずその辺はあまり気にしないことにしてウォータースライダーの設置を完了し、タンクに水を入れて、シルフィーさんを滑り台部分に送り出す。
「おー」
「きゅ!」
シルフィーさんが滑り降りるのを見て、ライアもやりたいと俺の袖を引っ張る。
よし、それじゃあ交代交代でみんなで遊ぶことにしよう。
その後、アルラウネさんたちやマーメイドクイーンさんたちも合流し、次第に浜辺が活気づいてくる。
……そういえば、さっきのシルフィーさんの風の扱いを応用すれば、スカイダイビングなんかも楽しめそうだなあ……パラシュートはどうやって作るかとかの問題はあるけど。現実では滅多にできない遊びだし、ここでできるようになったらいいな。万が一パラシュートが開かなくてもホームに戻されるだけで済むし。
そんな新規の遊びを考えながら、今日もみんなと遊ぶのだった。




